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認定外スキルの神子は野に下る  作者: 草薙 栄


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15.外神殿のやさしい人(4)

 畳の部屋に座卓、座布団を敷いてそれを囲んで、お茶とお菓子が用意された。


「さて。みんなを呼んだのは他でもない。俗にいう「根回し」なの」


 事違(ことたが)え様が今までの真面目な凛とした表情を崩し、いたずら好きのお嬢さんのような顔をして言った。


「事違え様~。そういうのはぶっちゃけないでくださいな」


 胡桃(くるみ)が呆れて言うと、事違え様は舌を出して笑った。食えないお人である。


「あー、雅子(まさこ)さんと朱里(しゅり)ちゃんにはびっくりさせたけど、こういう人だから楽にしてね」


 紅葉(もみじ)(かがみ)親子にとりなすように話しかけた。みやびと蒼依(あおい)はいつものことと、くすくす笑っている。その子ども2人の様子に朱里も笑い、つられて雅子も緊張を解いた。


「まあ外神殿(そとしんでん)神子(みこ)のみんなは分かってるだろうけど、わざわざ雅子さんと朱里ちゃんを呼んだのは、すでに関わってる玄弥(げんや)のことを説明するためなの」


 朱里はよくわからず事違え様の方を見返すだけだが、雅子は頷いた。


「先ほど村の方で羽鳥(はとり)様が言ってました。「幼い頃は集落で誤解されていた子」だと。そのことに関係するのでしょうか」


「あらあの人、そんなこと言ってたの? まあでもあの人も今は(げん)の味方みたいなものね」


 胡桃が言った。その言葉にふふっと笑って事違え様が鏡親子に話し始めた。


「あの子は門馬(もんま)家の玄弥。集落入り口の門馬旅館の子どもだから、夢先(ゆめさき)(もり)十二家(じゅうにけ)の本家筋で本来なら、神子として何も文句のつけようのない子なの。ただ……生まれた時から黒髪黒眸。普通の日本人なら別に気にしないけれど、この集落は神子の出やすい十二家の人は皆、色素が薄いの。そのことで家庭内もこじれて、集落内でも色々言われていたの」


 朱里はじっと事違え様の話を聞いていて、いじめを受けていた自分と何か近いものを感じた。


「だから、本当に神子の覚醒があったのに、我々神子以外で信じたのは、まず一番懐いていたお兄さん。そして、報告を受けてようやく目を覚ました父親と母親。……それだけ。父親は集落の決まり通り、長老会に覚醒を伝えたのだけれど、その当時の長老会長は偏見が強い人でね、信じなかった。だから玄弥は自分で神子だとは外で一切言わないの」


「こうやってしっかり聞くと、マジ根津(ねづ)のジジイに腹立つ。……さすがに死人を鞭打つわけにいかないけど」


 紅葉が言う通り、根津 文親(ふみちか)は数年前に逝去した。それまでは遠慮して言わなかった悪口をついつい口にする。


「まあまあ……。まだましだよ。あたしはあの子が悪意の穢れを受けすぎて、爪まで黒く染まって倒れたのを祓ったんだから」


「胡桃さんが夜中に急いで出てったのってそれだっけ」


「そう。それから週1回、神力操作の練習に門馬旅館の離れに通ったよ。今もだけどね」


 みやびと蒼依は、普段そっと出入りしている玄弥があまりに自然すぎて、なぜ外に住んでいるのかなど考えてもいなかった。だから理由を改めて聞いて衝撃を受けていた。


「なるほど。玄弥さんが朱里に神力のことを神子に習うよう勧めたのは、自分の通った道だからなんですね」


 雅子は改めて、自分を説得するため言葉を選んで伝えようとしていた玄弥に、ありがたいと感じていた。


「そうだと思いますよ。そこで雅子さん、朱里ちゃん。2人とも、週1回でもここまで来ませんか? 私たち神子は長老会に止められてて、護衛が付かないと外出が難しいの。だから土曜日とか次の日が休みの時に来て、神力の使い方とか神子の祝詞(のりと)や舞を覚えてみませんか?」


 事違え様は鏡親子をお誘いした。玄弥の境遇を()()にしたようで、紅葉はちょっとずるいと思いはしたが、彼女たちには効果的だった様子だ。2人お互いを見合って考えていたが、やがて事違え様の方へ向き直った。


「私、もっと役に立つ使い方を教わりたいです」


 朱里がそう言うと、雅子も頷く。


「私は、ずっとエニシ様が中にいらっしゃったのに気づかないほど、自分を知りませんでしたから。エニシ様をお守りするにも、使い方は学びたいです」


「では、来週からいらっしゃいますか? 外神殿にお部屋を支度しますね」


 胡桃がさっさと準備の計画を話し出す。紅葉も乗り気で相談にのっている。


「というわけで、ここからは重要。「箝口令(かんこうれい)」ですわ」


 事違え様が不穏な言葉を吐いた。何事か、という顔でみやびと蒼依が見ている。


「特にそこの3年生と4年生。門馬 撫子(なでしこ)ちゃんと学校へ通ってるでしょ? そこで絶対、「玄弥お兄さんが神子」だとは言わないように。あなたたち、玄弥が来るの当たり前になっていたから知らないだろうけど、撫子ちゃんはまだ知らされていないのよ」


「なんで~? 兄妹なのに知らないの?」


 蒼依には兄弟に隠す意味が分からなかった。


「普段神子が外に出ないのは、社会的有力者に誘拐されたりしないためなのは知っているよね? それと、神子の家族は外で自分の兄弟の話はしないようにしているのも」


「それは聞いてる~」


 みやびも知っていて、親が集落の外で自分の自慢をしないのも聞いている。


「玄弥は自分に戦闘力があるから、自分が誘拐される危険は考えないでいるけれど、妹を誘拐されたら怖いと思っているんですよ。すでに兄妹一緒にいるのを当たり前に外で目撃されていて、実は兄が神子だと気付かれたら? 脅すために妹を誘拐なんて、悪い人は簡単にやるのよ」


「でもさあ、撫子にちゃんと言えばいいんじゃない?」


 蒼依は不満そうに言う。そうすれば簡単そうに見える。そこに紅葉が口をはさんだ。


「そう簡単にいくと思う? 今までずっと黙っていたのに急に教えられて、はいそうですかで済む? かなり怒りまくるよね、あの撫子ちゃんは」


 玄弥の同級生で、撫子の人と成りを知っている紅葉が言うと、みやびと蒼依はなるほど、と納得するしかなかった。強情で一度怒るとなだめるのが大変な子なのは確かだ。それに撫子は嘘が下手。馬鹿正直なぐらいで、身体能力が高いから修練生で残っているが、密偵(みってい)には向かないと思われている。彼女にばらしたら、たぶん隠すことが難しくなるだろう。


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