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『在野の神子』認定外スキルの神子は野に下る  作者: 草薙 栄


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16.迷惑襲来攻防戦(2)

 いつの間にか夜明け前ぐんと冷え込むようになった10月半ば。緑ヶ丘(みどりがおか)高等学校の文化祭が始まる。


 前の週は私立の梅園(うめぞの)学園で文化祭が行われたので、お嬢様の学校だった雰囲気と女子高生目当てで、男子たちが見に行ったらしい。


 クラスで誘われた秋金(あきかね)も行ったらしいが、翌日朝からうんざりした顔をしていた。なんと、玄弥(げんや)の苦手な後輩「迷惑夏生(なつき)」に遭遇したらしい。文化祭を学校見学に使う中学生は多いので、それで来ていたようだ。そして夏生は、緑ヶ丘に玄弥が通学してるのか確認してきたそうな。玄弥が通っていれば何かしら女子のうわさになると思ったようで、緑ヶ丘にそれがないから同級生だった秋金に訊いたようだ。


「俺、ちゃんと知らないって言っといたよ。桃香(ももか)と一緒に通ってるってね。それはホントだし~」


 なるほど、鮎彦(あゆひこ)が惜しいと言う程度、秋金は機転は利く男だ……うっかりだけど。ただ桃香の方が何倍も気が利くだけなので、もっと褒められてもいいのになと玄弥は思う。ひとまず秋金に礼を言って、緑ヶ丘の文化祭の襲撃に備えることにした。


 当日1日目は土曜日。校内の生徒だけで楽しむ日で、あとは他校の教諭やお偉いさんたちが真面目な展示を見学して行ったりする。だから今日の玄弥は、生徒会の展示の説明役が回ってくることになっていた。


「じゃあ今日は生徒会の展示の方に呼ばれてるわけね」


 桃香がそう言うと、周りのクラスメイト達も玄弥に、気にするなとかこっちは大丈夫と言って納得してくれていた。そして玄弥は声を潜めて桃香と秋金に言う。


「今日は生徒会の展示室なら顔出してても大丈夫だろうけど。明日はキツイぞ、「迷惑夏生」が襲ってくる」


「え? マジあいつうち見学する気? 玄弥やばいじゃん」


 小学生の時に玄弥に色仕掛けで近づいた夏生を撃退した、桃香が焦って言う。


「俺、クラスのやつに誘われて先週梅園行ったらさ、あいつ来てて玄弥のこと探ってきたんだ」


 秋金が玄弥に伝えた情報を桃香にも伝えると、本気でうんざりして顔をしかめた。


「よっしゃ。わかった。明日玄弥は裏方オンリーね」


「うん。俺「隠れ腹筋もっさり眼鏡」だし。ここは無駄遣いと言われた筋肉使うさ」


「そうだな。引っ込み思案のキャラ付けしてあるんだし、みんな違和感ないだろうね」


 集落出身3人で相談すると、それぞれ今日の準備のグループに分かれて行った。玄弥は教室を出て生徒会室だ。そして炎樹(えんじゅ)にも、自分が災厄に探されていることを伝えた。


「なんだかなぁ。あいつ修練生以外にも「迷惑女」って知られてるな~。もう集落全体で玄弥を守れってなってるし。紅葉(もみじ)のばあちゃんがあいつと親にきつく言ってるらしいけど、全然修練生として足りてないって。そろそろ降ろされるんじゃない?」


 表の住民の炎樹にまで「迷惑」の内容が流れてくるらしい。そろそろ修練不足で表に放り出されそうだが、そっちでも勉強は足りてないから、落ちこぼれギャル確定かもしれない。


「じゃあちょうどいい。明日も見つかりそうになったら生徒会展示に逃げて来い。こき使ってやるから」


「え……や、遠慮しときます~。明日はクラスの手伝いしないと、さすがに嫌われそう」


「お前のクラス飲食だったろ? 見つかりやすいんじゃないか?」


 生贄が欲しいからかと思えば、それなりに心配はしている炎樹だ。


「うち「メイド喫茶」だから女子メインだし。ご案内の黒服は少なくていいんです。それに俺、クラスだと「引っ込み思案の隠れ腹筋」だから、筋力買われて裏の荷物運びでいいらしいんで、大丈夫です」


