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認定外スキルの神子は野に下る  作者: 草薙 栄


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08.大人の階段の上り口(2)

「こーら2・3年生! 予鈴鳴るぞ。邪魔だ邪魔だ! 教室帰れ」


 そこに、3年生の深緑のネクタイを締めた男子が、銀河(ぎんが)を取り囲んでいた運動部の生徒たちを追い立てた。


「あら、(えん)にい」


 紅葉(もみじ)が彼の正体に気付いて、珍しそうに様子を見た。


「生徒会長だ、やべぇ」


「なんで来るかな、鳥井(とりい)のやつ」


 上級生を教室から追い出したのは、現在の生徒会長、3年A組の鳥井 炎樹(えんじゅ)だ。彼は西の十二家(じゅうにけ)本家の次男で、密偵の修練を嫌って表の人材になったが勉強の成績はとても優秀。「夢先(ゆめさき)(もり)チート」持ちと言える。戌井(いぬい)家は鳥居(とりい)家の土地の北隣だから、紅葉は幼い頃から交流があって知っている。


 炎樹は修練に参加していないし、(とり)の家の遺伝もあって細身だ。さらに彼は高身長。孔雀のような派手さを感じさせる容貌のためなかなか迫力があり、注意された上級生たちは慌てて教室を出て行った。そして、炎樹は銀河のそばに近寄った。


「鳥井先輩~。助かりました~。マジ押しが強くて困った~」


「大丈夫か? 多分運動部に入らないつもりだろう? 早めに断ったほうがいい」


 そう言うと炎樹は、小声で銀河にこう続けた。


「それはそうと。銀河の家は建設業だろう? 木工に興味はあるかな。」


「俺がですか?」


「今のDIY部の2年生がさ、ログハウスの小さいやつを作って部の物置にしようとしてるんだ。それを手伝う気、ない?」


「え? マジですか~? 材料の積み下ろしとかなら喜んで手伝いますよ」


 脳筋銀河が炎樹の提案にまんまとひっかかる。炎樹の手が銀河の机に入部届を置いた。


「そういうわけだから、DIY部入部でサイン入れて。この場で了承する」


「ちょっと炎にい! 調子よすぎない?」


 廊下から慌てて寄ってきた紅葉が、炎樹に文句を言う。紅葉の勢いにつられて玄弥(げんや)も近寄ると、炎樹は玄弥に気付いて言った。


「玄弥君もどう? 文化部だから活動は目立たないし」


「いや……僕は他に興味があるので遠慮します」


「ちょっと炎にい! 銀河抱き込めたからって調子に乗らない!」


「はははっ。いや、俺部長だからさ~、1年生獲得したいのはホントだよ~」


「それって職権乱用って言うんじゃない? あきれた~」


 そうしているうちに銀河は入部届を書き終わっていたらしい。


「じゃあ鳥井部長。俺入部しますね。よろしくお願いしまっす」


 調子よく入部届を炎樹に渡すと銀河は、せいせいした顔で椅子の背もたれによりかかり伸びをした。その入部届を受け取り上機嫌でにっこり笑う炎樹に、紅葉は面白くなさそうな顔で言う。


「炎にいってDIYに興味あった? 戌井と鳥井の交流会でも聞いてないよ」


「そりゃ言えないよ。木工は戌井家の下に専門家がいっぱいいるからね、中途半端な興味じゃ話題にできないだろ」


 紅葉にこう応えながら炎樹が、ちらっと玄弥と銀河を品定めするような視線で見た。2人はなんだか炎樹に牽制されているように感じる。


「紅葉も隅に置けないね。イケメン2人も護衛にするなんて」


「ちょっと! ずいぶん2人に失礼なこと言うのね炎にい。私たちは集落から来ている同士だから気心が知れて仲良くしてるだけ。それに私が2人を下心だらけの女子から守ってんだからっ」


「へぇ~。銀河、玄弥君、2人とも女子に守られてるって? 君らが紅葉を守るんじゃなくて?」


 銀河はあまりこういう皮肉を気にしない。だが玄弥は人目が気になるタイプ故に、何となく炎樹が自分たちを貶す理由が分かった。相変わらず人の顔色ばかり見てしまうし、それで立派そうな生徒会長の意外に恋に不器用な本心が分かっても有り難くない。


「そうですね……紅葉には僕がふがいないせいで世話になってばかりなんです」


 玄弥はくすっと自虐めいた笑みを浮かべる。その笑みをみた周囲の女子がざわついたのはいつものこと。


「だから鳥井先輩。卒業されるまでの1年間は紅葉のガードをよろしくお願いします」


 それだけ言うと玄弥はさっさと自席へ戻り、次の時間の準備を始めた。これ以上興味ないという態度だ。


「だな~。俺らも中学生になったし、みんなクラブ活動とか忙しくなりそうだしね。全員固まってってのも無理になりそうだから、先輩が紅葉と一緒にいれば安心~」


 銀河は炎樹の突っかかる理由が分かっていない。だが、一番のダチ玄弥が傷ついたのは分かったので、さっさと話しを終わらせた。


「……炎にい。時々デリカシーないよね……」


 間違いなく、紅葉は怒っていた。ただ、炎樹はここで大ごとにしたくなかった。なぜなら、教室に戻ってきた1年A組が全員注目していたからだ。


「あ……ごめんごめん。からかい過ぎた。さて、教室戻るね」


 廊下に他のクラスへ向かう次の時間の先生の姿を見つけ、炎樹は慌てて教室を出て行った。


「まーったく調子に乗りおって」


 まだ腹の虫がおさまらない紅葉。銀河の前の自席に腰を下ろすと文句を言う。その左隣の玄弥は、紅葉に注意を促した。


「紅葉……それよりクラス中から注目浴びてるよ。生徒会長とどういう関係かって」


 はっと気づいた紅葉が、周囲の視線を感じて慌てる。


「やーね。ご近所だから幼馴染ってやつよ。まあ親戚でもあるし、単なる知り合い」


「そうだろうね。紅葉のことだから……」


 玄弥はわざとそのまま話題を終わらせることにした。そうすれば紅葉がクラスで浮かない。炎樹の紅葉への好意を本人に教えてあげない程度は、玄弥も子どもなのだ。さっきの牽制にまだ不満もある。


「さてと。クラブどうしようかなぁ」


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