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08.大人の階段の上り口(3)

このページR15ですので嫌っている方はスルーでどうぞ。

まあ必要あって書いてますのでご承知おきくださいませ。

 自分は部活するかどうか。そう思いながら玄弥(げんや)はつぶやいた。銀河(ぎんが)が先に炎樹(えんじゅ)のDIY部に決まってしまった。なんなら図書委員でもやるかと考えながら、みんなが眠気に困る午後の授業を受けていた。


 ***


 中学生になると修練に参加している子ども達は「若鳥(わかどり)」に上がる。そうなると、先輩たちから聞いていた通り、新しく講義を受ける日ができた。人心掌握術や誘導などの人間関係のテクニックや、性的な勉強の時間だ。日辻(ひつじ)家の料亭は昔、神子の力を借りに来るお偉いさん相手の妓楼だった名残で、1階はふすまを取り払うと大広間になる和室数部屋と厨房などに改装したが、2階にいくつもの個室を備えた建物だ。そのまま和室も残しているが、いくつかホテル風の洋室に改装している。その2階が2週おきの金曜日の放課後、10代の若鳥たちが成鳥(せいちょう)から講義を受ける場になっていた。


「ママ、今年は「若鳥」に進んだの2人だけ?」


 日辻のおねえさんの1人、羽鳥(はとり) 明音(あかね)が言う。彼女は成鳥の守長(もりおさ)、羽鳥 (うしお)の妹で、日辻の女性調査員ではベテランの方だ。普段は日辻の商店街のスナック「ストレイシープ」のちいママをやっている。今はそのスナックの準備中。指導員として若鳥の中学1年生への指導が始まるため、おねえさんたちの話題はそのことで持ち切りだ。


「そうらしいね。今年の中1は5人だけど、男子の1人と女子の1人は小1で適正なしだったし、あと1人の女子は神子だから」


 明音に答えたのは、「ストレイシープ」のママ猪狩(いのかり) ゆかり。猪俣(いのまた)家の分家で明音より10歳ほど年上。スナックで普段働く女性調査員たちを仕切るやり手ママだ。集落の男性たちのお悩みは、ゆかりママのカウンセリングで軽くなったものも多いと言われる。彼女は実際に通信教育でカウンセリングの勉強をしたり、見えないところで努力する人だ。


「明音ねえさん。銀河君と玄弥君、どっちが好み?」


 まだ20代前半のおねえさんの1人、寅松(とらまつ)家の分家の戸来(とらい) (えにし)が今までの年と同じように明音に訊く。今年はどちらも本家の子どもだから容姿に期待しているのだ。


「それそれ。あたしも訊きたい。銀河君は猿渡(さるわたり)さんのところだから、成長したらゴリマッチョ系かしら~」


 それに乗ってはしゃぐのは縁と同世代のもう1人、 日辻家分家の未谷(みたに) 小春(こはる)。彼女はがっちりした肉体派の男性をひいきにしている。玄弥たちの祖父充人(あつひと)がスナックで飲むと彼女が喜んでお酌につく。


「玄弥君はどちらかというと時人(ときと)さんみたいな細身かな~。……ゆかりママ、筆おろし誰が行くの~?」


「そうも言ってらんないよ。お嬢さんがた。」


 若手2人に声をかけたのは、2人と同世代で彼女たちのヘアメイクを手掛ける水沢(みずさわ) アキ。普段は本村で美容院に勤めている、ちょっと肩幅が広いが美人のおねえさんの正体は、滝沢(たきざわ)家分家の水沢 秋良(あきら)。オネエのアーチストなのだ。彼の心は男女が同居している。姿は女性風に着飾るのが好きだが性転換には否定派で、恋愛感情を持つのは男性相手。この集落にも異性を愛せない男性がいて、彼はそういう男性にお酒の席へ呼ばれたりすることがあるが、基本はおねえさんたちを美しくする仕事をしていた。


