17.星降る夜の分岐点(6)
緑ヶ丘商店街の店は、どこもプレゼントを買い足す客でにぎわっている。その通りにある滝沢洋品店も、表は客足が途絶えることなく盛況だ。今日は秋金と桃香が、特別手当が出るのを目当てにバイトで忙しく働いていた。
「申し訳ありません。そちらのピンクは先ほど売れてしまいまして。次の入荷は新年セールなんです~」
今までショーウィンドウで気を引いていた、トルソーが着ていたふわふわセーターは、今は脱がされてそこにない。ちょうど桃香は、二番人気のオレンジ色を着せ付けていたところだ。欲しけりゃ早めに動けよ、と心の中で思う桃香だが、ちゃっかり新年セールの宣伝は欠かさない。
「順番に並んでくださ~い。レジは順番取りしないでくださいね~」
今日は秋金も店の中の仕事で、レジ打ち係だった。スーパーのレジ前で見かけるような、買いたいものを入れたカゴを列に放置して探し物をする客に、さりげなく止めてと言うだけの秋金は、相変わらず強気になれない優男だ。ただ、こういう街の店には向いている。今もレジ打ちを終わった衣類のタグを外し、無料ラッピングを手早く始めた。
サンタさんの袋を模した大きな赤いラッピングバッグに、金の太いビニタイを巻くだけのラッピングだが、秋金は余ったビニタイの先端をくるっと器用に巻いて、リボン風に仕上げる。それが意外にもお客様に受けていて、桃香は若いお客におだてられている秋金が、舞い上がってるので少々気に入らない。変なところで有能だ。チッとこっそり舌打ちした桃香は裏手へ下がる。
「とっとと付き合っちゃえばいいのに……」
バックルームに戻った桃香に、裏から入っていた玄弥が言う。誰が言うんだ誰が、あたしはあんたに諦めさせられたばかりだぞ、と内心で桃香は悪態をつく。でもどうやら、それなりに心配はしてくれてるらしい。友だちとして。
「ふんっ。あいつはまあパッとしないけど、ああいう特技はあったみたいね。それでおだてられて舞い上がってんのが気に入らないだけ」
「ああ、はいはい。……あいつは彫金師や刀鍛冶が多い根津の分家だからね、きっと手先は器用だし芸術家肌なんだろうな」
「どうだか。あいつ……将来どうするんだろうね」
桃香は一応、秋金の行く末を心配している。玄弥は学者になりたいみたいだし、銀河は家業の建設業の一翼を任されたいようで工業高校へ行ったし、紅葉は神子として安泰。自分はこの店で衣料品の扱いを覚えさせてもらったから、デザイナーは無理でもファッションコーディネーターなどを夢見ている。でも、秋金が何をしたいのか、桃香には見えなかった。
「あ~。桃香も女子なんだよね。日辻のおねえさんたちによく言われるんだ。「女子はどんなに不真面目に見えても堅実だ」ってさ。桃香は秋金の将来が心配なんだね~」
「なっ、べ……つに。一応、友だちだからさー」
「いいんじゃない? 本人に訊いてみなよ。周りがみんな将来とか言い出して、言いづらいだけかもしれないし」
玄弥は桃香をなだめると、周囲を見回す。
「ね、店長は上の事務所かな?」
桃香に訊くと、肩をすくめ苦笑して彼女は頷く。
「この忙しい日にね。何か裏のことなの? まあ、私が知っても良くないから聞かないけど」
「ありがとう。桃香はやっぱり気が利くね。それじゃ……」
そう言って玄弥は2階の事務所へ向かった。ドアをノックする。
「「闇烏」です。戻りました」
そう言って玄弥は事務所に入る。今日の鮎彦は衣料品店の店長より、夢先の杜の巣の支部長の顔をしていた。
「ああ、今日は問題なかったようだね「達也」」
裏の仕事用の名前で鮎彦は玄弥を呼んだ。それに頷くと玄弥は今日の報告を始めた。
「今日、鈴木 星一氏は鈴木議員の後援会へ議員と一緒に行って、年末の報告会と食事会が行われてました。その周辺ですが、特に不審な連中は出入りしていません。さすがに真昼間から騒ぎを起こす気がなかったようですね。他の若鳥の報告では、灯里夫人は鈴木 太一郎事務所で、数人の事務員と一緒にいたそうですから、接触はなかったと」
「そうか……。それにしても、竹田議員の人員整理でこんな厄介なことになるとはな」
「ホントに。……アレがそんなに裏に影響力があるとは思いませんでした」
玄弥は少し遠い目になって言う。その様子に鮎彦があははと笑った。
「いやー困った困った。お前の言う「ド〇ケベチ〇ピラ」か。あれはとんでもない破壊力だな~。無恥が暴れるとここまで騒ぎになるんだね~」
