何か忘れているような5
「じゃあまず積み荷の中身について話してもらおうかな」
あの見るからに奴隷の子供を見て懸念している問題がいくつかあった。
その1【この王国、そして周辺国家で奴隷が容認されている場合】
この場合、もう国の問題で俺が手出しする問題じゃないよねって話。
その2【奴隷が容認されていて、かつあの奴隷の扱いが適切だった場合】
あんな手足ちょん切って鎖で繋ぐような扱いが適切な扱いでマジで人権ないのが当たり前の世界の場合、これも革命でもしない限り変えられない問題だから一個人には手に負えないよね。
でもまあ大丈夫だろう、奴隷を見たと言った途端、血相変えて攻撃してきたし。うん多分大丈夫。
そして一番考えたくない大穴
その3【最初の襲撃者たちが実は革命の為に立ち上がったレジスタンスだった場合】
・・・泣いて謝るしかないよね。
心臓バックバクで答え合わせを待っていると男が口を開いた。
「・・・アレは商売道具だ」
コイツ合法奴隷商人か?それとも違法奴隷商人か?どっち!?
「あんな状態で商品価値があるの?」
震える声で質問する。頼む、奴隷を容認しない国家であってくれ!
俺の動揺で震える声を聞いて男はすぐに言葉を続けた。
「短命種、つまり俺達人間が長命種であるエルフの血液を摂取することで僅かながら若返りと老化防止の効果があることが分かってな。だからどんな状態でも生きてさえいれば商品価値があるのさ。」
「だがその効果も新鮮な血液でないと意味がない、だから今度の取引先になる王都アミスティアへ秘密裏に運搬をしていたんだよ」
秘密裏にってことは、その商売は違法なんだな!?よーしよしよし。
「なら襲ってきたのはあのエルフを取り戻そうとした連中?」
「いや盗賊だろうな、この商売を始めたことでエルフの数は激減している、それもあってこの事を知る者は少ない。同族を解放しようなんて奴なんてもっとだ。今回は完全に偶然だろうな」
危なかった、その3【最初の襲撃者たちが実は革命の為に立ち上がったレジスタンスだった場合】も回避出来た。
しかし面倒な事になってきたぞ。
王都アミスティアは俺とロキュが目指してる国だ。
若返り、老化防止なんて欲しがる奴らは幾らでもいる。
大方金持ち連中に高値で売り捌くのだろうが、これに王室辺りが絡んでたらと考えると・・・あーやだやだ!
それにコイツは今度の取引先と言った。って事は本拠地は違う国にあるってことで・・・いやぁ面倒くさい!
「じゃあ最後の質問、ボスの名前は何?それと種族は人間?それともエルフ?」
「名前はガディナス、人間の男だ」
「ふーん」
聞きたかったことは全部聞いた。俺は荷台にいるエルフの元へ向かうべく歩き出す。
「お、おい!何処に行くんだ!?全部話したら助けるって約束だろ!!」
「約束通りあの子を助けに行くんだけど?」
「そ、そんな屁理屈!」
「残念だけど彼を見た時から味方しようと決めていたからね。そこで大好きな血を眺めながら朽ちていきな」
喚き散らす声を無視しエルフの元へ向かった。
「はーい正義の味方が助けに来たよ」
エルフに触りながら声を掛けるが目も閉じたままで反応はない。
もしかして五感全部ダメになってない?
「はぁ、しょうがないな~、流石に脳死してたら困っちゃうからな~」
エルフの頭の上に手を置き脳に直接語り掛けることにする。
「はーいこんにちはー」
まずは明るい挨拶から
「え、なな、何これ!?」
「お、案外元気そうだね~」
「だ、誰!?」
「誰って君を助けに来た正義の味方に決まってるじゃん!」
「はあ?」
「じゃこれからサクッと君の事を治しちゃうから、少し時間かかるから楽しかった時の事でも思い出しながら待っててよ」
「え、いや急に言われても楽しかった事なんて・・・」
「早くして!」
「は、はい!・・・えっとあの頃はお父さんとお母さんがいて・・・」
暫くするとエルフの子は昔を思い出し始めた。
ようし、さっさと始めちゃうか。