「玄弥君はね、小1の時に無理やり与えられた任務で美少年好きの女につかみかかられてから、あんたたちみたいに「外見が好み」で寄ってくる女が大嫌いなんだって。たぶん……トラウマになってる」


「そうねぇ。それは失敗許されない案件ね~」


 ゆかりママが難しい顔をして言う。カウンセリングの勉強をしただけあって、彼女は慎重な対応が必要だと思っていた。近年は中学生とまだ年齢的に近い縁と小春に頼んでいたが、彼女たちはまだ落ち着きが足りない。興味津々の子どもと違って苦手意識がある場合、下手をすると性的なことに嫌悪感を持ってしまって、優秀な調査員としての活動に差し障りが出てしまう。聞けば小1の時はトラブル対応が良くできていたそうだし、集落のためにも優秀に育ちそうな玄弥は潰せないと考えた。


「明音さん。あなたに玄弥君任せるから。見た目で寄ってくる女が嫌いでも、女性そのものを嫌わない程度に大人にしてやって」


「あら私? ママが直接指導した方が良くない?」


「明音さ~ん。自分の親よりかなり年上のおばさんに童貞奪われるの、気分最悪じゃない?」


 ゆかりはそう言って明音にお願いすると、聞いていた若手2人が笑いだす。


「や~あだ~。ママったら「おばさん」だなんて」


「ゆかりママは「美魔女」よねぇ。そう思わない? アキさん」


 ノリの軽い2人はそう言ってアキに話しを振る。この同世代はちょっと軽すぎるなと、アキは思う。彼は自身の性別問題で生き方に悩んだ時期がある。「女」を売りにする仕事に就くまでこの2人も悩んだかもしれないが、他人の心に踏み込み過ぎないように寄り添うまではいかない。ゆかりママや明音さんぐらいまでなるには、まだまだ修行が足りないなと、アキは思う。


「あんたたちね~。……女としちゃまだまだね。もっと人を見る目養いなさいな」


「「どーいう意味よ!」」


「若い子食うのにこだわってないで。彼らのこれからを助ける仕事なんだから」


 アキはピアニッシモに火をつけ、一服吐きだしながら言う。この頃田舎はまだ今のように喫煙場所の分離が進んでいないので、「ストレイシープ」も喫煙可だ。


「あらアキちゃん、いいこと言うわね~」


 明音が訳知り顔で言うアキを珍しく褒めると、アキは照れ隠しか余計なことを言ってしまった。


「何言ってんですか明音さん。明音さんはまだまだ若い方でしょ? ママは美魔女ったってさすがに重力に負け始めてお肌も曲がり角に入ってるから、中坊が組み敷かれたらキツ……」


「ア~キ~?! 誰が重力に負けたって?」


 ゆかりママがさすがに怒り出した。ひええと飛んできたおしぼりを避けて、アキが謝り倒す。


「まったく……ちょっと褒めるとダメね……。銀河君は小春担当でいいわね。じゃあ今度の金曜日によろしく」


 明音が話しを閉めた。


 昭和初期まで一部の地域に「ふんどし祝い」という風習が残っていた。狭い地域社会が存続するには子どもが生まれなければならないから、10代前半の男児に親族の大人女性が実地の性教育を施していたのだ。


 夢先の杜の集落では、近年さすがに近親者に任せることがなくなったが、調査員になる大人は時に疑似恋愛するような仕事があるし、まだ若い内にお仕事で付き合う異性に襲われることがあり得るので、彼女たち「日辻のおねえさん」に童貞喪失が依頼されていた。女子の場合は男性をあてがうわけにもいかないので、それも日辻のおねえさんたちが指導する。中でも明音は異性も同性も恋愛守備範囲なので、いつもの年なら女子の実地教育を任されていた。


 明音はトラウマのある玄弥の指導役に決まったとはいえ戸惑っていた。ゆかりママに任されたけれど、明音はママほど男性の扱いはうまくない。とりあえず、ママと後で打ち合わせすることにして、今日のスナックの営業は始まった。


 ***


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