22話 エドワードとデート
休日の朝。
まだ霧の残るロンドンの石畳を、エドワードは軽やかな足取りで歩いていた。
隣を歩くメアリーは、いつもの地味なメイド服姿のまま。だが、その手を取る彼の仕草は紳士そのものだった。
「今日は僕に任せてくれ」
そう言って案内されたのは、最新の流行を誇るブティック。
鏡張りの店内に足を踏み入れた瞬間、メアリーはたじろいだ。
「ちょ、ちょっと待ってください! こんな高級店、私は——」
「遠慮はいらない。今日は僕の勝負の日なんだ。君を一番輝かせたい」
気付けば次々とドレスが差し出され、靴や帽子までも。
試着室のカーテンを開けるたび、エドワードはまるで宝石を見つけたかのように目を細める。
「素晴らしい……メアリー、君は本当に似合っている」
「や、やめてください! わたしはただの——」
「いいや。君はただのメイドじゃない。僕が知っている中で一番魅力的な女性だ」
胸が熱くなるのを、メアリーは必死に押し殺した。
(ダメよ……こんな言葉、真に受けてはいけないわ)
午後近くになると、エドワードはさらに彼女を人気の洋菓子店へ連れて行った。
可愛らしい陶器の皿に並ぶ苺のタルト、繊細なマカロン、クリームたっぷりのエクレア。
店内は若い令嬢たちで賑わい、ひそひそと視線がメアリーに集まった。
「見てごらん、あのご婦人……誰かしら?」
「ずいぶんと素敵な服を着て……」
令嬢たちの憧れ混じりの囁きが耳に届くたび、メアリーは頬を赤らめた。
だが、向かいに座るエドワードは満足そうに微笑む。
「どう? 今日は少しは楽しんでくれた?」
「……ええ、美味しいですし……でも、これ以上は贅沢すぎます」
「贅沢じゃない。これは、君にふさわしい日常だ」
エドワードの真剣な言葉に、メアリーの心は大きく揺れた。
外の鐘が正午を告げる。
メアリーはカップを置き、深呼吸をした。
(次は……アルバート様。わたしはどうすればいいの?)