24話 屋敷の盛り上がり
屋敷は朝からざわついていた。
使用人たちの間では「メイド頭のメアリーが休日にお出かけをした」という噂が瞬く間に広まり、まるで新しい劇の幕開けを待つ観客のように皆がそわそわしていた。
「いったいどんなデートだったのですか?」「どちらのデートがメアリー様はときめいたの? お坊っちゃま? それともエドワード様?」
「結果はどうだったの?」
廊下を歩くだけで矢継ぎ早に質問され、メアリーは額を押さえた。
「……もう! いい加減に仕事に戻りなさい!」
けれど、彼女の胸の中でも答えはまだ出ていなかった。
午前は華やかに着飾らせてもらい、まるで貴婦人になったかのような体験。
午後は穏やかで心の落ち着く時間を、あのぶっきらぼうなアルバートと。
どちらも忘れがたいひとときだった。
(私は……どうしたいのかしら。こんな展開になるなんて、誰が予想できるだろう)
そんな思いを胸に抱えていると、背後から若い声が響いた。
「メアリー様!」
呼びかけたのは新人メイドのソフィアだった。
大きな瞳を輝かせ、頬を赤く染めている。
「わたし、ずっと願っているんです。どうか……どうかメアリー様とアルバート様が一緒になりますようにって!」
「えっ……」
メアリーは言葉を失った。
ソフィアは胸の前で手をぎゅっと組みしめる。
「だって、あのお坊っちゃま、メアリー様のことになると全然違うんですもの。いつも冷たいのに……メアリー様の前では、ちょっとだけ優しくなるんです。わたし、見てました!」
真っ直ぐな憧れと信頼の眼差しに、メアリーは居心地の悪さと同時に、不思議な温かさを感じた。
「……ソフィア。そんなこと、ありえませんよ。私はただのメイド頭。お坊っちゃまは——」
「でも、そうなったらいいのにって……わたし、本当に思うんです」
メアリーは返す言葉を見つけられなかった。
ソフィアの言葉は彼女の心に小さな波紋を残し、揺れを広げていく。
その夜、ベッドに横たわったメアリーは天井を見つめながら、ソフィアの声を思い出していた。
(お坊っちゃまと、私……? そんな未来、本当にあるの……?)
答えはまだ遠く、結果は持ち越されたままだった。