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星を結ぶ  作者: 鳳梨
プロローグ
1/1

天体観測

 青年は放課後、学校の裏門を抜けて灯台の頂上へ登った。リュックサックから、タイマーを取り出し、十二時にセットした。

 ——ピピピピピピ——

 彼は眠たい瞼を擦って、立ち上がる。水面に映った星々は煌びやかに光り、彼は夜の冷たい風を肌に感じた。ここにいれば、一日の嫌なこと全部忘れられるのだとと彼は思った。そんな時、静寂の中に響くやさしく、低い声が彼の耳に届いた。

「ニール、またここにいたのか、それもこんな時間帯に。今日は一緒に帰る約束をしてたじゃないか」

「あ、忘れてた。ごめんよ」彼はそう謝ると、ジュリアスの方を横目でチラッと見て、その次に顔を上に向けてこう続けた。

「でもさ、ルーエン、見てごらんよ。今日は三十三年に一度の大流星群だよ。僕の方からしたら、この時間帯に空を見上げていない人たちがいることの方ににびっくりするね。むしろ君は僕に感謝するべきだろう」ルーエンはその言葉を聞くなり、深いため息をついた。

「全く君ってやつは。まあいいよ。確かに、俺はこの景色を君と見られることを嬉しく思っている。……なあ、ニール、だから、これからは俺も一緒に連れてってくれないか」彼は真剣な目つきでニールを見つめる。その視線の奥に潜む真意にニールは気づいてしまうことを恐れ、必死にそっぽを向いた。

「急にどうしたんだよ。いつも、遊びに誘っても、俺はいいって言うくせに」少し沈黙が続いた後、ルーエンは口を開いた。

「今学期が終わったら、引越しするんだ」ニールは背中に棘を刺されたような衝撃を感じ、彼の方へ振り向いた。

「えっ、本当に————いや、そうか、どこらへんに行くの?」

「マルス地区二番街だよ。ちょうど反対側だ」

「じゃあもう、こうして君といられるのも、二ヶ月ぽっちか。そうだ、そこにあるリュックサックを取ってくれないか」ルーエンは柵の近くに置いてあった、それをニールに手渡した。

「多分ここに入ってたと思うんだけど、あった、これこれ」そう呟きながら、彼はパンパンになったビニール袋の中にあるお菓子をいくつか取り出した。ルーエンはそんな彼を見つめて、微笑んだ。

「あとこれも、はい、どうぞ。これ僕の一押しの味なんだ。うまくて、飛び上がるぞ」そう言って、彼は缶ジュース二つ置いた。缶を開ける音が満天の星空に溶けていった。

「それじゃあ、乾杯しよう。今夜の流星群に、そしてそれを君と一緒に見られたことに」

「ああ」

 乾杯‼︎


 何時間か経過して、ルーエンは眠たそうに目を擦った。

「ふわぁ、眠てえ。お前はピンピンしてるけど眠たくないのか」

「ううん、僕はここで、九時間は寝たから。僕はこのまま朝まで起きてるけど、ルーエンは寝てな。起こしてやるから。明日は一緒に森へ……って、もう寝てる」ニールはリュックからブランケットを取りだし、寝ている彼にかけた。

 (全く君ってやつは…………。なんで急に、もっと、もっとたくさん遊べばよかった。振り切る手を掴んで、無理矢理にでも連れていけばよかった。あと二ヶ月しか残ってないなんて、こんなの寂しいじゃんか)

 ニールはふと込み上げてくる感情のせいで、夜空に浮かぶ星たちもぼやけて見えた。

 (……よし、決めた! )

 彼は、缶に残ったジュースを一気に飲み干した。


 ——翌日——

 彼らは、朝、灯台近くにある森の中に行った。小道を進み、小さな橋を渡って、石でできた階段を登り、高原に出た。カーテンフィグツリーの側の草を刈り上げて、土を掘ると、紙切れの入った小瓶があった。ニールはそれを取り出し、内容を確認した。

「先生から聞いた話が本当のことだったなんて、初めてだよ。なんでもやって見るもんだな」

「ああ、モリス先生か。冗談ばかり話す人だからな。俺のクラスでもヘルメス地区には、女性がいないって聞いたことがあるぞ。それで、その紙には何が書いてあったんだ」

「ええと、【日の在処は船の中心に、登れば宝、そこにある】だって。この通りにしたら、先生の言っていたお宝が手に入るのかな。わくわくする!」

「船か。でもそれって、童話とかに出てくるだいぶ昔に使われた物じゃなかったのか。今はもうないはずだけど。そうだ!海沿いに物知りのお爺さんが一人でやってる海に家があるはずだ。そこに、行ってみるのがいいんじゃないか」

 ニールはその提案に、うなずいた。

 そうして、彼らは森を抜けて、ルーエンの自宅に向かうと、車庫の隣に置いてあった自転車を二台取り出した。学校を通り過ぎて、灯台の下の広場の隅に自転車を置くと、すぐ横にある階段を下った。

「にしても、あの自転車、借りちゃってよかったの?」ニールは不安気に聞く。

「いいよ、いいよ。あれ、母さんの担当編集の人のやつだから。どうせ今日も、締め切りギリギリで、一日中、机に張り付いてる母さんを見張ってるだろうし。夜になるまでに返せばいいよ」

「そっか。ルーエンのお母さん、小説家だったもんな。引っ越しするとなると、担当も変わるのか」

「んー、どうだろう。母さんは人嫌いだから、もしかしたら、マリーを連れて行くかも——。あっ、あった。この家のはずだけど」白く塗られた壁に青い屋根の一軒家があった。ドアには、開放中と書かれた看板が、綺麗に釘で留めてあり、おまけに貝殻やサンゴでふちどられていた。ニールはそのまま入ろうとしたが、ルーエンは一応と、彼を止めて、チャイムを何度か鳴らした。ところが、全く反応がない。彼らはお爺さんが海岸の方へ出ているのかもしれない、あるいは寝ているのかもと、中に入ることにした。

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