11.お嬢様のお悩みと訳あり男子の邂逅(7)
「達也」も顔を真っ赤にして返事をする星羅が、かわいく見えてドキッとする。正体を明かさない約束を取り付けたのに、「達也」は星羅と知らぬ顔をして過ごすのは止めたくなっていた。「達也」は星羅の瞳を覗き込みながら、心の中で踊りだす気持ちを押さえつけて提案する。
「ねえ星羅。高校卒業まで付き合わない?」
「え……? なんで? ……どうして?」
さっき口止めされたばかりなのに、学校の生徒たちや「彼の叔父さん」にバレるのではと、星羅は不安だ。「達也」の方針変更の意味が分からず、疑問を口にする。でも確かに「達也」に会えて嬉しかったし、密かに関心はあったから、渡りに船でぶっちゃけ、星羅は返答に期待している。
「だってさ、星羅は秘密を知ってるんだよね~。だったらさ、誰かに言わないようにこっち見ててもらわなきゃ」
「達也」は建前を口にする。すると星羅がちょっと残念そうな顔をした。
「え~? それって脅し?」
「達也」の中の玄弥は言い方を間違えたと焦る。プライベートで女性経験が少ないから、こんなところで失敗する。星羅に興味があるのだ。日辻のおねえさん達の授業を思い出せ、と玄弥は「達也」として星羅を口説く。
「ちがうちがう。これは建前。ホントは俺、見つけてくれた星羅がすっごく気になるんだ~。なんで気付いてくれたのか、ちょっと期待しちゃう」
そこはそれ、助けてもらった日から会うたびに観察してたからです、とは星羅も正直に言えない。
「そんな……たまたま、だよ。じっくり見てたから、気が付いたとかじゃなくて~」
星羅、気付けば思いっきり見てたのを暴露していた。それならばと「達也」は、押すところなので手を緩めない。また少し、距離を詰めてささやく。
「それじゃ、俺も星羅のこともっと知りたいなぁ。ね、……彼女になってよ」
どうやら耳元でしゃべる声に星羅は弱い。やっぱり星羅は真っ赤になって俯いた。そんな星羅を「達也」はかわいいと思う。玄弥ではまだ慣れない女子の扱いは、「達也」ならどうするかで考察して行くしかない。こっちが主導権を握って、うんと言わせるにはどうしよう? 「達也」だったら少し強引に行くかもしれない。
「星羅。……こっち向いて」
「達也」が優しい声で促す。星羅も黙っていては何も伝えられないと、そっと顔をあげる。星羅をじっと見ていた「達也」と目が合った。「達也」は壁についていた手を放し、星羅の両肩に触れる。
星羅は「達也」の視線にふと思う。これ、キスでも来る感じ? そういえば、中学の頃に付き合った彼氏と別れてから、キスなんてご無沙汰だ。星羅は期待しつつ、恥ずかしくなって目を閉じた。
その星羅の様子に「達也」の中の玄弥は焦る。これってやっていいってこと? 中身は手探りの初心者、でも場慣れしているように装った「達也」は、勇気を出すことにした。
「達也」は、ちょっと首を傾げ唇を星羅の唇にそっと押し付ける。玄弥としては日辻のおねえさん達と練習していたが、外で他人とするのは初めて。そして、練習と違って、なんだか気分が高揚する。ただ、唇同士を付け合っただけのことなのに、気持ちが良くなってしまう。
「やば……なんだろう、星羅と相性が良すぎる……」
「……」
星羅の方ももちろん、離れがたいような感覚があった。口にするのが恥ずかしいから、無言でそっと、「達也」のシャツの裾を握る。星羅の反応に、「達也」の中の玄弥は、これで良かったようだと安堵した。
「じゃあ……星羅、お返事訊かせてよ」
「……いいわよ。付き合う。でも……何て呼んだらいい? お仕事のことは高校の生徒は知らないんでしょ?」
星羅がさっき見た成績優秀者に書かれた名前は、違ったようだったので。
「ん……そうだね。星羅とは「水沢 達也」が付き合うから。デートは学校に関係ない所でしよう」
「え? じゃあ、学校で会っても話せないの?」
「そうだね。でも……秘密がバレないようにするのって、ちょっとドキドキしない?」
ちろっと舌を出し悪だくみをしている笑顔で「達也」が言う。その笑顔も本人は自覚がないが、女性がコロッと騙されそうな顔だ。その笑顔を見た星羅は、「達也」に冷たくされて高校生活を送るとなったら、耐えられないと思い始める。
「ずるい……。でも、まあ事情があるんだよね。仕方ないか……」
「すぐ察してくれる星羅は賢くて好きだな」
「調子いい! 仕方なくそうするだけだからね! ……でも、なんで卒業までで区切るの?」
星羅が疑問を口にすると、玄弥は少し寂しそうな顔をする。
「そりゃ~住む世界が違い過ぎるからさ。星羅はお父さんを支える側に行くだろう? 俺は、ああいう後ろ暗い仕事が多くなるから。会うのも難しくなるよ」
始まったばかりで終わりを予想している「達也」が、星羅には悲しく見えた。だけど付き合いを続けていたら、何か変わるかもしれないと、星羅は一縷の望みを持とうと思った。
携帯でお互いの連絡先を取り交わすと、「達也」から戻った玄弥は擬態して階段を下って行った。しばらく待って星羅も屋上を出る。屋上=暑いと思う学生が多いからか、来るものはおらず誰かに見られることなく階段を下る。好奇心で追いかけたら、高校生活で初めての彼氏ができてしまった。星羅にはまだ驚きと戸惑いが大きいが、さっきまで感じていた何かが足りない気持ちが、いつのまにか納まっているのに気づく。
「達也」と星羅はお互い、学校内で知らない者同士のようにふるまい、こっそり会うスリリングな高校生活が始まった。




