表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/58

30話 別れ

メアリーは夜通し眠れなかった。

机の上には、アルバートから届いた手紙と、看病中に使った薬瓶や包帯が並んでいる。

心は二つの方向に引き裂かれ、答えを出すのを拒んでいた。


けれど、朝日が差し込むころには決心が固まっていた。


「……私は、屋敷に戻ります」


そう小さくつぶやき、胸に手を当てる。

あの手紙の言葉が、どうしても頭から離れなかった。



---


別れを告げるため、メアリーは応接室に向かった。

エドワードはもう旅支度を整えており、黒い外套に身を包んでいた。

傷跡の残る頬が、朝の光に浮かび上がる。


「……もう動いても大丈夫なのですか?」

「医者が許した。相変わらず心配性だね、君は」


エドワードは柔らかな笑みを浮かべたが、その瞳にはどこか諦めの影が宿っていた。


「エドワード様……」

メアリーは両手を胸の前で組み、深く頭を下げる。

「これまでのこと……私を守ってくださったこと、本当に感謝しています」


「感謝、か」

彼は一歩、彼女に近づいた。

「君は、責任をとると言ったな。あれは本心だったのかな?」


メアリーの唇が震える。

「……私には、まだ気持ちの整理がついていません。けれど、私はやはり――あの屋敷に戻るべきだと思うのです」


沈黙。

やがて、エドワードは深く息を吐き、軽く笑った。

「なるほど。やはり、君の心はすでに決まっているようだね」


「そんなことは……」

「いいんだ、メアリー」

彼はそっと彼女の手をとり、唇を触れさせる。

「君が幸せでいてくれるなら、それでいい。俺は――遠くからでも、君を守る」


メアリーの胸が熱くなる。

声を返そうとした時、外で馬車の音が響いた。

アルバートが差し向けた迎えだった。


エドワードは窓の外を見やり、穏やかな声で言った。

「行きなさい。あいつを、あまり待たせないで」

「エドワード様は?」

「私はもともと社交界に興味はないんだ。この傷のことを話したら、ようやく父が領地に戻ってこいと言ってくれたよ。だから、あちらでのんびりすごす」

「そうだったのですね。寂しくなります……」

「本当にそう思ってくれてる?」

エドワードが軽い調子で聞いてくる。

「もちろんです」

「よかった。いつか私の領地に遊びに来てよ。きっと、君も気に入ると思うからさ」

「はい……」

メアリーは涙をこらえ、深々と一礼し、扉を後にした。

背後で聞こえたエドワードの小さな呟きは、彼女の耳には届かなかった。


――アルバートに嫌気がしたら、私のところに戻っておいで。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