全知全能の神眼って何なんですか!?
アミスティア学園、学園長室。
入学式で気絶したユリィは、ここに運び込まれ、ソファに寝かされていた。
「お姉ちゃん、お姉ちゃん起きて」
「うあ……あ”あ”あ”あ”…………」
「お姉ちゃーん」
「う”、う”う”ぅ…………」
レコがユリィを起こそうと身体を揺すったり、何度も呼びかけるが呻き声を上げるだけで一向に起きる気配がない。
「起きてー」
「オアアアア……」
「あ~もう!こうなったら……」
遂に痺れを切らしたレコは強硬手段に出ることにした。
レコは未だに気絶しているユリィの耳元に顔を近づける。
そして──────
「117」
「うわあああああ!!」
三桁の数字、それを聞いただけでユリィは絶叫しながら跳ね起きた。
「あ、起きた」
「うわああああああ……あ……あぁ?レ、レコ……?」
起き上がると目の前にレコがいた。
「おはよ」
「……ぁ?どこ、ここ?」
「ここは学園長室」
レコの声ではなかった。
ユリィは声が聞こえた方向へ視線を向けると、そこには一人のエルフの女性が椅子に座っていた。
銀の瞳にパステルピンクの髪。
年齢は20代くらいだろうか、エルフって長命だから詳しい年齢は分からないが、外見的にはそんな感じだ。
そして───すっっっごい美人だ。
ユリィに話しかけてきたエルフの女性は、椅子に座ったまま話を続ける。
「私は、このアミスティア学園の学園長、ラヴィリス。……まあ、さっき入学式で挨拶したから、もう知ってるよね」
…………正直あんま聞いてなかったから助かった。
「それに……逢うのは三度目だしね」
「…………ん?」
三度目?……三度目ぇ?今日が初対面じゃねーの?
流石に、こんな美人に会ってたら忘れないと思うけど……三度目?
ラヴィリス……ラヴィリス……ラヴィリスねぇ…………。
………………ラヴィリス?
「ねえ、師匠」
「…………ら、ラヴィリスゥゥゥ!?」
ショック!!
全身を貫く雷が如く凄まじい衝撃にユリィちゃんブレインがフル回転!
すごいよ、今日のユリィちゃんは。
「嘘ぉ!?ラヴィリス!?本当に!?」
「久しぶり。それで…………どう?」
「いやどうって……」
「見違えたでしょ?」
ラヴィリスは椅子から立ち上がり、自分の姿をよく見せるために、こちらに寄って来た。
実際、彼女の言う通り、見違えた……というか嘗ての面影なんて少しくらいしか残っていない。
眼の色、髪の色、そして肩甲骨まである後ろ髪、ここまでは以前逢った時と変わらない。
だが他は以前と比べ全く違う。
「え、いや……そりゃあ、まあ見違えたけど……えぇ……?」
「お姉ちゃん、ラヴィリス学園長に会った事あるの?」
「えっと……うん……昔……逢った事が~、あ・る・ん・だ・け・ど…………?」
…………そう、俺とラヴィリスは以前、7年前に逢ったことがある。
あれは……自分の特殊能力が知りたくて、アミスティアに特殊能力を鑑定しに向かった日の事だ。
王都へ向かう道中、すんごく可哀想な目に遭っていた哀れなエルフの奴隷少女がいたから、カッコよく助けたことがあった。
その時に助けた奴隷少女が、ラヴィリスな訳だが……。
「なーんか、めっちゃ背、伸びてない?」
昔見た時より背が伸びたというのは、よくある話、だけど……。
ラヴィリスの7年前の姿といえば、5歳くらいの子供の背丈で、身長は110cm位しかなかったはず、それが…………。
「今171cm」
「おー」
171cm!
7年で普通そんなに伸びるか?この世界のエルフにとってはそれが普通なのか?
でもちょっと発育良すぎない?
