25話 火花
メアリーの心は、ふたりの男性の間で揺れていた。
エドワードは社交的で華やか、まるで光のように彼女を引き寄せる。
一方、アルバートは不器用だが、誰よりも彼女の身を案じる強さを持っていた。
(わたくしにどうしろというのかしら……。)
中年メイド頭のメアリーに、今をときめく若き貴公子の2人がなんだかんだと構ってくる。
(おふたりとも、きっと社交界に疲れてるんだわ。日々、華やかなレディたちに囲まれて、ちょっとというか、だいぶ年上の女のわたくしなら、気負いもしないから。)
――けれど、当の本人の気持ちを置き去りにして、ふたりの対立は日に日に激しくなっていった。
「君に選ばせるのは無駄だ。メアリーは必ず私の元に来る」
エドワードの挑発的な言葉に、アルバートの眉間の皺が深くなる。
「お前のような男に、メアリーを任せるわけにはいかない」
低く押し殺した声に、部屋の空気がぴんと張り詰めた。
その場にいたメアリーは、ふたりの視線がぶつかり合う音が聞こえそうで、胸が苦しくなった。
「やめてください! 私は物じゃありません!」と叫びたいのに、口がうまく動かない。
廊下の陰でその様子を見ていたソフィアは、小さく拳を握りしめた。
(お願いです、アルバート様……メアリー様を泣かせないで。どうか、あなたの優しさが届きますように)
だが、メアリーの必死の想いとは裏腹に、男たちの火花はさらに強くなり、まるで避けられぬ運命の衝突へと進んでいくのだった。
――そして、次の休日。
ふたりの対立は、ついに決定的な出来事を引き起こすことになる。




