13.都合の悪いことはいつも隠されるものです(4)
「よっしゃ、分かった。じゃあ「平川地区」の方が広いから、そっちに6人行ってもらう。そっちのまとめ役は高橋副会長、頼めるな? 俺は紅葉の身体が弱いから、静かな「緑山地区」をやらせてもらう。それと門馬、山側の方が癖強な年寄りが多いから、こっち来い」
炎樹が有無を言わさぬ勢いで仕切りだした。もちろん、紅葉に変な虫が付かないようにという、溺愛炎樹の手回しだ。それに、神子の外出に修練生が護衛するという決まりもある。
「あと1人どうするかな。……鈴木さんは「平川地区」の出身だよね。違う地域の様子を見てみるかい? 地元を知るなら」
「はい、そうさせてもらいます。よろしくお願いします」
炎樹がさりげなく余計なお世話を焼いた。玄弥は「達也」の時以外、星羅と会いたくなかった。作り込んだ修練生「達也」の人格と、擬態を解いた普段の顔の玄弥は、炎樹には分からないが全くの別物だ。玄弥が「達也」を作った理由を知っている紅葉は、炎樹がまた余計なことをして、と少し機嫌を損ねてじろっと炎樹を見ていた。
それぞれのグループは駅から川向こうの山側「緑山地区」と、駅周辺から広がるこちら岸「平川地区」とに分かれ、街中の商店の近くや集会所など、人がつかまえられそうな場所に移動し始めた。炎樹はタクシーを当たり前に止め4人乗り込むと、「緑山地区」へと向かった。
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「鳥井先輩、ちょっと……」
タクシーを停めさせた公園で全員降りたところで、玄弥は炎樹を呼び止め隅へ連れて行った。紅葉は分かったとばかりに星羅へ声をかけ、世間話を始めていた。
「なんだよ玄弥。まだ擬態解かないのか」
「そのことなんですが……」
くるっと振り返ると、玄弥は炎樹の方を眼鏡の奥からじろっとにらんだ。
「先輩は知らないから仕方ないですけど、単に擬態を解いた状態と仕事で人と接する時の「水沢 達也」は、全く違う性格にしてあるんです。だから高校生の姿で、鈴木先輩に会いたくなかった」
玄弥の苦しそうな表情を見て、炎樹は早まったことをしたのに気が付いた。さっき紅葉が自分の方をにらんだ理由はこれかと合点が行ったが、今さら取り返しがつかない。
「すまない玄弥。鈴木さんを呼んだのは軽率だった」
「まあ、星羅は普段俺がこういう姿だということまでは知ってるので。……ただ、性格までまっさらの時と違うのは知らないから、今日は擬態状態を解いたら「達也」になります。普段と違う性格なので、先輩たちは戸惑うと思いますが、仕事のこともあるのでそうさせてもらいます」
「分かった。あとで紅葉にも伝える」
「それから……さっきのタクシーですけど、あれ成鳥の先輩の表の仕事姿です。だからタクシー内で、星羅が「達也」の彼女だって話しは絶対しないでください。「長老会」と成鳥の守長に知られると、俺の立場がやばいので」
思わぬ伏兵に、炎樹はぞっとした。玄弥はいつもそういう「監視」をされているようなものなのだ。覚悟をして「修練生」を続けている中で、外に彼女を作り、しかも仕事で関係もあった相手だとは、絶対上にバレてはいけない事。その事実に炎樹は、今更ながら集落の裏仕事をする大変さに気付き、玄弥は自分と違う世界の人間だと感じた。少し知っている程度の他人が軽率な行動をとると、彼の立場が危うくなる。それを分かった上で付き合う必要があると、実感した。
「分かった……ホントにすまない。俺が甘かった。今後はちゃんと相談する」
「そうしてもらえると助かります」
玄弥はフッと表情を和らげた。玄弥も表の人間の炎樹に無理を言っているのは分かっている。「集落」の十二家本家の人間だから、玄弥も炎樹に物申すのだ。ただ、あまりきつく言いたくもない。だからこの辺で放免することにした。
***
「待たせたね、2人とも。見に行く場所がいくつかあるから打ち合わせたんだ」
炎樹はそう言って紅葉と星羅の居場所へ戻った。その後ろを玄弥はまだ擬態をしたまま付いて行く。そして徐に伊達眼鏡を外し胸ポケットへ入れると、髪をかき上げて姿勢を戻す。「達也」の完成だ。内面に暗示をかけるルーティーンで、玄弥は「達也」になる。
「お待たせ、星羅。この2人は俺の事情を分かってるから。平川地区に行った人たちと合流するまでだけど、今日は「顔出し」するね」
「達也さん……」
優等生の星羅が、恋する乙女の顔になった。頬を赤く染め、嬉しく浮き立つような気分を感じながらも、人前だから恥ずかしい。そんな表情で微笑んだ。確かにかわいい。そう「達也」は思った。でも、付き合いだしてしばらく経つが、自分の心の中に小さな違和感を感じている。それが何によるのか、「達也」も中の玄弥も分からなかった。
でも今は、たいしたことではない。「達也」はよそ行きの笑顔で星羅に手を差し伸べた。
「う……っわ。別人」
「うん、確かに別人だ。あれは」
後ろで見ていた紅葉のつぶやきに、炎樹も同意した。無駄にキラキラしていやがるな、とお嬢様のふりをした紅葉はおくびにも出さないが、違和感を感じていた。
「ああいうの……女子って憧れるのか? 紅葉」
炎樹は紅葉の感想が少し気になって訊いてみた。
「ははは……。まあ、初心な女子なら引っかかっちゃうね~。ああ、夫に期待できなくなった奥様たちにも受けるか」
などと答えた紅葉だったが、実際のところ炎樹だって無意識に外面良くすると、似たような笑顔を作る。知らぬは本人ばかりなり、だ。
「さて、さっさと最初の聞き込み場所に行くぞ~」
炎樹は気を取り直して、3人を本来の用事に促した。
***
まず最初に彼らが行ったのは、小学校近くの広場。下校途中の子ども達がよく、寄り道をして遊ぶ場所だった。
炎樹は「緑ヶ丘高校生徒会長」の肩書をこういうところで出し惜しみしない。あらかじめ高校から小学校へ協力要請を出してもらい、さっき炎樹は小学校に挨拶に行ってきた。小学校側からは「何人かメンバーを集めるから学校で」と言ってきたらしいが、そんな大人に見張られた場所で子ども達が素直に語るわけがない。そこは丁寧に断り、この広場で子ども達に接触する許可をもらったのだ。もちろん、学校関係者がさりげなく離れた場所で監視するのをお願いもした。




