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12.それぞれの夏休み(1)

 玄弥(げんや)の高校1年生の夏休みは、休み前から続いて多忙だった。


(げん)兄ちゃん。今日は何するの?」


「今日は「外神殿(そとしんでん)」で1日集落史の資料整理」


「明日は~?」


「高校の友達と筋トレグッズの店見に行く」


「……明後日は?」


「仕事のアフターフォローで出る」


「……ち~っとも遊んでくんない!」


 門馬(もんま)家の兄弟は年が離れている。上2人は既に20代と高校生。まだ小3の撫子(なでしこ)は、忙しい兄たちに構ってもらえずふてくされていた。玄弥も兄は5歳上であまり構ってもらった記憶がないし、祖父母や父母は自分となかなか距離が縮まらなかった関係で、構われなくても仕方がないものだった。だから正直、この年になった撫子とどう付き合えばいいのか分からない。思い出すのは、自分の悩みを葦人(あしと)に聞いてもらった事ぐらいだ。


「悪ぃ、撫子。俺今本気で忙しいんだ。ごめんね。村の夏祭りぐらいなら、行けるかもしれないけど」


「つまんないからいい。それくらいなら銀河(ぎんが)兄ちゃん誘う……べぇ~だ」


「……なんでそこで銀河選択するの? 桃香(ももか)お姉ちゃんは?」


「だーって桃香ちゃん、最近バイト忙しいんだもん……いいもん、私いっぱい友達いるもん」


「ごめんなぁ。俺、あんま女子の遊び分からなくって。誰か付いて行く必要があったら言ってね」


 そう言って廊下に出たところで、母 弥生(やよい)にばったり会った。


「玄弥……最近忙しそうね」


「はい。撫子に付き合えずすいません」


「あ、ち、違うの。無理して遊べとかそういうことじゃないから」


 5歳までほとんど離れて暮らした母と息子は、未だに距離感がうまくつかめない。玄弥は母にかなり冷たい対応をしてしまったことに、母の反応で気付き悪かったと思った。


「母さん。ごめん。俺の態度悪いよね」


 少し前から星羅(せいら)と付き合うようになり、玄弥も女性に気を遣うことが事務的から自然に変わってきていた。前までは突き放してしまったと思っても、そのまま母を放置して出かけていた。


「ううん。私も言い方が悪かったから。……優しくなったね、彼女でもできた?」


 女親ならではの勘の良さか、弥生は玄弥がドキッとすることを言う。家族に秘密を作るようで辛いが、弥生は修練生の経験もない一般人だ。周囲のおばさん達とうわさ話で自分に彼女がいるとか言われると、星羅とのことに足が付く。ここは沈黙は金だ。


「まさか~。俺が女子苦手なの知ってるくせに。これは日辻(ひつじ)のおねえさん達のおかげだよ」


 そう言ってお茶を濁す玄弥。その様子に弥生はうんうんと微笑んで頷き、玄弥の言い分を信じた様子だ。


「じゃあ。今日は外神殿にいますから」


「ええ、行ってらっしゃい」


 玄弥は今日の予定通り、外神殿で資料を見ることにした。


 ***


 「玄弥~進んでる?」


 資料室にひょっこり顔を出したのは、紅葉(もみじ)だ。昼過ぎの眠気がさす時間に、麦茶とお菓子を差し入れに来ている。普段と違ってなぜか胡桃(くるみ)が一緒に覗きに来た。


「ありがと紅葉。この時間集中途切れるから」


 幼馴染や家族など近しい人にしか見せない、油断した笑顔で玄弥は返事をする。すると紅葉と一緒に来た胡桃が玄弥に話しかけてきた。


「玄弥、最近仕事に出たそうだけど。大丈夫だった? あなたの苦手な女子関係の仕事だったらしいじゃない。うちは息子たちが成鳥(せいちょう)で動員されて、玄弥が高校生側をメインで仕切ったって聞いたからさ~」


「え~? 玄弥、高1なのにもうそんなことやってんの?」


 紅葉が驚いて訊いてくる。


「成り行きだよ。これ、炎樹(えんじゅ)先輩も関わってるから。政治家や公共事業とかの問題に、高校生の問題が絡んでたんだ。だから実際に高校に行ってる俺らが関われって、鮎彦(あゆひこ)さんに押し切られた」


「ああ、緑ヶ丘の洋服屋かあ。あいつ元気? 私らより一回りも下のくせにやたら人をからかうやつでさ~。「悪童」って感じだったの」


 胡桃が鮎彦の昔を暴露した。嫌っているわけではなく、それなりに認めているような口ぶりだ。胡桃は出産時期や子育てで時々、外神殿の外に出る許可をもらっているから、外部との接点は多い。


「ずいぶんこき使われたんじゃない? 大変だったね~」


 胡桃はまだ玄弥が小さかった頃の癖が抜けないのか、玄弥の頭をよしよしと撫でている。それを玄弥が特に避けたり文句を言うことなくされるがままなので、紅葉はちょっとびっくりしたが、まあこういう師弟関係なのかとスルーした。


「う~ん、(げん)の髪の毛ってふわんふわんだねぇ。へっへへ」


「師匠、触りすぎないでねぇ。色抜けちゃうでしょ、師匠の神力(しんりき)じゃ」


 紅葉の持ってきた麦茶を飲みながら、さすがに気になるのか胡桃に文句を言う。胡桃が「(はら)いの神子(みこ)」だから、玄弥は吸い込んだ穢れで染まっている髪から色が抜けるかもしれない、と指摘したのだ。


「や~ねぇ。そんなことしないって。ただ気持ちいいから触ってたいだけ~」


 胡桃はまるで猫の毛並みをなでるように、愛おし気に撫でる。その発言を聞いてふと、玄弥は胡桃に訊いてみたくなった。


「ねえ師匠。その触ってると気持ちいいってさ、キスとかでもあんのかなぁ」


 その発言に初心な紅葉が赤面する。炎樹とのデートはそんなに機会がないせいか、炎樹が紅葉を大事にし過ぎなのか、キスも本当に数えるほどで頬などにするのが多い。玄弥の言うキスが唇と本能的に気付いてさらに意識してしまう。


「も~ちろん。身体的相性がいい相手とかね。私ら神子の場合は、相手が神力を受け取りやすい体質だと、気持ちよさ爆上がりするみたい」


「ふ~ん」


「てことは玄弥。そういう相手に会った?」


 確信を持った胡桃が質問の形でぶっこんで来る。さすがは師匠だと玄弥は思うが、修練生として生きるつもりなのでその辺はガードする。


「ふふふ。内緒~」


 玄弥は悪魔の微笑みでけむに巻く。胡桃と紅葉は自分がフリーだったらヤバかった、と視線を逸らす。


「まーたこいつは。中坊に上がってから変な色気付きやがって」


「何言ってんですか。顔は親譲りだから仕方ありませんよ」

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