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08.大人の階段の上り口(5)

このページR15ですので嫌っている方はスルーでどうぞ。

まあ必要あって書いてますのでご承知おきくださいませ。

「あらあら。ずいぶん威力が増しちゃったのね~。鏡見てごらんなさい」

 

 と、胡桃(くるみ)は離れの部屋備え付けの姿見を指し示す。

 

「げ……」

 

 穢れを放出しすぎたのだろう。玄弥(げんや)の黒髪が今は白く輝いていた。

 

「なんで? 俺の髪白くなった⁉」

 

 よく見れば瞳も黒味が減って父に似た薄茶色に見える。一瞬、戻らなかったらどうしよう、と玄弥は考え狼狽えていた。今の姿なら外神殿に入れるかもしれない。だが、友達と自由に外を出歩ける今の暮らしを手放せない。十二家(じゅうにけ)神子(みこ)として認められるかなど、 玄弥はもう不要だと感じていた。

 

 そしてしばらくすると、徐々に髪と瞳は黒く戻っていく。玄弥は内心ホッとした。

 

「玄弥。それ、穢れで黒く見えるみたいね。人里なら誰かしら人が穢れ吐きだしてるから、色が落ちることなさそうだけど」

 

 黒かったのは穢れを吸い込んだ色だったのかと、玄弥自身驚いていた。

 

「師匠。人ってそんなに穢れ吐いてるの? 俺が黒髪になる程出てるわけ?」

 

「そうねぇ。多分普段は薄いものでしょうね~。玄弥がいつも体に穢れを少し貯めてるから、全部吐きださない限り髪や瞳は黒いんじゃない?」

 

 胡桃は自分の事ではないのでかなり楽観的に言う。玄弥のスキルは有史以来夢先(ゆめさき)(もり)に出たことがない。だから全て憶測かトライ&エラーで調べるかで、答えを探すしかないのだ。

 

「相変わらず師匠、いい加減だよなぁ」

 

「まあ悩め悩め! 新しいことに挑戦できる機会は、探してもそうそうないよ~」

 

 玄弥はその日、胡桃の指導で何度か穢れの無害化に挑んだが、まだ成功はしなかった。そして穢れを体外へ吐き出し過ぎたのか、髪色が灰色のまま今日の指導が終了した。

 

 ***

 

 門馬旅館の離れから胡桃が帰り、室内をある程度掃除して片づけると、玄弥は旅館の庭に出た。髪の色が薄くなってしまったので、家族以外の従業員に神子の指導を受けているのがバレないよう、人がいる場所に近寄って穢れを吸い込もうと思ってのことだ。

 

 その日は新月に近い夜。月は宵には上らず、暗い夜空に今にも降って来そうな星が光っていた。明かりの少ない集落ならではの美しい星空だ。

 

 まだ夜は肌寒い季節だが、神力指導で疲れた体には夜風も心地良い。まだ色が薄い髪を風になびかせ、築山の裏から庭の中へ出た時だった。

 

「え? ……幽霊?」

 

 人の声がして玄弥が振り向き見やると、旅館の庭に面した窓辺で、この旅館に来る中では若手の部類の男女が、庭を見ていた。年が行っていても30代か。おそらくメインの客の連れ。玄弥は彼らだったら程よく穢れを持っていると推測した。さっき声を出したのは男の方だ。

 

 玄弥の髪はまだ神力(しんりき)の名残りで薄っすら光っていて、周囲は星明りのみで薄暗い。ぼうっと光る様子に幽霊と思って不思議ではないだろう。男の狼狽えぶりに玄弥はふっと苦笑する。

 

「……うっ」

 

 客の男の隣りにいた女から、思わず声が漏れ出た。と同時に、膨大な量の穢れが女から発せられる。女に今の光景は、「星明りの中振り向く光を纏った美少年が、自分へ微笑んだ」と見えていた。それがトリガーになった。今までの鬱屈した負の感情が、自分に微笑んだ美しいものを欲しいという欲求を目覚めさせ、隠れた不満が噴出し穢れが放出されたのだ。

 

 女は、今投宿している主人の世話係兼愛人。主人は今、集落内のスナックで地元の女性たちのお酌を受け鼻の下を伸ばしているが、どれだけ興奮してもほぼ不能だ。女が働いていたソープで相手をした時、ただ一度、主人が珍しく勃った。それだけで主人は、身の回りの世話をする使用人として自分を雇い、夜の世話までさせている。だが、その後主人は満足に女を抱けていない。

 

 女にもやりたいことがあり、今の境遇に満足していない。金で性的な相手として買われたこと、その相手をしても自分の欲求は満たされないこと、そんな生活には年齢的期限があると知っていること……等々。美少年の笑みを見た瞬間、我慢していることが馬鹿馬鹿しくなった。「欲しい物を欲しいと言って何が悪い」と、女は自分を解放する欲求に正直になりたかった。

 

「あやめさん? ……どうしたの? 体調悪い?」

 

 呻いて俯いた女を気遣うように、隣りの男が声をかけている。玄弥は今のうちにと、女の出した穢れの一部を引き込み、さっさと暗がりに姿を隠して自宅へ走る。

 

 玄弥は自分の行動が今、女の反応を引き出したと気付いた。今まで寄ってくる女性は逃げるしかないと思っていたが、立ち回り次第でけむに巻くこともできる。そうだ怖がってるだけでは克服できない。普通の女子はこれまで通り避けるが基本だろうが、任務で出る時は自分を餌に使えると分かった。これは玄弥が任務で、時に大胆に動けるきっかけになった経験だった。

 

 一方、玄弥の笑みでブレーキを失くしたあやめという女は、欲求に忠実になっていた。気遣った男は主人の秘書をしている彼の甥っ子で、子どものいない主人の跡を継ぐだろうと期待されている。あやめは主人が甥に会社を継がせるのを見越し、先に「自分の主人」を乗り換えることにした。彼女を気遣って近寄った秘書の腕を引くと、そのまま畳にもつれるように倒れ込む。

 

「ちょっ……まずいよあやめさん!」

 

「なにがまずいの? あの人は別の場所でお楽しみなのに? それに……知ってるんでしょ? あの人が不能だって」

 

 あやめはそう言うと、反論しようとする秘書の口を口で閉ざす。夜の仕事で培った手練手管はあっさり甥を篭絡した。あやめは後に十二家の調査員たちと会うことになるが、それはまだ先の話。

 

 夢先の杜集落の春の夜は、それぞれが様々な思惑を抱え、表向き平穏に更けて行った。

まだ続きます。続きも読んでくださるとうれしいです。

玄弥の成長が主軸なので、結末も決まってて脱線はあまりできませんが、「こんなエピソード読みたい(アップ済以降の部分)」みたいなご意見いただけたら踊って喜びまする(謎)。

遅筆、下手の横好きゆえ実現するかは保障できません。平にご容赦を。

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