09.憧れと夢とその先は(6)
玄弥は自分に溜まった穢れを倉庫の中へ放った。昨日村外へ行った分大量に穢れを取り込んでいたから、ちょうどよかった、と玄弥は思う。そして、玄弥の髪は白金に光る。胡桃と練習をした時よりも思い切りよく穢れを多く放出した分、髪の色味も更に抜けた。
「玄弥? その髪……」
さすがの紅葉も腰を抜かさんばかりに驚いた。先見様は少し目を見張ったが、ほおほおと感心して眺めている。胡桃から玄弥の練習のことは報告を受けているから、実際に見た驚き以外はさほどないと、装っているのだ。
「さて、5分ほど経ったので……」
今度は放った穢れをあっという間に吸い込んだ。髪の色も黒に戻って行く。
「これで大丈夫。埃は取れないけれど、虫は動かないでしょう。あとは見つけたらゴミ箱で掃うだけですね」
玄弥はにっこり笑いゴミ箱を持つと、明かりのスイッチを入れて入って行った。今日は資料を見ると言うより書庫掃除が先と、玄弥は考えた。紅葉が我に返ったように、はたきと踏み台を持って付いて行った。
***
なにか含むものがある目をして先見様は、神子の集まりだした広間を見る。
「胡桃さん?」
そして、玄弥の師匠を呼んだ。胡桃は何も気にしていない様子で、すたすたと先見様の元へ来た。その胡桃に、先見様はこっそり訊ねた。
「ちょっとちょっと。玄弥の神力どうなってるの?」
「ああ。修練組は中学になると体が大人になるのよね~。そのせいで神力が多くなっても不思議じゃないわ」
先見様が意外なものを見る顔をして胡桃を見た。
「外神殿は婚前交渉なんてタブーだもんねぇ。私は息子たちがいるから修練組のことも知ってるけど~ふふふふふ」
「く~る~み~? 報告は正しくしてほしいんだよ、私としては。神子たちのこれからを考えるのにね」
「ま~ぁ、先見様ったらご存じなかったのね~。神子を守る側は早く大人になる事」
先見様は確かに、何事も先を見通すと思われていて、結婚した神子たちの神力が上がることも認識していた。だが、それを深く考えていたかというと、慣例と神子の置かれている不自由な世界の常識にとらわれて、外の世界で生きる神子の生活がどうなのかまで、考えが及んでいなかった。そこに気付いた先見様は、まあちょっとだけ恥ずかしいと思ってもいた。そこを胡桃にいじられたので、素直になれない程度にまだ若い心を持った彼は、胡桃に文句を言ってごまかしたのだった。
「お前様。胡桃さんにやり込められてしまわれたわね~」
胡桃が他の神子たちの所へ戻って行ったのを見計らったかのように、事違え様がやってきて夫をねぎらった。
「ああ、そうだね。残念ながら、私は外神殿のこと以外は常識がないようだ」
「それは仕方のないことですよ。私たちは用がないと、ここから出られないんですものね」
「いやそれはまずいだろう。私は神子のために正しい道を探し出して、示さないとならない立場だ」
責任感だけは昔から人一倍ある先見様だ。それをよくわかっているのは妻の事違え様だった。だからそこでムキになる彼のことも理解していた。だからこそ、そこで事違え様は言う。
「だけど、全てを1人でやろうとするのは、愚かなことですよ。それに適した人は必ずいますし、自分でできなくて落ち込む必要なんてありません。私もいるんですよ」
そう言って、1人で背負い込もうとする先見様を事違え様は止める。先見様は事違え様の言葉で、妻の心映えにまた嬉しくなってしまう。先見様はそっと事違え様を抱きしめる。周囲がいつも知らん顔するようにしているが、本当にこの2人は仲が良かった。
その様子を見た玄弥と紅葉が、気を遣って書庫から出られなかったのはご愛敬であった。
まだ続きます。続きも読んでくださるとうれしいです。
玄弥の成長が主軸なので、結末も決まってて脱線はあまりできませんが、「こんなエピソード読みたい(アップ済以降の部分)」みたいなご意見いただけたら踊って喜びまする(謎)。
遅筆、下手の横好きゆえ実現するかは保障できません。平にご容赦を。