「なるほどなぁ。よく化けてるね~」


 玄弥の化けっぷりに炎樹は本気で感心した。素顔なら接客に絶対使われる玄弥が、全く気付かれていないのは奇跡だった。


「じゃあ今日はよろしく頼む。多分、高橋(たかはし)が突っかかってくるだろうけど、彼には答えられない質問をする人が来るから、すぐ高橋の化けの皮は剥がれるぜっ」


 炎樹はウインクをしてにやりと笑う。


「なにその「答えられない質問」って。そんな大変な人来るなんて聞いてない」


「うん、言わなかったから~。言ったら逃げただろう? 玄弥」


「そりゃそうだけど……ずるいです。それならもう少し手元に資料用意したのに」


「いいんだよ、その手元に何もなくてもそれなりに返せるのが、玄弥の強みだ」


「買いかぶりすぎです先輩!」


「まあがんばれ~」


 ひらひらと手を振ると炎樹は、生徒会の学園祭実行委員の方へ行ってしまう。玄弥は策士の炎樹を見送ると、全身脱力するような長い溜息を吐いた。まあ、炎樹が勝手なのはいつものことだ。そして、開会時間が迫っているのも逃れようのない事実だった。


 ***


 毎年の生徒会企画展は、生徒たちにとって別に目玉でも何でもない。


 だが、他校の教諭たちなど自校の評判を良くしたい、生徒たちにさせる新しい企画が欲しいといった動機があったり、大学を売り込んでよい学生に来て欲しい大学関係者は、こういう落ち着いた展示に興味を示す。そのため、企画展の場所は職員入り口兼来客用入り口に近い、視聴覚教室が充てられていた。


 それなのになぜか、今年は普通の生徒の出入りが多い。鳥井(とりい) 炎樹生徒会長の人気が高く、今年の生徒会は注目されているというのもある。それ以上に、今回の展示で目を惹く物が設置されていたからだ。


「絶対見たいよね! 麗しい炎樹様」


「これは一見だって見て来た子おすすめだもんね」


 玄弥の考えた面白い企画とは、「炎樹を客寄せパンダにしてやろう」作戦であった。


 アンケート収集に協力者として参加した2年生の北野(きたの) (あい)。彼女の特技がオリジナルイラストだと分かり、ペアでアンケートに回っていた生徒会会計の佐藤(さとう) (かける)の後押しをもらい、企画展のディスプレイを頼んだ。


 今回の「緑ヶ丘市を知ろう展」は、「2つの町村が合併したために二面性のある市」だということをまず、印象深くしたかった。


 その時玄弥が思いついたのが、炎樹本人が意識していない二面性。自分では相手を分けて対応していないと思っていそうだが、彼は「誰にでも人当たりが良い」のだ。つまりそう親しくない相手の前では、社交的な仮面をつけているが、それが巧みなので嫌われている者もそう気づかない。それがアニメでおなじみのどこかの怪盗みたいだと思ったら、今回のキャラクターが湧いた。


「いや~ん。怪盗炎樹さまっていいわ~♪」


「ねねね、探偵少年の翔くんもかわいいね~」


「でさー。なんで高橋副会長はメガネしたモアイなわけ?」


「おまけに書記の真由美(まゆみ)ちゃんがさ、モアイの上に乗って周り見てるってウケる~」


「さすが。大輔(だいすけ)尻に敷かれてる~」


 いやべつに、副会長を尻に敷かせる意図はないが、聞いていた玄弥は彼に聞かせてはいけない気がしていた。また勝手に玄弥が彼を貶めているとか言いそうだからだ。受付に普段の擬態姿で座っている玄弥は、そっと周りをうかがって大輔がいないことにほっとした。そして、愛のイラストを使った炎樹の看板や、注目させたい展示に付けた生徒会役員を模したイラストが受けて、それなりに集客になっているのは嬉しかった。


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