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14.ご都合よく歪むは人の視線か(6)

「なんとも世知辛いねぇ……。それで、(かがみ)さんはどこまでご存じか?」


 朝也(あさや)雅子(まさこ)に訊ねる。雅子はその問いに首を横に振った。


「私は今、上春(じょうしゅん)地区に住んでいますが、結婚前は如月(きさらぎ)地区の(ひいらぎ)という家の出身です。私の生家と鏡家、あと春待(はるまち)地区の柚木(ゆずき)家は、神社に近い地域なのでまだ氏子(うじこ)だった記録を代々言い伝えていますが、それも権現(ごんげん)様を祀っていたとしか……」


「それでは、朱里(しゅり)さんの力は突然変異みたいに現れたのかい? それとも時折そういう子どもがいたとか」


 朝也が雅子にまた確認した。


「先ほど申し上げた3つの家には、弱いながらも勘の良い子や占いのできる子などが、生れやすいようです。でも、朱里ほどはっきり力が出た子は珍しいみたいで、だからあの子はいつも……、仲間外れにされていました」


 子どもは正直だ。自分がなにかできるようになれば、何も考えずに周囲に自慢してしまう。微笑ましくも、残酷な自慢。ただ、それが普通は手に入らない、自分にない物を持っているとなれば、相手は羨ましくなっていじめてしまう。自分たちにはない魔法のような力があるとなれば、更に不気味だと思うだろう。ましてや3つの家以外は皆、昔の言い伝えなど忘れている。神から能力を授かるなど想像もできないだろう。


「それはさぞ生きにくいことだろうね。そこで……どうでしょう。夢先(ゆめさき)神社の神子(みこ)のところで神力(しんりき)の使い道を学ぶというのは」


「それは……そちらの神殿に朱里を預けろということですか? いきなりそんなことになると、周囲に何を言われるか……。私はあの子のトラブルでいつも相手の家に謝罪に行ったりしていましたが、そういう手がかかっても朱里は大切な娘です。急に朱里がいなくなれば、あの子を捨てたとか言われそうで、これ以上そういう悪口は聞きたくないんです。それに、なるべくあの子の近くにいてやりたい。父親も近年は家に戻らなくなってしまって……」


 雅子はいつも周囲の厳しい目にさらされている。やつれているのはその心労ゆえだ。時折意地悪をした子へやり返す朱里の乱暴な様子に、母親が娘をかわいがっていないと思い込まれて、勝手に悪く言われてばかり。そのため、娘の教育に関する話題は敏感になりやすかった。


「鏡さん。僭越(せんえつ)ながら言わせてください。朱里さんは多分、お母さまより苦しいと思います。周りは誰も理解してくれない場所で、独学で神力の操作を学んでいるので。それよりは、神力を理解している他の神子に習う方が、後々のために良いかと」


 玄弥は他の神子と違って週一回通いで神力のことを学んだ。その分扱いを習得するのは時間がかかった。理解者が近くにいるのと居ないのとは、大違いだと玄弥は思う。精神的にもその方が落ち着くのではと思いもした。


「若いのに急にこんなことを言われたんでは驚くでしょうが、こいつも幼い頃は色々集落で誤解されていた子なのでね、朱里さんのことが心配なんだと思いますよ」


 玄弥の隣りに座っていた(うしお)が、玄弥の肩に手を置きながら雅子の不安を取り除くように言う。先代の長老会長に目の敵にされたせいで、潮が初めて玄弥に会った頃は自分も誤解していたことを彼は覚えていた。


「まずは、一緒に集落で話しをしましょうかね、鏡さん。朱里さんにも早く会いたいでしょうし、あなたについてきたという白いきつね様のこともあるのでね。今日はまだ時間はありますか?」


 珍しく朝也が外部の人間に譲歩している。彼は門馬(もんま)の当主たち以上に、外部の者が集落へ入ることをいつもは警戒する。だが、どうやら緑山(みどりやま)の神社が夢先神社の分社と分かったからか、とりあえず迎え入れるつもりのようだ。


「はい、あの……最近は夫が帰ることもないですし、私は明日仕事はありませんので大丈夫です」


「では決まりだ。玄弥、鏡さん親子の部屋を本館に用意してもらうように伝えてくれ。羽鳥、外神殿にお客様をお連れすると伝えるように。私はここの先代様に挨拶してくる」


 こうしてあわただしく準備がなされ、彼らは潮が運転する車で集落へと向かった。


 いくら言っても聞かないため、ふみは玄弥が抱えて乗っている。助手席に猫がいては危ないので、朝也が前に乗り、玄弥は雅子と後ろの席に乗った。どうやら紅葉がふみに指示を出しているので、ふみは膝の上から玄弥の肩に上り、こらこらやめろと言われていながら結局、玄弥のくせ毛の上に顎を乗せるように肩で休んでいる。やられた玄弥は不機嫌だがふみを放り出さずにいた。


 その様子が、さっきまで大人びていた玄弥を年相応に見せたのか、雅子がくすくすと笑った。どうやら彼女の緊張が解けてきたようで、玄弥の頬が緩む。これであの、ハリネズミのようだった朱里も、母親が来て緊張を解いてくれるといいのに。そう玄弥は思った。

まだ続きます。続きも読んでくださるとうれしいです。

玄弥の成長が主軸なので、結末も決まってて脱線はあまりできませんが、「こんなエピソード読みたい(アップ済以降の部分)」みたいなご意見いただけたら踊って喜びまする(謎)。

遅筆、下手の横好きゆえ実現するかは保障できません。平にご容赦を。

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