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認定外スキルの神子は野に下る  作者: 草薙 栄


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19.逆襲の神子様(5)

 冬の夜明けは朝7時ぐらい。ちょうど緑ヶ丘(みどりがおか)へ出勤や通学で出かける人たちが動き出す時間帯。その少し前のまだ薄暗い頃に、バスの待避所へ向かうのは玄弥(げんや)だった。今日は秋金(あきかね)桃香(ももか)は一緒じゃない。彼らにも内緒での行動だ。


 待避所へ向かう林道のぽつんと灯る街灯に、玄弥の吐く息が白く見える。今日は1月15日。玄弥は高校の制服の中に白のセーター、首にバーバーリー風のマフラーを巻いて、フードのあるジャケットを羽織り、通学リュックを肩にかけていた。ちなみに擬態の眼鏡はポケットの中。普段の裸眼の姿である。


「やっぱ夜明け前は寒ぃな~。……さて」


 玄弥は林道の途中で立ち止まる。密偵としての感覚で、待避所近くにこちら側を注視している人間がいるのを察する。そろそろはじめ時だ。


 玄弥は体内から、吸い込んであった穢れを勢いよく放出し、周囲に広げていく。一気に髪の色が抜けて白く輝いた。


 先ほど待避所近くで見つけた気配以外にも、待避所裏の家の向こう側と、村へ向かう道から山へ分け入った辺りにも、放った穢れで人がいると感じ取った。そこは普段人がいない。薄く広げていた穢れを今度は、その3つの地点へ素早く凝縮させる。


「「「……!! ■■■■■~!」」」


 3方向から声にならない悲鳴が上がる。それなりに諜報活動のため訓練されているであろう連中が、本気でパニックを起こしている。なぜなら、彼らが一番恐れている物が自分だけに見えているのだ。穢れでじっくり囲い込まれ、不意打ちで負の感情に支配されてしまった彼らは、鍛えることができない本能の衝動を引っ張り出され、翻弄されていた。


 何か予兆がありさえすれば、彼らはある程度拷問にも耐えられる。だが、目に見えないものが襲い、唐突に気持ちが負の方向に振られた。これが意図的に自分たちを襲っているということにも、考えが至ることはないし、その最中では分かりようもない。そろそろ絶望感が来る頃だ。


「さて……そろそろ開放してあげようか。やり過ぎると面倒だし」


 白く光る髪を風でふわりとなびかせ、玄弥は微笑む。服装は高校生だが、まるで人ならざる者が人の形を取ったように、非日常がそこに立っていた。神力を纏った人型は、近くにいたフクロウに合図を待避所へ持って行かせて、結界を回復してもらう。


 結界が戻る感覚を察し、玄弥は即座に穢れを引っ張り戻した。すうっと髪が黒く戻り、玄弥は普段の高校生に戻っていく。と同時に、結界はいつもの強さでかかり直した。そしてそのまま玄弥は、バス待避所の待合室へ歩いていく。先ほど穢れでしばった男が、気絶している茂みの脇を何事もなかったかのように通り過ぎる。いつの間にか、日の出の時間。朝日が木々の間から差し込んでいた。


「おはようございます。ちょっと早いからバスまで待たせてください」


 待合所の引き戸を開け、玄弥は言った。村へ行くバスへその後乗る稲生(いなお)と、朝の窓口を担当する菊子(きくこ)が中にいた。


「玄弥さん、おはよう」


「さっきの神力、玄弥さんだったんですね。さすが眞白(ましろ)様の血筋、すごい神力(しんりき)量です」


 台風を動かすほどの神力量だった眞白を知っている菊子が、感心したように言う。それを聞いた玄弥は複雑な心境だ。神力量は遺伝などしないし、眞白に比較されるほど自分が優秀だと思っていないからだ。何しろ長老会は、自分を神子だと承認していない。


「あまり騒がないでください、菊子さん。今は攻撃を練習している神子(みこ)がいないから、自分がやっただけなので。それに、あくまで内密に、……ですよ」


 苦笑しながら玄弥は、指を一本口の前に立てて言う。菊子はちょっとドキッとした。夫は鳥井(とりい)の直系で結構いい男なのだが、それでも若々しいイケメンに微笑まれると、背徳的に嬉しくなってしまう。無意識に菊子は咳払いする。


「あれ、玄弥早いね~。おはよう」


「今日提出の課題、できてる? できてたらさ~、学校で教えて」


 桃香が、やっと支度したような寝ぐせのある秋金を連れ、待合所に入ってきた。


「秋金さん、桃香さんおはよう。今日も寒いね~」


 稲生が2人に挨拶する。そうこうするうち、村の方からバスがやってきた。そして、村方面へ向かうバスも到着し、出勤する集落民も待避所に集まってくる。いつもの朝の情景が戻り、何事もなかったように1日が始まった。


 ***


 穢れで恐怖に陥れられた者が目を覚ましたのは、それから1時間ほど後の事だった。定時連絡のない彼らに、彼らの上司が掛けた電話で意識が戻ったのだ。わけのわからない恐怖体験と、不機嫌な上司、両方に恐れを感じながら彼らは、体験した恐怖を電話口に語った。それによって相手側中間管理職は、アンタッチャブルに手を出していることを勘づいていたが、失敗を上へ伝えることで更に無茶ぶりされる予感がして悩んでいた。


 現場は既に心が折れている。不足している人材をまた集め、仕事をさせるには無理がある。それを理解させるのに苦慮し、管理側も疲弊した。何があったか正確に理解できた者はいなかったが、集落への侵入はとりあえず現状無理だと判断され、彼らの作戦は終わった。


 その情報がもたらされた黒幕に、夢先の杜の息のかかった大物が忠告したのは、その数日後。長老会からの脅しが、さらに威力が増したのは言うまでもない。

まだ続きます。続きも読んでくださるとうれしいです。

玄弥の成長が主軸なので、結末も決まってて脱線はあまりできませんが、「こんなエピソード読みたい(アップ済以降の部分)」みたいなご意見いただけたら踊って喜びまする(謎)。

遅筆、下手の横好きゆえ実現するかは保障できません。平にご容赦を。

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