昔話3
ざざざ…
薄灰色の葉が一枚、枯れ木から離れる。
葉は、暫く虚空を漂う。曇天の暗い空は昼にも、夕方にも見えた。
向こうにのびる地面は、雨でも降っていたのだろうか、無数の水溜りができていた。
そのうちの一つに、ぱたりと落ちた。
水溜まりの縁には、幾枚かの葉が浮かんでいた。
水面には薄い波紋が無数にたっている。
いま落ちた葉は、その波に影響を受け、ほかの葉と同じく水溜りの縁に集まろうとしていた。。。
そんな、一連の映像。
「これは、なに?」
幼く性別も定かではない子どもは、隣に座る初老の女性に、いま画面に流れた三次元情報についてたずねた。
「貴方は、この映像に何かを感じた?」
女性は「なに」という疑問に答えず、逆に問いかけてきた。
ううん、と唸って「葉っぱが水溜まりに落ちるまで時間がかかったのは、枯葉で軽いからかな、、、」
女性は確かにそうねと微笑んだ。
「この映画の題名は『風』というの」
「風?『葉っぱ』とか『水溜り』じゃなくて?」
「そう、私はこの映像を初めて見たとき、風が強く吹いていて、とても寒そうで、周りの木とか葉っぱの音がたくさん聞こえているんだろうな。と感じたわ」
「ええ?それは嘘だよ」子どもの声には、彼女に対する疑いと批判の色が混ざっていた「無音映像だし、暑いか寒いかなんて分かるわけがないよ」
「そうね。もちろん。本当はわからないけど、『人』は、今までの経験から、『こうかな?ああかな?』と、勝手に想像してしまうものなの」
「僕も、メモリが溜まってきたら、そう思うようになるの?」
女性は子どもに、「そう、なって欲しいな、なるだろうな、と思っている。」とふわりとした笑顔を向けた。
その笑顔が、好きだった。
「それも、経験から思うの?」女性は首を振る。
「これは…祈りかな。『二人』が、ずっと人らしく過ごして欲しいっていう、私の願い」
子どもは、無表情に、首を傾げる。
「…ふうん?僕にはまだ難しいよ」
ざざざ…
懐かしい、昔日の思い出。
大切なメモリ。
眼を覚ました直後に、纏わりつくように、一瞬びゅうと〝風〟が吹く。
-今日は、寒くなりそうだな。
いつものように背中の大きな箱に異常がないか確認し、風が吹いた方向に向かって、よいしょと歩き出した。