…………いや!いくら何でも発育が良すぎる!なんだぁ、その豊満なバストは!?
「……それ何cm?」
ラヴィリスの胸元を、まじまじと見ながら思わず聞いてしまう。すっごい失礼。
「97」
「おお!」
発育が良すぎる!!
あの時、仮に5歳だとして、今12歳くらいじゃねーの!?
でも全然12歳には見えない。どう見たって20代くらいの大人の女性。
「今、何歳!?あの時は5歳くらいだったよね!?」
「今年で27」
「27!?…………27ァ!?」
ショック!
月までブッ飛ぶ、この衝撃!
「いやいやいや!27な訳なくない!?じゃあ何か!?初対面が7年前だから……あの時、20歳だったの!?」
「そうみたい」
「そうみたいって……」
あの時というのは、ラヴィリス奴隷時代の話。
ラヴィリスを助けに過去に行った時も、奴隷時代と変わらず5歳くらいだったから、てっきり誘拐されてからそんなに日が経ってないものだとばかり思ってた……。
「27……27……ず、随分大きくなったね……」
思わず親戚のおじさんみたいな言葉が出てしまった。
「まあね。あの時は栄養失調だったから」
「すんごい…………」
友情、愛情、食欲、成長
やっぱ子供の成長には、これか~。
「……えーと、つまり先生とお姉ちゃんってどういう関係なの?」
「端的に言うとユリィは私の命の恩人で魔法の師匠、だね」
蚊帳の外にいたレコに、ラヴィリスが自分とユリィとの関係を簡潔に分かりやすく伝える。
「おおー!!」
それを聞いたレコは目を輝かせた。
「お姉ちゃん、私の知らない所でも人助けしてるんだ!?」
「まあ?当然の事をしたまでですけど?」
「おおー!!」
妹の尊敬の眼差しが俺を気持ち良くさせる!!
「……ところで、さっきの117って…何?」
「うぎ……」
ショック!
ラヴィリスの質問は、過剰なストレスとなって俺を襲う!
「あれは、お姉ちゃんの胸のサイズです先生」
「……え?」
「お姉ちゃん、すっごい気にしてるんですよね。聞くだけで寝てても目が覚めるくらい」
ラヴィリスの視線が俺の胸元に突き刺さる。二重ショック!!
「うぎぎぎ…………お、俺が俺でなくなる…………!!」
俺は男に戻りたいのに、身体はドンドン女になっていく!
気付いた時にはもう100を超えていた。も~止まらない、も~止められない。一体全体ど~すればいいんですかね、コレ???
「まあ、そんな事は置いておいて本題に入ろっか」
ラヴィリスは対面にあったソファに腰かけ、そう切り出して来た。
「そんな事って言うな!こっちは真剣に……!本題?」
……本題?本題とは?
「そっ、本題。レコの特殊能力について───」
「……ああーっ!!そうだよ!そうだった!あ…………っんの強そうな名前の特殊能力!!」
思い出したぜ、あの魔道具に表示されたレコの特殊能力の事を!
『全知全能の神眼』
そうそれそれ!すっげー強そうだぜー!
「それについてなんだけど、二人は何処まで知ってる?」
「全然、全く、これっぽちも」
本当に何も知らない。だから早く教えてくれ!もうワクワクが止まらないよ。
「私は、ナナンが教えてくれたから大体の事は知ってます」
「ナナン?…………ナナンって、もしかして…………」
「んふふ、実は、レコってナナン王女と友達なんだよね~」
俺は得意げに言う。まあ驚く、驚くよね?まあ無理もないぜ。
まさか限界集落出身の一般田舎者が、まさか王族と友達とは夢にも思うまい!
どぉ~だ凄いだろう?ウチの妹は!?
