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23話 アルバートとデート

正午の鐘が鳴り終わる頃、エドワードに別れを告げて屋敷へ戻ったメアリーを待っていたのは、黒の乗馬服に身を包んだアルバートだった。

彼の背筋はまっすぐで、どこか戦場へ赴く騎士のように見えた。


「……行くぞ、メアリー」


そう言って彼女を導いたのは、屋敷の裏庭に繋がれていた二頭の馬。

艶やかな栗毛の馬にアルバートが跨がり、もう一頭にはメアリーを抱き上げるようにして乗せた。


「ひ、ひとりで乗れます!」

必死に抗議するメアリーだったが、アルバートは容赦なく彼女を自分の前に引き寄せた。


「危ないから、黙って掴まっていろ」

「……っ」


背後から回される腕、揺れる馬のリズムに合わせて身体が触れ合う。

メアリーの耳まで真っ赤になった。



森に入ると、都会のざわめきは遠く、鳥のさえずりと風の音だけが支配する世界になった。

馬を降り、アルバートは用意していたバスケットを広げる。

焼き立てのパン、チーズ、葡萄酒。

緑に囲まれた木陰での即席ピクニックだ。


「……まさか、お坊っちゃまがこんな用意をなさるなんて」

メアリーは目を丸くした。


「ふん。お前が体を壊してからだ。食事の大切さを嫌でも学んだ」

ぶっきらぼうに言いながらも、彼女の皿にパンをちぎって置く手は驚くほど丁寧だった。


二人で食事をとりながら、森の中をゆっくり散歩する。

陽光が葉を透かして揺れ、風が頬を撫でる。

どこか時間がゆっくりと流れているようだった。



やがて夕暮れ。

森を抜け、丘の上に差し掛かると、広がる空が茜色に染まっていた。

アルバートは馬を止め、静かに言った。


「……夜になれば、星がよく見える」


その言葉どおり、やがて群青の空に一つ、また一つと光が瞬き始める。

メアリーは思わず息を呑んだ。


「なんて……綺麗」


隣で腕を組むアルバートの横顔もまた、星明かりに照らされてどこか柔らかく見えた。

彼が小さく呟く。


「……お前がいると、不思議と穏やかな気持ちになる」


メアリーの心臓が大きく跳ねた。

言葉を返せずに俯いたその時、遠くで街の鐘が鳴った。

休日の終わりを告げる音だった。


(私……二人に、どう向き合えばいいの……?)


その問いを抱えたまま、メアリーの休日は静かに暮れていった。


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