13.都合の悪いことはいつも隠されるものです(3)
「なあ、今日は生徒会役員も参加するって、ホントなのかな」
玄弥がこう言うと、紅葉が乗ってきた。
「炎樹がそう言ったんだから、面倒でも連れてくるんじゃない?」
「う……そうなるとずっと擬態は解けないか~。めんどい」
普段の日は放課後、滝沢洋品店の裏で息抜きさせてもらっている時間なのだが、今日は時間がないのでそのまま、緑ヶ丘駅前に来てしまっていた。
「玄弥~。手分けしての行動になるならさ、俺と桃香が生徒会のメンバーにくっつくから、紅葉のフォローしてやってよ。そうすりゃ擬態外す時間も作れるだろ?」
玄弥の様子を心配した秋金が言う。彼にしてはずいぶんと考えられた話しに、桃香と紅葉は驚いた。これまでの秋金は周囲が何を言っても気が利かない男で、桃香がいつもフォローしていた。その謎の成長ぶりに、桃香と紅葉は顔を見合わせどういうわけかと首をひねった。だが、やってきた炎樹によって根回しが誰であるか、玄弥には分かってしまった。本人の名誉のために言わなかったが。
「やあお待たせ~。今日は文化祭の生徒会企画の協力ありがとうな~。紅葉、学外からだからうちの生徒会は初対面だよな、紹介する」
どう見ても炎樹はうきうき。集落の後輩にはもちろん、役員連中にも分かった。
あの美麗によるアタックを避けるため、炎樹は役員など近くにいる生徒に紅葉のことを喜んで語っていたので、彼らは鳥井生徒会長の彼女はどんな人か見たくてたまらなかった。それが今日会えるというので、彼らは「完璧大好き生徒会長」の相手に多大な期待をして来ていた。
「初めまして。鳥井 炎樹の婚約者、戌井 紅葉です。家の事情で通信制高校の1年生に在籍しています」
そして期待以上の美少女の仮面をかぶったぶっ飛び神子は、しっかり彼らにはお嬢様に見えていた。
「戌井さん、今日はよろしくお願いします。3年生で副会長の高橋 大輔です」
炎樹よりも肉付き良く中肉中背という感じだが、いかにも優等生のようなしっかりしたタイプの副会長だった。生徒会長選挙に推薦され立候補し次席で副会長となっただけあって、中身も優等生だ。ただ炎樹の、時折ぶっ飛んだ自由さで周囲を驚かすようなタイプと違って、品行方正でお堅い印象があった。銀縁の眼鏡をしている姿もそれを助長しているようだ。
「よろしく、戌井さん。僕は佐藤 翔。会計をやってる2年生」
何やら見た目がふわふわ感のある、かわいい系男子が挨拶した。生徒会ではマスコット的な人気を誇る彼は、かわいいものが大好きだ。見た目もごつさのない中性的な姿なので、かわいい男子が好みのおねえさん達に受けがいい。
「ええと……、私も2年生で書記です。田中 真由美といいます。鳥井会長の彼女さんってどんな人なのかうわさになってたんですよ。こんなきれいでかわいいお嬢さんだなんて、会長もやりますね~」
唯一の女性役員は、小柄な人だった。黒い肩までのストレートヘアで、色白の日本人形のような外見だが、おしゃべりが大好きで、挨拶だけでもどんどん話しかけてくる。紅葉としては壁を作られるよりありがたかった。
「田中先輩。そりゃ~中学では炎樹先輩の圧がすごくて、誰も紅葉に手を出しませんでしたから」
「そうそう、未だにラブラブですからね~」
秋金と桃香が田中書記の言葉に引き寄せられて軽口をたたく。
「こら。余計な話しは要らんて。……こいつらは知ってるよな。子安と猪目、それから今回の企画のベースを作った門馬。俺と同じ中学出身の1年生だ」
玄弥たち3人は、それぞれ役員たちに向かって軽くお辞儀をした。その時玄弥は高橋副会長の視線が、自分を見て不快そうに細められたのを見逃さなかった。おそらく彼は年齢的上下関係にこだわるタイプなのだろう。玄弥が炎樹に頼られているのが気に入らないようだ。集落の修練生ならこういう裏の感情は、表に出さない。普通の高校生は、こんなものなのかと玄弥は感じた。
「それと……今日は広い市内に散らばってもらうから、人手をあと2人連れて来た」
役員と玄弥たち1年生だけだと、男5人と女3人。少し偏った人数だったからだろう。炎樹が頼んだのは女子生徒だった。1人は例の美麗にパシリにされていた女子。撫でつけても元気にアホ毛が飛び出す茶髪のくせ毛をカチューシャで留めて、制服のブラウスの上にベストを着た彼女は、丸いぱっちりした目をした元気な子だ。
「この間までさぼりすぎちゃってました、2年生の北野 愛です。今回がんばったら先生が評価点くれるっていうので、ぶっちゃけ点数稼ぎですが、がんばりますのでよろしく」
そしてもう1人。
「今日はよろしくお願いします。2年生の鈴木 星羅です。父が政界に関わる仕事をしているので、私ももっと地元を知りたいと思って今回参加させていただきます」
炎樹の目が意地悪く玄弥の方をチラっと見たのは、他の連中に気付かれなかったようだが、玄弥はしっかりサインと見た。全く余計なことを、と玄弥は困ったが表面は取り繕った。
「じゃあ門馬。今日やることを説明してくれるか? お前が企画なんだから」
炎樹が玄弥に促した。とりあえず真面目に玄弥は説明を始めた。
「今回の文化祭テーマ「地元を知ろう」に沿って、1年生3人図書室で資料を集めました。それによるとこの緑ヶ丘市は、もともと2つの全く違う特徴の町が合併したことが分かりました。緑ヶ丘市出身の方には当たり前の情報ですが。なだらかな山に近い「緑山地区」と、平野の街道沿いに開けた「平川地区」」
今回のメンバーで地元出身は愛と星羅だ。2人は玄弥の説明に頷いた。
「……そして調べていると、この2つの町が河の両側で風習や祭りも違ってて、地域同士での交流があまりないようなのが気になりました。それがなぜなのか、お互いを知ったらもっと交流が増えるのか、アンケートを取ってみようと思って、今回集まっていただきました」
玄弥の話しを他の9人は真面目に聞いた。もちろん含むところのある高橋もだ。もともと生真面目な性格ゆえに、人にダメ出しされるような行動はしない人物だった。
「10人がそれぞれ10人のアンケートを取れば100人。年代や性別もそれぞれ話しをする相手に得意不得意があると思うので、2人ずつ組んで地域を分けて回ってもらいたいんです」