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14.ご都合よく歪むは人の視線か(1)

 アンケート以外に寄り道もしたというのに、玄弥(げんや)たちの方が30分以上早く集合場所に戻っていた。おそらく世間話をする時間を取っても、今回のやり方が効率的だったのだろう。


緑山(みどりやま)地区に行った方が早いって、遠いはずなのにどうして~?」


 桃香(ももか)がげんなりした顔で言う。


「そりゃ~効率よく回ったからかな?」


 紅葉(もみじ)が言った。


「そうだね。おばあさんたちにお茶ごちそうになったし」


「あ、いいなぁ。お茶請けもあったんだろうな~」


 玄弥の答えにうらやましそうに秋金(あきかね)が応じる。腹が減っているので、食い意地が張ったことを言う。


「ああ、私たちもたい焼きごちそうになったよ」


 そう言ってきたのは、2年生協力者の北野(きたの) (あい)


「そうそう。愛ちゃんが話すとおじさんたちやさしいから」


 ペアを組んだ会計の佐藤(さとう) (かける)がにこにこしながら言う。


「そんなこと言ってる翔くんさぁ、お店のおばちゃんたちに可愛がられてたじゃん」


 この2人、とちらも人たらしだったらしい。そしてこの数時間の間にずいぶんと仲良くなったようだ。2人の会話を聞いた秋金が、たい焼き~と食いたそうな顔でつぶやく。


「愛ちゃんさ~、お店のおねえさんに書いてあげたイラスト、僕にも描いてよ」


「えー! あの絵はちょっと……まずいよ……。違う絵ならいいけど~」


「うん、それでいい」


 翔と愛は、なにやらまた別のことを話しこんでいる。


「なんだ翔。ずいぶんと北野さんと仲いいじゃないか」


 炎樹(えんじゅ)がここぞとばかりにからかう。だが、翔はからかわれているとも思っていないようだ。


「いいでしょ~。彼女すっごくイラスト上手なんだよ。今度生徒会で出すものに描いてもらったら?」


「ほおお。翔が興奮するほどとはね~。ぜひ今度見せてもらおうか」


 それを聞いていた玄弥は、展示のことで思いついたことがあり、ちょっとだけテンションが上がった。その様子をこっそり見ていた秋金と桃香がくすくす笑う。


「なになに? いいアイディア湧いた?」


 こそこそと秋金が訊く。小学生の頃のいたずらを思い出して、絶対面白いことだと期待している。とりあえずたい焼きより別の話題に食いついてきた。


「あ、それについてはまたあとでね」


 玄弥はこの場で油断しないようにしたかった。例の高橋(たかはし)副会長がどう出るか、確認したかったのだ。


「も~いいよね~。翔くんと愛ちゃんはフレンドリーだから、いい物もらったんだ~。私らなんかさっぱりよ」


 そう文句を言うのは、書記の田中(たなか) 真由美(まゆみ)だ。高橋 大輔(だいすけ)と組んだのは彼女で、消去法で残ったのがこの2人だったせい。特に仲が良いわけではないし、ただ真由美はそれなりに生徒会での付き合いがあるから、まだ大輔の扱いが分かるからだった。まあとにかくこの男、真面目で頭が固い。だから今回受け持った地域も、ビジネス街や屋敷街。真面目に礼儀正しくすれば、とりあえず失礼な態度を取られない場所だった。


「何を言ってるんだ? 田中書記。お仕事中にお邪魔するんだ、礼儀正しくするのが当たり前だろうに」


「それよ、それ! なんでも杓子定規にやればいいってもんじゃないでしょ。仕事の場だって潤滑剤になる雑談は必要よ。ほんとにもう~生真面目は役員室だけにしてよね」


 あまりに四角四面な石頭っぷりに、真由美は歯に衣着せず文句を言っている。大輔は学校での成績が良いし教師からの信頼もある。それなりにクラスメイトからも、こいつに任せておけば安心という評価があって、生徒会長選挙も推薦されている。だが次席になったのは、炎樹と違ってとっつきにくい性格のせいだった。


「高橋副会長、ありがとう。みんなが行きにくいビジネス街や屋敷街を回ってくれて。ああいうところは、俺みたいな髪色だと偏見がすごくてね。君の真面目さがありがたいよ」


 炎樹はこういうところはちゃんとしている。気分だけで判断する他の生徒たちの感想ではなく、役割分担として任せた理由を言って評価する。やっかみで人の悪口を言う連中は、炎樹を単なるお調子者だと言うやつもいるが、こういうところは上に立つことが分かっていると、玄弥たち集落の連中は思っていた。


「まあお役に立てたなら何よりです」


 良い言い方をされたように周りは思うのだが、大輔の受け取り方は微妙だ。玄弥から見ると炎樹より小物にしか見えない。表情の隠し方が下手すぎる。集落の、というか玄弥の家の特殊な事情で、人の悪意に敏感だから玄弥は分かるだけなのだが、比較対象がいない玄弥にはそれが分からなかった。まだまだ玄弥も10代、優秀に見えて未熟者である。


「あー。なんか分かってなさそう……」


 ぼそっと桃香がつぶやいた。周囲の機微に敏い女子にはそれなりに分かる。相変わらず、何? 何? とつぶやいている秋金は残念だった。


「さて。こんな場所でたむろってると邪魔になるし、夕方遅くなってきたし。……大輔は予備校あるんだったな。今日はみんなお疲れ様。解散する」


 炎樹が今回の調査の終了を告げて、解散を促したが、そこで軽微な問題があった。


「じゃあアンケート結果回収します」


 玄弥がそれぞれのグループからアンケートを集めだした時だった。


「いや、それは生徒会の展示用だからこちらで回収でしょう?」


 大輔がいきなりしゃしゃり出た。


「何言ってんのよ! これは生徒会が彼らに委託した調査。彼らがやってくれるから、秋の忙しい運営側の仕事に専念できてるんじゃないの。時々優先順位間違うのってわざと?」


 真由美がきっぱり言い捨てた。真由美は大輔が、玄弥たち1年生に色々と任せていることを嫌っていると、薄々気づいていた。だが、この嫌がらせはやりすぎだと思っている。くぎを刺そうと物申すと、真由美は持っていた用紙を玄弥に渡した。


「高橋くん。仕事は自分でやらなきゃならないものもあるが、任せられるものは任せるものじゃないかな。俺はこの件、1年生3人でやれると思って任せたんだ。高橋くんは自分で一所懸命やる人だからずるいと思うのかもしれないが、社会に出ればこういうものだと思うよ」


 炎樹が大輔をけん制するような言い方で止めた。炎樹には多分、大輔は「自分たちの仕事を任せっぱなしに気が引けると思っている」、と見えたのだろう。ただ、玄弥は彼の執着が功を焦るものだろうと感じていた。


「大丈夫ですよ、高橋先輩。俺たちは協力者として展示は作り上げますから。公開は生徒会として行われます」


 暗に自分の名前は出ないよと、大輔に伝える玄弥。その様子に紅葉はイラっとしたが、これは後で炎樹に伝えようと思っていた。そんなトラブルの中、秋金と桃香が動いて他のグループの用紙を回収し終えていた。


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