11.お嬢様のお悩みと訳あり男子の邂逅(6)
2026/02/05:読んでくださった方の感想を基に、自分でも違和感のあった所を修正しました。(6)が、(6)・(7)の2話に改訂です。
納得が行かない。というか、何かが足りない気がする。美麗が転校して平穏が戻ってきたし、あの3人やクラスメイトとも穏やかに付き合い、冗談も言い合えるようになったが、少しだけ寂しいと感じている星羅がいた。
夏休みに入る直前の緑ヶ丘高校の校舎内。今日はテスト休みが終わり、結果を渡される日だ。各教室で1時限ごとに違う教科担任が、答案を返して正解の導き方の解説があり、さきほど休憩ホール脇の掲示板に、成績優秀者の名前が張り出されたところだ。
「星羅さん、きっと上の方じゃない?」
「そうだよ。誰かさんに時間取られてないからさ~、今回期待できそう」
「一緒に行こうよ。ねっ」
例の3人が星羅に話しかけ、勢いで連れ立って見に行くことになった。
掲示板、2年生の表を見ると、珍しく星羅の名前が載っていた。今までは10位に入るか入らないかで、載っても小さめの文字で下の方。それが、今回5位に入ったらしい。堂々と上位者の大きな文字で掲示されて、見に来たのが少し恥ずかしくなり、視線を周囲に逸らした。その時、視界の隅に1年生の集団が目に入る。
「やっぱすげえな玄弥! 1位だぜ~。俺の幼馴染最高!」
「そうね~。その人にみっちり教わってんのに、なんで頭に入んないのか疑問よ、秋金」
「そーれ! そっくりそのまま桃香に当てはまんだかんな~」
「や……やめて。恥ずかしいから」
隣りの同級生が1位だという男子の肩をたたいて喜んでいる。反対隣りに立つ女子も彼の1位を本当に喜んでいるらしい。なんとも微笑ましい1年生たちだ。周囲にいる男子たちも、ちょっと猫背で自信なさげな彼を認めているのか、ポンッポンッと頭や肩をたたいて賞賛している様子だった。
その様子をぼんやり眺めていた星羅だったが、ふっと彼の髪に目が留まる。「達也の髪もあんなくせ毛だな」と。そして、もさっとした感じに見えるが意外と形の良い顎、猫背にしているがどうもしっかり鍛えてそうな体形。もしかして、もしかするかも! と、内心の動揺を抑え一緒に来た3人の話しを聞き流していた。
「ちょ……ちょっと息苦しいから。屋上行ってくる」
そう言って1位の1年生が、こそこそと階段の方へ去って行った。確かめるなら今だろう。星羅は3人に、1人になりたいからと言ってそばを離れた。
階段にはもう誰もいない。星羅はそのまま階段を上り、3階の上の屋上の扉を開けた。梅雨明けした熱気がぶわっと肌にまとわりつく。そして遠くに積乱雲が見える青空が広がっていた。この暑さでは校庭を見下ろす柵付近に寄り付く人はいそうにない。星羅は周囲を見回し、日陰になる給水塔の脇を回り込んだ。
「達也さん……だよね?」
給水塔の影に黒い癖毛の1年生を見つけ、星羅は声をかける。話しかけた相手は、ふっと小さく笑った。
「あー見つかっちゃったか。さっきの様子でバレたかなと思ったんだ」
「なんで、普段そんな恰好しているの?」
「分からない? 色々注目されるのって疲れるでしょ。星羅さんも」
玄弥は伊達眼鏡を外して胸ポケットに差すと、姿勢を元に戻して髪をかき上げる。星羅の知っている「達也」が笑っていた。星羅は、校内で自分が彼の正体を知っている特別になったみたいで、ひそかに喜びを感じていた。
玄弥は表に出さないが、入学前に支部で「これをやっても、騙されないような相手がいたら、それはそれで嬉しい」と言ったことが、現実になって驚いてた。バレたのが嫌じゃなかったことも我ながら不思議で、それよりも、擬態を見抜いた彼女なら、本当の自分を見つけてくれないかな、とも思っていた。
玄弥は幼少期、家の中で親からは空気のような扱いだったし、学校に上がって修練にちゃんと参加すると、手のひらを返したように大人たちに話しかけられた。誰もが自分に付いているレッテルや、取り繕った表ばかり評価する。兄の葦人以外では、同級生の4人や師匠の胡桃なら玄弥に普通に接する。だが、しまい込んでいる素直な玄弥は、彼らでさえ捉え切れていないだろう。
「私に言っちゃっても良かったの? 多分叔父さんに注意されるんじゃ……」
「へえ~。素直に「バレました」なんて言うと思うんだ~。言うわけないでしょ?」
そう言いながら玄弥は星羅に近付き、両手を壁に付き閉じ込めるようにして視線を合わせる。星羅は目のやり場に困ったが、どこにも逸らせない。
「これはさ……2人だけの秘密ってやつだよ。言うわけないよね星羅も……お父さんの知り合いの手を借りて美麗を放り出した、なんて」
「ずるい……私が知らないところで話がついてたのに」
「それはそれ。周りにはどっちが先かなんてどうでもいいし」
そう言うと玄弥は、星羅の耳元に顔を近づける。
「ね……誰にも言わないよね?」
そう耳元でささやかれ、星羅はぞくっとした。なんで自分は1人でここまで来たのか、危険な場所に足を踏み入れてしまった、後戻りはできないと直感が告げる。
「わかった……わかったから」
そう言うしかない星羅だった。




