表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/51

01.望まれなかった覚醒(5)

 ***


 神子(みこ)に選ばれた人々は自宅ではなく、夢先神社の小山の西側に建つ「外神殿(そとしんでん)」に住まうことになっていた。そして、そのすぐ北隣に「長老会」の事務所を置いた「神社(そと)社務所(しゃむしょ)」がある。そこには、一線を退いた密偵や神子、各家で家督を譲ったり体調を崩して仕事が難しくなった年寄りが、持ち回りで詰めている。が、暇な者はほぼ毎日お茶を飲みに来ている場所だった。


 その外社務所の表の引き戸を開けたのは、時人(ときと)だった。


「おや、門馬(もんま)旅館の。珍しいね」


 入ってすぐの机の前から声をかけたのは寅松家(とらまつけ)の前の当主、竹一(たけいち)だ。造園業の寅松家の職人だったが、高い場所から落ちた時のけがで引退し長老会に入った。だからまだ60前である。ほぼ毎日長老会の仕事に来て、ここの事務は他のメンバーより若いからと年寄り連中が、彼に押し付けているようなものだった。


「こんにちは。今日は誰が来てますか?」


 時人は竹一に訊くと、奥の方のテーブル席で茶を飲む年寄りの中から手を振る人がいた。


「おお、何か神社に用か? それとも長老会?」


 元密偵の最古参、御年85歳の根津家(ねづけ)のご隠居、文親(ふみちか)だ。今は穏やかそうな老人だが、戦時中の任務で左腕を失っている。それでも彫金師として目が悪くなるまで仕事をしていた。血なまぐさい戦争を密偵として経験した世代なので、集落の考えに従うのを当たり前と思っている節がある。時人はやっかいな人がいる日だなと、顔には出さないが困ったと感じた。


「じいさん脅かさないでやれよ。先代と時人さんは穏やかな人なんだから」


 そうたしなめたのは、文親の向かいに座りこちらを振り向いた、文親より少し若い老人だ。彼は日辻(ひつじ) 朝也(あさや)。門馬家の西隣の家門の先代で、70代ぐらいの人だ。何代か前に門馬家から嫁に行った人がいたため、朝也の髪は門馬によく出るくせ毛で、まさしく羊のように白く波打っている。細身で穏やかそうな顔をしているがかなり強かな性格なのは、隣家門のものとして時人はよく知っていた。やっかいな老人その2だ。


「今日は、長老会に一つ報告があって来ました。」


 結果が目に見えるので時人は、引き戸を閉めるとさっさと本題に入った。


「2日前の満月の日に次男が「夢先杜の神域に呼ばれる」夢を見ました」


「ええ? あの黒髪黒目がかい?」


「そりゃないだろう時人君」


 思った通り、この老人2人は信じない様子だ。だが、時人も一応父親だ。子どもを貶されればムッとする。


「いえ。私も門馬旅館を任された者ですよ。嘘をついたりすれば分かりますが、あれはそういうものではないです」


 間に立たされた竹一が、焦ったような顔をして双方を見る。彼は長老会で一番の若手なので、親として時人の気持ちも分かるが古参2人に盾突くことはできない。


「時人君。門馬の充人(あつひと)さん達や君ら夫婦、あの子を構ってやってないじゃないか。それでどこをどう見て玄弥(げんや)を理解したって?」


 朝也が冷たい目で皮肉る。彼はこういう容赦のなさがある。


「そうさな……認めてもらいたい子どもに絆されたと? そう言われて不思議じゃないだろうね」


 軍部の連中を震え上がらせた目つきで文親が冷たく言い捨てる。


「では、長老会はこちらからの申し出は信じない、ということですね」


 時人には端からわかっていた。今日いるメンバーは最悪なのだ。前例のないことへ柔軟な人がいない。


「そうなるな。……聞かなかったことにしてやるよ。門馬のためにね」


 文親が暗に「長老会」の議題にも上げない気であると言い切った。他の老人たちもいる日ならば、それなりにとりなす人もいるのだが、今日は本当に相性が悪い。ああやはりそうか、と時人はあきらめた。


「……わかりました。失礼します」


 そう言うと時人は「外社務所」を出た。


「時人さん、ごめんな。俺みたいな若輩者じゃ盾突けないんだ」


 送り出すように出てきた人のいい竹一が、謝罪を口にした。


「いえ。……こうなるだろうって分かっていましたから。玄弥もどうやら眞白さんに言われたらしいですし」


 苦笑しながら時人は竹一が気にしないように言い訳した。

「まあこれで、玄弥が変な噂を立てられなければ、小学校に上がる頃に修練に出しますよ。竹一さんも他言無用にお願いします。あちらのお2人にもお伝えください」


 竹一にこうクギを刺したが、文親と朝也は酒の肴に話してしまうかもしれない。そうなったら門馬家として抗議しようと時人は思った。


 ***


 その後、弥生(やよい)は本館へ戻ってきた。そして、葦人(あしと)と玄弥にちゃんと関わるようになると、別館であんなにとがった態度を取っていた弥生が、不思議と穏やかな性格に戻ってきた。やはり別館の環境がストレスになっていたのだろうと、時人は思った。


 そして1年ほどして時人は気が付いた。玄弥を色眼鏡で見て関わらない外野は変化がないが、少しでも本人と関わった門馬の家門の大人は、いつのまにか玄弥に穏やかに接するように変わっていたのだ。


 色味の違う玄弥の能力か。どうやら癒しのような性質のスキルが玄弥にあるのかもしれない。時人は何とはなしにそう思った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