「……まあユリィの妹なら王女と友達になってても、おかしくない、か……。それで、他に知っている人は?」
「他は、リアだけです。特殊能力の事は、ナナンから口止めされてて、ナナンとリア以外に知ってる人は、いません」
「リアっていうと、今年の新入生の?」
「はい」
「成程ね。それなら後でナナン王女達とも話をしておかないと……」
「そんなに秘密にしなきゃいけないような物なの?」
「当然。レコの眼は能力は勿論、その希少性も問題だから」
「ほっへ~、どんな能力なの?」
ユリィの質問にヴェルウェルが答える。
「まず石化や魅了とか色々ある他の魔眼の完全無効化」
「おお」
「次に幻覚や洗脳、催眠とかの視覚や精神に異常をきたす状態異常の完全無効化」
「おお」
「最後に魔法、特殊能力の看破」
「おお…………看破?」
「なんでも、一目見ただけで魔法や特殊能力の詳細、その再現方法から弱点まで何でも分かるとか」
「おお!じゃあ……もしかして、これとかも分かるの?」
ユリィは、どこからともなく野球ボールサイズのボールを二つ取り出し、テーブルに並べる。
一つは赤く、もう一つは青色のボールだ。
レコは、その二つのボールを一瞥して答える。
「赤いボールは青いボールよりも大きいのを魔法で小さくしてて、青いボールは実体が無い幻で……」
「おお」
「その横に透明なボールが一つあるよね?」
「おおー!すんごい当たってる!」
レコの言う通り、実はボールは三つあり、その三つともレコが言った通りの特徴をしていた。
「え、本当?」
ラヴィリスはテーブルに置かれている三つのボールを触れて確認する。
「うわ、本当だ…………本当に、本当に見えてるの?魔法の詳細や弱点まで、何から何まで全部?」
「はい」
「な、何というか……凄まじい能力だとしか…………」
本当に凄い、凄すぎるぞ我が妹。
こんなの能力バトルで絶対にあってはいけない性能してる。普通に反則でしょ?
どんな魔法も能力も弱点丸わかりでピンポイントメタ!なんならコピーまで出来る!
こんなの許されていいんですか?いいんです、可愛い妹なら。
「そういえば、それって何時頃から見えるようになったの?」
「5歳くらいの時から……かな?お姉ちゃんと一緒に魔法の特訓をしてる頃には、もう見えてたよ」
「そんなに早く!?……あっ!だから魔法を教える時、口で説明するより見せた方が覚えるの早かったの!?」
「うん」
「はー、なるほどね~…………あ、そういえばラヴィリス?」
「ん?」
俺は、一つ気になっていたことをラヴィリスに聞いてみた。
「レコの他に、この特殊能力を持ってる人は、いるの?」
「いないよ」
「やっぱり~?まあこんな特殊能力持ってる奴、他にもいたら流石に有名人になってるよね~」
「昔は、いたんだけどね」
「いたの!?」
「数千年前に一人だけね。でもそれっきり」
「ほーん……って事は~?オンリーワンでナンバーワンじゃん!」
「そういうこと。つまり貴女の妹の力欲しさに群がって来る奴らがこれから出て来るかも知れないって訳」
「なぬぅ!?そんな不埒な野郎、無敵☆姉妹パワーで返り討ちにしてやりますよ!」
「まあ一応これ以上レコの事が広まらないようにするから、貴女も言いふらさないようにね」
「まぁかせてぇ?絶対誰にも言わないから」
「じゃあ要件はこれで終わり。帰りのホームルームは、もう終わってるから二人共、今日はこのまま帰っていいよ」
「もうそんな時間?ラヴィリス今何時?」
「12時」
「あらま」
「お姉ちゃん、お腹空いたー」
レコの言う通り、俺もお腹が空いてきた……。
「どっかその辺で食べよっかぁ、ラヴィリスも一緒にどう?」
「私、美味しいランチのお店知ってるけど?」
「おぉ~~~いいねぇ!学園長先生のお墨付きのお店!こ~れは期待出来ますよ」
ユリィ、レコ、ラヴィリスの三人は学園長室を後にした。




