13.都合の悪いことはいつも隠されるものです(6)
そんな話を続ける3人だが、それを見ているだけになってしまった星羅は退屈だった。ふと、境内に生える杉の木が気になり近づいた。ご神木だったのだろうが、枝打ちする者もいないはずがきれいにまっすぐ育っている。そして手を伸ばした時、玄弥は気付いた。
「星羅! 触っちゃだめだ」
びくっとして星羅は手を止めた。
「来たわね? 任せなさい」
紅葉が神子の顔で宣った。
「炎樹先輩。これは神子の仕事です。鈴木先輩を連れて離れていてください。俺は護衛で残ります」
「分かった。行くぞ鈴木さん、退避だ」
「え? どういうこと?」
「急いで! 後で話す」
炎樹が星羅の手を引いて境内から出た。そして、察しよく紅葉が見えない場所へと連れ去ってくれた。未だに強い神力を持つ神子が現存するとは、無関係の者に見られるわけにいかない。そこは十二家本家の息子、分かっているので察しが良かった。
「玄弥。私の「遠見」ではあの樹上以外に不審な者はいないけど」
「そうだね。殺気に近い不快な視線はそこからしかしないよ」
どうやら隠れている相手は、神子に敵対心があるらしい。紅葉は神子として祈祷を学んでいるが、元から持つ力の傾向は戦闘に向かないので、かなり緊張をしていた。
「大丈夫、紅葉。俺がやるから」
玄弥が一歩前に出る。そして体内に、廃神社だから周囲に漂う穢れを吸い込むと、一気に樹上へ槍のように細く伸ばした。
「ぎゃっ」
上から落ちて来たのは、子ぎつねだった。と、思ったらば、急に輪郭がぼやけて人間の子どもが倒れていた。どこにでもいそうな、小学校低学年の女の子に見えた。
「え? 何? 変身?」
「違うよ多分。幻覚、幻影の類じゃないか? この瞬間で、体の形が組み変わったようには見えないし、そこまで行くともう妖怪」
「玄弥、女の子に失礼よ、妖怪とか」
紅葉が苦言を呈する。確かに倒れた子どもは、生徒会書記の田中先輩のような、純和風のお人形のような風貌。ただ色味は、夢先杜地区に生まれたかのような茶色がかった髪だった。
「さて……どうしましょうかね、紅葉様」
「それ嫌み? 自分で昏倒させたくせに」
面倒を丸投げしようとする玄弥の発言に、紅葉が文句を言う。だが、玄弥がどうやってこの娘を倒したかを訊かれると、長老会と成鳥の守長に神子だとバレてしまうのだ。ここは紅葉がやったことにするしかない。ただきつねを倒しただけなら問題なかったが、子ぎつねが人だったのは想定外だった。
「ごめん、紅葉。ここはひとつ」
玄弥は真面目な顔をして、紅葉を拝み倒した。
「仕方ないわね~。まずは私が神力で外神殿に様子を伝えるね。多分すぐ、引継ぎの成鳥が来てくれるでしょ」
「じゃあ炎樹先輩に状況だけ説明する。星羅にここに来られたらまずいだろ?」
玄弥は携帯で炎樹に連絡を入れる。状況を説明するとかなり焦っていたが、星羅には取り繕った説明をしてくれるようだった。
そしてタクシーが2台やってきた。前の1台に乗っていたのは鮎彦だ。
「店長。ずいぶん忙しく使われてますね~」
「なに言ってんだ玄弥。お前が行くところに事件が起きてるんじゃないか?」
「人をどっかの頭脳だけ大人の小学生探偵みたく言わんでください」
「まあそれは置いといて。……その意識不明者が神子の末裔の可能性があるってことか」
1台目のタクシー後部座席に拘束した状態で寝かした、意識不明の女の子。木登りをしたり地面に倒れたせいで、少々薄汚れているが、特に健康に問題もなさそうだった。
「そうです。だからとりあえず一度、外神殿へ連れて行こうかと。他の神子たちを交えてこの子と話しをしたいので」
紅葉がこう説明すると、鮎彦は頷き1台目のタクシーの助手席へ乗り込み、夢先の杜集落へ向かった。もちろん、鮎彦と同乗してきた成鳥が、周囲の住宅の調査に向かっている。襲撃してきた子どもの事情はすぐ分かるだろう。
2台目は、炎樹と星羅も含む4人を緑ヶ丘駅前へ送るタクシーだった。もちろん運転手が成鳥なので、玄弥は普段の擬態姿に戻り助手席に座る。後部座席に納まった3人も終始無言だった。
その中で星羅は、自分の知らない世界が自分の生きるすぐ傍にあると、実感していた。きっと鳥井生徒会長や「達也」は、表向きの説明はしてくれるだろう。だが、真の説明はないのだろうと気付いていて、それをなんとなく寂しく感じていた。自分はどう足掻いても、「達也」の本当の信頼は得られない。恋する気持ちは溢れているのに、なぜか終わりの気配が忍び寄った気がして、星羅は身震いをした。
まだ続きます。続きも読んでくださるとうれしいです。
玄弥の成長が主軸なので、結末も決まってて脱線はあまりできませんが、「こんなエピソード読みたい(アップ済以降の部分)」みたいなご意見いただけたら踊って喜びまする(謎)。
遅筆、下手の横好きゆえ実現するかは保障できません。平にご容赦を。