29話 手紙
1ヶ月後。
エドワードの容体は安定し、彼は再び歩けるほどに快復していた。
頬には薄く赤い線が残っており、それはもう消えることはないだろう。
「……やはり、私の責任です」
包帯を外した瞬間、メアリーの胸は罪悪感でいっぱいになった。
「あなたが私を守ろうとしなければ、この傷は……」
エドワードは笑みを浮かべ、肩をすくめる。
「気にするな。君のためについた勲章だ」
「そんな風に言わないでください。私は――責任をとります」
メアリーの声は震えていた。
「責任?」
「はい。あなたが望むなら……一生、あなたのお傍で」
エドワードの瞳が驚きで大きく見開かれる。
しかし返答をする前に、ノックの音が部屋に響いた。
「メアリー様、お手紙が」
若いメイドが差し出した封筒には、見覚えのある筆跡。
アルバートからだった。
震える指で封を切る。
短い言葉が、まっすぐ胸を打つ。
――メアリー、戻ってきてほしい。
――君がいない屋敷は、静かすぎて落ち着かない。
――俺の傍で、また働いてくれ。
読み終えた瞬間、メアリーの心は大きく揺れた。
エドワードに向けた「責任」という言葉が霞んでいく。
代わりに蘇るのは、アルバートと過ごした日々の温もり。
(お坊っちゃま……私に戻ってきてほしい、と……懇願されている)
手紙を握りしめる彼女を見て、エドワードの胸に走るのは苦い痛みだった。
「誰から?」
「アルバート様からです。わたくしに屋敷に戻って欲しいと……」
(やはりな……。私が怪我をしたとはいえ、メアリーを1ヶ月も手放していたのも、そろそろ限界なのだろう。だが、アルバートに帰さないといけないのだろうか?)
エドワードは、寝る間もおしんで付きっきりで看病してくれたメアリーの姿に胸が熱くなった。
(メアリーを手放したくない……。)
しかし、彼は笑みを崩さず、静かに言った。
「……君は、その心に従えばいい」
メアリーは答えを出せず、ただ視線を落とした。




