20.民草の心。(3)
「親が頼れないとさ、兄弟って案外仲良くするんですよ~」
玄弥の脇からひょいと顔をのぞかせ、冬司が言う。
「おお。ちっさいの来たな! ストーカー予備軍め」
反応したのは桂伍。その言い草にムッとして冬司はにらむ。
「夏生お姉さん見てると参考になりますよ~。反面教師ってやつ。ここまでやったらいけないって分かるもん」
桂伍に反論する冬司の言い草は、小2にしては大人びた言葉選びだ。晴秋はその様子に、冬司はどうやら賢そうだと感じた。
冬司は先日祖母の洋子からもらい正月に着た、深みのある赤のトレーナーを使って、黒のコーデュロイパンツに合わせていた。赤が嫌味でなく似合っている。そして、他の若鳥の先輩たちと話しに興ずる玄弥を時折見て、嬉しそうにしている冬司を晴秋は観察していた。これはまた玄弥と違った系統のイケメンに育ちそうだな、という感想と共に、もう一つの感触も得ていた。
参加する修練生がほぼ揃ったので、ちょうどソファーの晴秋の隣りに座った雪彦に言う。
「雪彦。お前さんの勘は当たってるみたいだな」
「ええ。まだ晴秋さんの側なのか、俺に近いのか不明ですけど」
つまり、しっかり同性愛者なのか、どちらも好きな両性愛者なのかだ。本人もきっとまだ分かっていないだろうし、玄弥に執着する原因は家庭問題だから、成長してみるまで明確にならないだろう。
「それじゃ雪彦。観察していてくれるかな。……先が楽しみなやつだ。賢そうだし」
「なんだか俺じゃ先がないみたいな言い方っすね。どうせ平凡ですよ~」
雪彦が軽く拗ねる。テーブルに隠れて見えないソファーに置かれた雪彦の右手に、晴秋はそっと左手の指を絡ませた。
「なに言ってんだ、雪彦。急なお願いでこれだけ修練生たち集めておいて。いい仕事してるじゃない? できるから頼んだんだよ」
前の席の桂伍や麦秋に見えないからと、やたら距離が近い。ただ、こんなところでいちゃつかれても困るので、雪彦はちょっと手を握り返してすぐ離す。
「それは誉め言葉として受け取っときます。さて、そろそろみんなの席に軽食並べます。最初の挨拶は頼みますよ」
何事もなかった顔をして雪彦は立ち上がると、各テーブルにいる修練生に声をかけ、用意してあった大皿を持って行かせた。そして本格的に、交流会が始まった。
***
「玄弥。こっち来いよ」
晴秋と話した後周囲を見回した玄弥に、近くのテーブルから声がかかる。銀河の2つ上の兄、北斗だった。今日は隣りに銀河を連れてきている。高校生になってお互い忙しいから、2人と会ったのは緑ヶ丘高校の文化祭以来だ。
「北斗さん。昨年は作戦にご協力ありがとうございました。助かりましたよ、銀河が思った以上に大根だから」
その発言にぷっと吹き出す北斗。そんな兄と幼馴染を見比べ、銀河はへそを曲げる。
「玄弥。なんだよ俺が大根って。鮎彦さんが北斗兄貴と俺を見て、北斗兄貴が適任だろうって言っただけだぞ」
「うん。……銀河はそういうからめ手の仕事は向かないからね。しっかり神子様の護衛をする方が似合ってるし」
玄弥は話題の矛先を変えようと悪あがきする。
「なんか言い訳になってないぞ玄弥~」
北斗が面白がってつっこみを入れる。銀河が玄弥の頭をもみくちゃにしようとして、玄弥が逃げる。それを周りで見ていた修練生たちが笑っていた。
「それにしても、今回現場が経験できたのは良かったよな」
「俺たちクラブ活動とかしちゃったし、忙しかったからな~」
「それにさ、なかなか高校生が手出しできる案件なんて、近場に発生しないし」
高校生の先輩たちの雑談を聞いて、玄弥は内心嬉しかった。今回の計画、鮎彦からの強引な丸投げだったが、自分が必要以上に目立ちたくはなかったのだ。だから、みんなに活躍できる仕事を計画の中に作っていた。それは、誰かに相談したことではない。そんなことをすれば、きっと嫌みなやつだと言う人が現れる。
「大山 美麗救出作戦」は北斗がメインだったが、実は美麗の元カレたちにあの日因縁を付けた集団と、救出に入った富士見工業高校の学生たちは、どちらも夢先の杜の修練生だった。因縁を付ける側は用意しなくてもきっと湧いて出ただろうが、確実にその日起こるとは限らない。だから用意するという名目で、修練生を大量に起用するように企画したのだ。
玄弥は自分も学業と修練、外神殿の資料整理で忙しさを感じていたし、他の修練生も多忙は似たようなもの。なら、実地ができる場所は欲しいはずだし、そうやってみんなが経験を積めば、自分が1人減る程度問題ではないだろう。玄弥はそんな打算をしていた。
自分はそのうち、外に出て行く。別に縁を切るわけじゃないが、あまり集落に依存しないようにしよう、などと子どもらしくないことを玄弥は考えていた。
「……な~んか、どっか醒めてるんだよな……」
ぽそっと晴秋がつぶやいた。彼は隣りの玄弥や銀河たちの騒いでいる様子を見ていた。
「誰がですか?」
意外にもそのつぶやきを拾ったのは、冬司だった。今、中3トリオはカウンターの側で、炭酸飲料の混ぜ合わせをして遊んでいる。ソファー席にいたのは、周囲の様子を見て修練生の人となりを観察している晴秋と、自分より大きな修練生たちに混ざるにはまだ小さい、冬司だけだった。晴秋は、冬司が自分のつぶやきを拾うほど、周囲に気を配っていたことに感心していた。
「いや、気のせいさ。それより冬司くんだっけ? 幼鳥には退屈じゃないかい、ここ若鳥が多いから」
「いえ、先輩たちが楽しそうにしてるの見るのも、面白いです」
冬司はそう言っているが、実の所家にいても楽しくない。弟の真澄と仲が悪いわけではないが、自分の方が年上でどうしても「遊んであげる」感覚だし、話題を選ぶ。
同じ幼鳥の修練生の友だちもいるが、放課後や休みの日まで一緒に遊ぶことが少ない。一番仲の良い戸来 牧登とは幼稚園から一緒だが、遊びの好みがかなり違う。牧登は小2になった今でもヒーローもののテレビが好きで、2歳上の兄が買った漫画雑誌を読むのが楽しみの少年だ。家門の人々に軽視されている親を見返すため、早く力を付けたい冬司は、洋子や早苗と本を読んだりする方が性に合っているし、既にヒーローは現実に近くにいるので間に合っている。




