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08.大人の階段の上り口(4)

このページR15ですので嫌っている方はスルーでどうぞ。

まあ必要あって書いてますのでご承知おきくださいませ。

 大型連休に入る前日、4月最後の金曜日。午後初めて玄弥(げんや)銀河(ぎんが)日辻(ひつじ)の料亭の2階に呼ばれた。先輩たちに聞いていたが、本当に1人ずつ個室に入れられ、旅館で着るような一重の浴衣を着た日辻のおねえさんが待っていた。


 玄弥は相手の女性が普段、好奇心で自分に寄ってくる女性たちと同じ雰囲気だったら、何もせず回れ右するつもりでいた。ところが明音(あかね)という大人は違った。なぜこれをするのか理由を言ってくれたし、精神的にきつかったら延期できると言ってくれた。ここまで丁寧な扱いを受けるとさすがに、玄弥も明音を信じようと態度を改めた。玄弥も人の子男の子だ。自分の身体や異性の身体に興味がないわけではない。


 玄弥はシャワーを浴び、明音と同じような一重の浴衣姿になった。明音の丁寧な手ほどきで玄弥は、自分の身体が素直に刺激に反応できることを知り、その日彼の身体は大人になった。


 玄弥がここへ来るまでの着衣に着替え、2階から料亭の裏に隠れた通路を出ると、銀河が待っていた。玄弥が声をかけると銀河は、少し落ち着かなげに目を泳がせて言った。


「あのさ……。お前ちゃんとできた? 女が触るの嫌いだったろ?」


 銀河は玄弥を心配していた。玄弥たちが小3ぐらいまで、彼らをかわいいと寄ってくるおばさん達や、学校のおませな女子が近づくと、真っ青になっていた玄弥をずっと見て来たのだ。幼稚園から一緒の友達だから、銀河は玄弥が傷ついていないか気になり待っていた。


「うん……大丈夫だった。今日教えてくれた人、ちゃんと話しを聞いてくれたし。俺の外面だけでほしがる連中と違ったからさ。まあ……俺だって興味ぐらいある」


 少し赤面した玄弥が銀河を見やって言うと、銀河も顔がにやけてしまう。お互いいたずらが成功した時のような、人の秘密を覗いてしまったような、ちょっと気分が高揚した感じでへへへっと笑いだす。そしてじゃれるように2人小突きあって夢先(ゆめさき)神社のある盆地中心の丘へ、競争するように駆け出した。 もうなんか笑うしかない感じで、大きな声で笑いながら走って行った。


 ***


 翌土曜日。玄弥は旅館の離れで胡桃(くるみ)神力(しんりき)指導を受ける日だ。小1になる春にあったトラブルの後、師匠の胡桃の指導は毎週続いていた。その日も夕飯後の時間、玄弥は1人で旅館の離れへ向かった。


 門馬旅館の離れは、本館の客室から眺められる日本庭園を挟んで、築山の陰に隠れた裏門近くの塀沿いにあった。その中で玄弥が待っていると、胡桃がやってきた。


「玄弥~お待たせ。1週間ぶりだね~」


「師匠。今日もよろしくお願いします」


「ん? なんかいつもと違うね……」


 胡桃は玄弥の雰囲気が少し変化していると感じた。なんとなくだが、これまでより心に余裕のあるような佇まいで、離れの畳の上に正座している。


「あ! そうか。中学生になったから……そういうことか~」


 胡桃の子どもたちは皆玄弥より年上で、修練に参加している。なので事情を知っているから、にやっと笑うと1人で納得していた。


「師匠……なにが「そういうこと」ですか? 勝手に納得しないでくださいよ」


 気味悪げに胡桃を見て玄弥は不機嫌に言う。


「え~だってねぇ。あんな小さかった玄弥がさ~、もう大人の男になったなんてねぇ。お赤飯だわ♪」


「え? なんで神子の師匠にバレてるの? どっから?」


 玄弥は赤面して狼狽える。誰かが漏らしたとして銀河だけだが、銀河はそんなことしないはずだと玄弥は思う。銀河は赤の他人に初エッチしましたなんて言う馬鹿じゃないし、自分の親にも恥ずかしくて言えないだろう。


「おばさんを舐めんなよ中坊。私は玄弥より年上の子どもがいるの忘れた? 全部知ってるんだから。……いや~文字通り一皮むけたわねっ」


「胡桃様……言い方露骨すぎ!」


「ごめんごめん。怒んないで」


 胡桃は慌てて玄弥をなだめた。


「それはそうと……。多分、神力ももう一段階開放されたと思うよ。今日はそれを見てみましょう」


「神力にも関わるの、これ? 神子の先輩たちには聞いてないけど」


「そりゃ~神子は結婚するまでほぼみんな童貞と処女じゃん。知ってるのは、私みたいに配偶者がいる神子だけ」


「うわー。また露骨すぎー」


「「先見様」と「事違え様」は知ってるけどね~。神子の結婚が難しいのは知ってるでしょ? 未婚の神子がそれ知って焦ったり、結婚した神子に嫉妬して外神殿がぎくしゃくするの嫌でしょ。あえて言わないの」


 などと言いつつ、師弟はすぐに今日の練習にとりかかった。


「今日は次の段階に進めましょう。玄弥は穢れを吸収して吐きだすまでは完璧。今度は穢れを無害化……浄化できるか、ね。まあ吐き出せば玄弥自身が飲み込まれる危険ないけど、たぶん周囲に必要なのは無害化だから」


「無害化できたかどうやって分かるんですか?」


「神力を体内で感じるのは一緒でしょ。あとは未知の能力だから~。……自力で何とかしなさいなっ」


「ええ? 師匠横暴~」


 とは言いながらも、玄弥は体内の神力をいつものように集中して感じ取る。


「え……なんだろ……増えた? ……」


 感じ取った神力は、いつもよりはるかに多かった。いつもを1としたらおよそ10倍か。普段よりも扱いが難しいほどの圧力がある。玄弥は慎重に体内にある穢れを無害なものにするようイメージして、神力で包むようにした。だが、うまく行きそうだと感じたとたん、暴発するように穢れをはじき出してしまう。


「ん……方向性は間違ってないんじゃない? 多分練習していくとできそうね」


 胡桃は今のやり方を見ていて弟子にそう言った。玄弥も神力量が上がった分調整が難しくなったが、慣れれば行けそうだと手ごたえを感じていた。その時、漂う穢れが薄れた玄弥を見て胡桃が言った。


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