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03.1年生は大忙し(3)

 ***


 1年生はまだ給食が始まらないうちは、お昼に自宅へ戻るが、集落の1年生はその後根津家(ねづけ)の管理する北側の地区で、体力と俊敏さを養うために山の中を走らされる。自然の障害物がある持久走だ。


 まずは初心者用のルートで、あまり障害物もない。だが、秋金(あきかね)桃香(ももか)は早々に疲れて歩き始めてしまった。


 逆に銀河(ぎんが)は軽々と走り抜け、玄弥(げんや)は最後のゴール数メートル前で後ろから2回目の追い抜きをされた。1年生の順番はその日の指導する指導員に勝手に決められ、今日の1番目は玄弥だった。その後秋金と桃香が続き、最後が銀河だったのだが、皆が1周する間に彼は2周してしまったのだ。とんでもない大型新人だと、指導員たちがざわついたのは言うまでもない。


 そんな中、玄弥も最後まで走れたことで、指導員にはよくやったと言われた。とりあえず、「何もできない門馬家(もんまけ)の黒いの」から前進できたと思っていた。別に本人に誰かが教えたわけではない。大人たちの陰口が大っぴらであっただけのことだ。子どもだから聞いていないと油断している大人が多く、怒る気にもなれない玄弥は子どもらしくないのかもしれない。


 ただ、兄の葦人(あしと)はきっと褒めてくれる。父と母も最近はぎこちなくても少しは褒めようとしてくれる。女中のおばちゃん達もいるし、うちには味方がいると思えば、関係ない大人の言葉は耐えられる。玄弥はそうやってやり過ごしてきた。


「ゲンちゃん、すごいじゃん俺、最後抜くの大変だったぜ」


 意外なことに一番最初に玄弥を褒めたのは、玄弥を負かした銀河だ。銀河は玄弥に肩を組んできて体重をかけながら、くせ毛の玄弥の頭をぐしゃぐしゃなでまくった。


「ギンちゃんなにすんだよ~」


 玄弥もお返しに、薄灰色とでもいうのかやわらかい色の銀河の、刈り込んだストレートの短髪をぐしゃぐしゃにしてやる。


 銀河は普通に嬉しいから褒めてじゃれているし、玄弥も手放しで喜んだ。


 その様子が周囲の敵を味方にしたことに、玄弥は大人になって思い出すまで気が付かなかった。


 長老たちから言われていた「十二家なのに黒い子」は、別に特別悪さをしているわけでもない。極々普通のよく笑い、友達とじゃれ、真面目に努力もする、当たり前の子どもだった。その日修練を見ていた指導員たちは、自分たちも視野が狭くなっていたことに気付き、玄弥を見直していた。


 小学生の先輩たちもまた、葦人や神子(みこ)丑山(うしやま) 涼太(りょうた)から玄弥のことは聞いていたが、親が長老たちの話しを信じているので半信半疑だった。でも、今日の頑張りを見て自分たちの目を信じることにしたのだった。


 ***


 根津の地域にある修練場で、小1から小6までの幼鳥(ようちょう)と呼ばれる子ども達は、月・水・金で毎回山の中の走り込みをする。そして、その後は曜日によって習う武術が違った。学年ごとに分かれて若鳥(わかどり)と呼ばれる中学から高校程度の年齢の年長者と一緒に、成鳥(せいちょう)と呼ばれる大人から修練を受ける。


 今日、玄弥達1年生と1つ上の2年生が受けたのは、中学1~2年生と共に体術の修練だった。体捌きに殴打や蹴り、投げ技が混ざった戦国時代から使われていた体術で、時に暗器を持って戦うこともある実戦技だ。


 とはいえ、1年生が最初に習うのが受け身なのは柔道などと一緒。床に落ちた時に衝撃を逃がす練習を付けられつつ、玄弥達は中学生の修練を見学した。


 中でも玄弥と銀河が目が離せなくなったのは、滝沢(たきざわ) 時雨(しぐれ)という中2の先輩だ。彼は後ろに目が付いているのかと思うほど、不意打ちにもかからず的確に相手を倒していた。2人は素直にすごいと感じて憧れた。


「ギンちゃん、あの人すごいよね」


「うん、どこから来てもちゃんとよけるし。……後ろに目があるみたい」


「さすがに後ろに目はないだろう?」


 玄弥と銀河の話に秋金がつっこむ。が、そばにいた指導者の大人が笑って話しかけてきた。


「いや……目はないけどさ、時雨くんはちゃんと周りを警戒してるからね。すごい才能なのさ」


 へえ~と子ども3人大人の話しを聞いていたが、その様子を本人が見ていたらしい。帰り際に時雨が3人に話しかけた。


「おい、1年生。大人の話しをあんま真に受けんなよ」


「「「え~?!」」」


 1年生3人が不満そうに声を出す。


「だってホントにすごいじゃん」


「カッコイイ」


「全然ダメな俺でもすごいってわかる」


 口々に1年生が褒めるので時雨の頬が赤くなり挙動不審になった。同級生らしい中学生が、笑いながら1年生3人に言う。


「こいつ、褒められてどうしていいか分からないだけだから。まああんまり言わないでやって」


「あー……なるほど。ゲンちゃんの大きくなったバージョン」


 秋金が知ったような口を利くので、じろっと玄弥がにらみつけた。それを見て銀河がケラケラっと笑う。それにまたむかついて玄弥が、2人の頭を軽くはたいた。そのまま、じゃれるように1年生たちは道場の外へ走っていく。


「元気いいじゃん。……筋もよさそうだし。なあ、時雨」


 先ほど口をはさんだ同級生が時雨に言う。


「まあ……期待はできそうだな。3人いたけどあの2人の方」


 時雨はしっかり玄弥と銀河を認識していた。後輩に強くなりそうなのが入ってきて、少しだけわくわくしていた。それを口に出して言わない時雨だが、周囲にはバレていた。大人や中学生たちは、微笑ましく時雨の様子を見ていた。


 その後、玄弥と銀河は時雨をお手本にして、めきめき力をつけていったのだった。

まだ続きます。続きも読んでくださるとうれしいです。

玄弥の成長が主軸なので、結末も決まってて脱線はあまりできませんが、「こんなエピソード読みたい(アップ済以降の部分)」みたいなご意見いただけたら踊って喜びまする(謎)。

遅筆、下手の横好きゆえ実現するかは保障できません。平にご容赦を。

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