鮎彦の言っているのは、竹田議員の秘書だった男。星一の後妻になったあやめに色目を使って袖にされ、今は元鞘に納まった灯里が竹田議員の事務所で働いていた頃は、彼女を狙っていて、わざと事務所で意地悪なことを言って顰蹙を買っていたやつ。「達也」がからかってゴミ箱へ突進させただけでは、性根は変わらないから仕方がない。
今回どうしてアレが問題になっているのかというと、竹田議員から解雇されたからだった。
竹田議員は今後、国会議員というよりは政党の要職に就くことになるらしい。そこで、地場を鈴木 太一郎議員に継がせる関係から、自分の秘書を整理することにした。優秀な者は継続して雇うが、足切り要員で飯を食わせていた例の男は、ここで解雇となったらしい。
「まあ、若造の俺が見ても、あの秘書は仕事ができるとは思いませんから、足切りしますね」
「ああ、あれはそれこそ反社に顔が効くから、問題が発生したときに動かしていたんだろうね。それが……女性問題で牙をむくとはなぁ」
「マジで笑えません……。しかも完全に横恋慕です」
あんなガキ大将のような女性への意地悪。あれでよくもまあ、あやめや灯里が自分を好きになると思えたものだ。人格の成長をどこかに置き去りにして来たとしか思えないと、それなりに悪ガキだった鮎彦でさえ思う。
「この間会合で、あの「あやめさん」は竹田議員の情報要員になると決まったらしいね。こっちルートとは今後、袂を分かつつもりかもしれんな。晴秋のところに挨拶はないそうだ」
晴秋とは、葦人の初任務で一緒だった猿田 晴秋のことだ。社長秘書からその後、東京近辺の情報収集のため、盛り場の店をいくつか経営するオーナー兼、巣の支部長に昇格した。新宿のゲイバーから銀座の高級クラブまで、杜の密偵を送り込んでいるらしい。
「へぇ~。どこまでやるつもりなんでしょうね。まあ、公安さんとはあまり仲良さそうじゃないけど。もしかして、国とも縁を切るつもりかな」
玄弥が思ったことを口にしていると、鮎彦が面白そうに目を細めて笑う。
「まあこちらが動かなくても、朝也さんのところには、おねえさん達が情報くれるみたいだからね。そこは心配してないよ」
鮎彦が言うように、日辻の長老会長の情報網は強い。まだ現役と言える。
「それより、今はあの「ド〇ケベチ〇ピラ」が焚きつけた半グレが、灯里さんや星羅さんまで攻撃しないか、ですよ。アレはまず星一氏を襲わせようとしましたけど、うまく行かなきゃ逆恨みで弱い人に危害を加える、なんて考えそうです」
「うわ。いやな感じだな。そーいうのフラグが立つっていうんだっけ? あんま言わない方が良さそうだ」
「俺だって言いたかないですよ。でも言わないと認識は共有できないでしょ?」
玄弥だってこんな不毛な話はしたくないが、少しでも考え付きそうなことは調べ、潰しておかなければ安心は作れない。
「わかった。不安点の提示は感謝する。さて……夜からの監視と護衛は、成鳥の担当だからな。玄弥は帰って大丈夫だ、ご苦労様」
「わかりました。それと……一応、星羅嬢が年末までに買い物に出るとき、荷物持ちに付けるように話しはしておきました」
本当は何も考えずにデートでもしてあげたいところだが。一応は仕事という態度は取っておく。そうでもしなければ、頻繁に会っていることでお付き合いがバレることになりかねない。
「相変わらず気が利くな。そこまで時間はかからないと思うが、連中が警察に捕まった後でも、アフターフォローだ。買い物ぐらい付き合ってやれ」
「わかりました。ではこれで」
玄弥は鮎彦の事務所から退出した。そして、家族の分で朝のうちにキープしてもらっていたプレゼントを桃香から受け取ると、クリスマスイブはこれ以上何事もなく過ぎて行った。
そして2日後、星一を襲撃しようとした連中が警察に取り押さえられ、芋づる式に例の元秘書が逮捕されたと、玄弥は鮎彦から連絡を受けた。とりあえず仕事で鈴木一家と会う必要がなくなった。でも、星羅から翌日買い出しに行く連絡をもらった。前日に父親が危険な目に遭ったこともあって、星羅は少し不安そうだったし、鮎彦から許可はもらっておいたので、堂々と星羅と買い物を楽しむことにしたのだった。
***
その年は玄弥にとって、これまでになく忙しくも濃い一年になった。実は来年も玄弥は忙しくなる。それはまだ、本人も夢先杜地区の人々も気付いていない。この1年の出来事が、更なるトラブルを連れてくる。
まだ続きます。続きも読んでくださるとうれしいです。
玄弥の成長が主軸なので、結末も決まってて脱線はあまりできませんが、「こんなエピソード読みたい(アップ済以降の部分)」みたいなご意見いただけたら踊って喜びまする(謎)。
遅筆、下手の横好きゆえ実現するかは保障できません。平にご容赦を。




