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03.1年生は大忙し(2)

「あとはいないみたいだよ。……紅葉(もみじ)に懐いたね」


 子猫を構い倒していた3人の所へ玄弥(げんや)銀河(ぎんが)が戻ると、紅葉の腕の中で満足げに丸まる子猫がいた。


「もう。紅葉ちゃんずるい」


「やっぱ神子(みこ)だから猫も安心すんのかな~。ぜんぜんこっち来てくんない」


 もっと子猫を構いたかったらしい2人から不満が出た。そこでふと玄弥は気が付いた。そういえば子猫、汚れてたか? 玄弥は紅葉からひょいと子猫を預かった。


「ちょっと待ってね。……今さらだけど、()()とかついてないか見る」


 他の4人から少し離れると、玄弥はこっそりと神力(しんりき)(けが)れを自分の中から押し出した。先日胡桃(くるみ)から教わり、自分の神力を感じ取れてきたところだ。自宅での練習で、自分が吸い込んだ穢れを出したり入れたり試し始めていた。そして数日前、家の中で見かける黒光りする嫌な虫に穢れをかけて試したところ、逃げ出したのを見ていた。


 自分が吸い込んでいた穢れをちょっとだけ子猫の表皮にまとわせると、苦しんだのかぼとぼとと小さい何かが落ちていく。出ていくものが落ち着いたところで、また穢れを吸い込んで子猫を楽にした。


「ゲンちゃん、取れた?」


 銀河が寄ってきた。玄弥が何をやっていたかは見ていないようだった。


「うん……どうやら大丈夫みたい。あんまり長く置いてかれてなかったみたいだね、きれいな方だよ」


 また紅葉へ子猫を返す。すると銀河が言い出した。


「名前どうすんの? 誰が付ける?」


 すると待ってましたとばかりに桃香(ももか)が手を上げる。


「あたしあたし! この子女の子でしょ? だから~エリザベス!」


「「「はあ~? ねぇわ~」」」


 男3人、桃香のあまりのセンスのなさに声がそろった。


「なによ~。かわいいじゃない」


「いや、まず、その子猫のイメージと違くね?」


 秋金(あきかね)が突っ込む。続いて3人も言い募る。


「う~ん。外神殿(そとしんでん)に英語の名前の猫……」


「とにかく桃香の感覚がやばい」


「そうねぇ。桃香、その名前はやっぱりないわ~」


 4人に言われて桃香がへこむ。


「ひっどっ。かわいいは正義よっ!」


「だから、子猫はかわいいけど名前がかわいくない!」


 隠れたかわいい好きの銀河が一刀両断した。


「ねえ、玄弥は? 最初に拾った玄弥が付けてよ」


 紅葉が促す。玄弥はじーっと子猫を見てから言った。


「ふみ。……さっき前足でふみふみしてたのかわいかったからさ」


「ふみちゃん……いいねぇ。気に入ったわ。「ふみ」にする」


 紅葉が気に入ったらしい。


「それに、きっと紅葉の練習になるでしょ?」


 玄弥はこっそり周りに聞こえないぐらいの声で紅葉に言う。紅葉の神力は「(とお)()」だ。失せ物探しや行方不明者探しをする。その他に誰かの目を通して遠くを見聞きできるのだが、人を介すると問題が多くてなかなか練習できていないと、玄弥は胡桃から聞いていた。


「そおねぇ、玄弥たちがどこでおさぼりしてるか見てやろうかしら~」


「げっ! 恩をあだで返しやがったなっ」


 いつもはお坊ちゃん然とした猫をかぶっている玄弥が、十六夜(いざよい)の夢の感覚でうっかり素に戻っていた。大声のその物言いに秋金と桃香が唖然として見ている。それに気づいた玄弥の頬が一気に染まった。


「玄弥~、だからさあ、そろそろ普通にしようぜ。親を心配させたくないってのは分かるけど」


 一番仲良しの銀河は幼稚園や学校以外での付き合いもあるから、玄弥の態度の違いも分かっていた。学校などで問題を起こすと、玄弥に対する悪いうわさが助長されてしまう。そう考えて玄弥は外面をよくする癖がついていた。だから玄弥の事情に詳しくない対面の山側の住民、秋金や桃香や、本村の同級生には、玄弥も少し他人行儀だったらしい。


「ほら玄弥。集落じゃ同い年は私たち5人だけなんだから。ちゃんと友だちしよう」


 紅葉にも促された。こうなると玄弥も笑うしかない。


「あはは……あー仕方ないなぁ……もう」


 すぐに5人みんな笑いだした。そして、今度は集落側へ下りはじめる。ただ、村の側より少し道が険しい。


 玄弥がまた、紅葉の手からふみをひょいと預かると、黒いくせ毛の頭に乗せた。


「ふもとまで両手が開いた方がいいだろ?」


 また、銀河がさっさと先に下っている。


「ギンちゃんまって! おいてくなー!」


 玄弥がまた、銀河を追いかけて走っていく。ふみはしっかり玄弥の頭にしがみついている。なかなか落ちそうにないのは、玄弥が優秀なのかふみが優秀なのか。その様子をじーっと桃香が眺めている。ちょっとだけいつもより頬が赤い。


「……いこっか?」


 紅葉が促し、またゆっくり組が3人仲良く下り始める。紅葉は桃香がなんとなく玄弥を気にしているのに気づいた。いつものすました感じと素の砕けた感じの両方を見たら、そりゃあ気になるだろうあの顔だし、と紅葉は思う。顔面偏差値の高い神子に囲まれていると玄弥も普通に見えるが、集落では十二家本家に近い人ほどイケメンだ。紅葉は面白くなりそうなものを見つけて、意地悪く微笑んだ。


 この5人での歩きの帰りは、険しい脇道を指定される夏休み前まで続いた。さすがに険しい道は、紅葉には無理だと長老会からダメ出しがあったし、桃香と秋金もあまり向いていないと判断されたらしい。でも3人はバス帰宅になっても、学校ではいつも5人で仲良くしてくれる仲間になっていた。それは玄弥と銀河には嬉しかった。もちろん、家に戻れず外神殿にいる紅葉にも大切な仲間になった。

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