16.迷惑襲来攻防戦(5)
「ありゃ~。まずいな、あいつホントに来やがった」
その様子を炎樹は、巡回中に見つけた。これは裏方でも近くに玄弥がいれば、バレるのは確実だ。逃がさなければと炎樹は内心焦る。そこに、すれ違った女子生徒に気付く。星羅だった。
「あ、鈴木さん。ちょっと」
「え? なんでしょう、鳥井会長」
アンケート調査で同行した仲なので、声をかけて不審がられることはなかった。一緒にいた友人らしき女子生徒は、先に行くと手を振って離れて行った。そこで声のボリュームを落とし炎樹は伝える。
「ちょっと急を要する事態なんだ。その……玄弥が苦手な後輩が来ているみたいで、あいつを隠さなきゃならない」
「苦手な人……ですか。その……私にできることは?」
さすがは議員秘書の娘。気遣いのできる人だ。そして、「達也」の彼女。炎樹は生徒会が予備で押さえていた、図書準備室の鍵を星羅に渡す。
「玄弥をそこに匿ってくれ。あいつは今、例の擬態した格好でクラスの補充や廃棄の裏方に回ってるんだ。1階教室だから裏方は、校庭側の窓から物を出し入れしている。今は廊下で子安くんに絡んでるんで気付かれてないが、あまり余裕がない。俺は生徒会長として騒ぎを収めないとならないんだ。頼まれてくれるか?」
「もちろんです! じゃあ急いで裏から回ります」
星羅は頷くと、スカートを翻して校庭側へ向かって行った。
「星羅さんって優しいし気が利く人だね。アンケート調査で一緒に回っただけの後輩でも、気にかけてくれるなんて」
星羅が玄弥の仕事のペルソナ「達也」の彼女と知らない翔が、炎樹に言う。
「そうだな……さて、あの騒ぎを鎮めないと、せっかくのまともなテーマで成功しそうな文化祭が、また乱闘騒ぎでダメになる」
「そうだね。さっさとあの女子つまみだそう」
本能的に夏生が問題を起こしていると嗅ぎ取って、翔が炎樹を促した。その言葉に近くにいた実行委員が動く。炎樹が行くのは取り押さえてからでいい。真打は最後に登場するのだ。
***
玄弥は何となく廊下が騒がしいと気付いていた。だが、本能的に覗いてはいけないとも感じていた時だった。
「門馬くん。鳥井会長に頼まれてきたの。すぐここから離れなさいって」
星羅が玄弥の前に現れた。もう学校内で会うつもりがなかったのに、また顔を合わせてしまった。気まずさに一瞬躊躇した玄弥の手を取り、星羅は特別教室のある棟へ外側を回って連れていく。そして、図書準備室にたどり着くと、星羅が鍵を開けて玄弥を押し込む。そして自分も入ると内側から鍵をかけた。
「……バレなかったよね? しばらくここで様子を見ましょう」
星羅が廊下の方を気にしつつ、玄弥に近寄りながら言った。
本を傷めないようにかけられたブラインドから、細い光が筋になって部屋に差し込んでいる。その光からも顔を背けるように俯いていた玄弥が、近寄った星羅を急に抱きしめた。
「なんで……こんなことに手を貸してんだよ。こんな……綱渡り。慎重な星羅のやることじゃないだろ」
その言葉は、「達也」としては自信が足りず、ペルソナがはがれかけた態度だ。先日緑山神社で、星羅の前で玄弥として紅葉の護衛になってから、彼女の前で仮面がうまく作れない。それは裏の仕事をする玄弥にとって、非常に危険な状態だった。
「だって、困ってたんでしょ? だったら、私は助けたいもの」
星羅は世話好きな人。だから「達也」が困っているなら助けたかったのだ。ただ、それだけで打算はない。玄弥の中の「達也」の心が揺れた。玄弥は眼鏡を脇の机に置くと、気持ちを「達也」に意識して切り替えた。
「それにさ……なんで鍵までかけちゃうの? 2人だけしかいないのに」
「達也」は星羅の顔を両手で支え、慣れた調子でキスをする。星羅もあっさり口を開き、深いキスを受け入れた。ガクリと星羅の脚の力が抜け、「達也」が抱き止めそのまま机に横たえる。
「今ならまだ出ていけるよ。鍵開ける?」
気持ちの乗った星羅にそれは酷だった。目の前に垂れ下がるネクタイを引っ張り、星羅は自分からキスを返す。図書準備室の鍵のスペアは職員室で、手続きをしないと取り出せない。それを知っている2人はしばらく、邪魔されない逢瀬を堪能した。
***
「こっちはとんでもなく大変だったんだけどな~玄弥」
騒ぎの元凶「迷惑夏生」を炎樹が、こっそり長老会へ連絡をつけて送り返した後、文化祭実行委員会室兼生徒会室へ、鍵を返しに来た玄弥に苦言を呈した。
「それは……ありがとうございました」
「ホントにそう思ってる?」
「もちろん。アレを集落に送り返してくださったし、見つからないように手配してくださったし、感謝してます」
「なーんか俺、余計な事したような気がしてるんだけど、なぜだろうな~」
それは多分、さっきうっかりシャツがはだけた鎖骨付近に、どう見てもキスマークに見えるあざが見えたせいだろう。今は何事もなかったかのように、しっかりネクタイを締め直し、真面目な根暗優等生している玄弥。知らん顔を決め込んでいた。
「えーと先輩。外神殿から伝言です。午後のバスで、猿渡 銀河を護衛に付けて、神子の戌井 紅葉様が緑ヶ丘高校文化祭を見学にいらっしゃるそうです。ご案内お願いします」
ぽかんと驚いた顔の炎樹に、サプライズが成功した玄弥がニヤッと笑った。ちょうど、翔が生徒会室のドアを開け、紅葉たちを案内してきた。
「炎樹……きちゃった♪」
「来ちゃった♪……じゃねえよ。びっくりするじゃねぇか」
思わず口調が乱れる炎樹。翔と玄弥は顔を見合わせくすくすと笑った。
「よ。玄弥。なんか大変だったみたいだな」
最近ますます筋肉がしっかり付きだした、銀河がいた。そして、その後ろから北斗が現れる。
「おい、炎樹。富士見工業高校から陣中見舞いだ。」
と言って、北斗は差し入れを近くにいた翔に手渡す。
「よお。夏以来だな。来週はそっちも文化祭だろ? 来てる暇あんのか?」
久々に会った同級生に、炎樹もいい笑顔で返す。こうして、玄弥の図書準備室の件はうやむやにされたのだった。その後、玄弥は裏方仕事に戻り、紅葉と銀河は幼馴染たちと文化祭を楽しみ、緑ヶ丘高校文化祭は大成功で幕を閉じた。
まだ続きます。続きも読んでくださるとうれしいです。
玄弥の成長が主軸なので、結末も決まってて脱線はあまりできませんが、「こんなエピソード読みたい(アップ済以降の部分)」みたいなご意見いただけたら踊って喜びまする(謎)。
遅筆、下手の横好きゆえ実現するかは保障できません。平にご容赦を。




