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背後には気を付けよう
前世の記憶を思い出した。
「く、くそ!ゴブリン共!よくも村の皆を!!」
阿部悠太郎、30歳独身。
何の変哲もない普通の一般人だったが何故か異世界にいる。
「これ以上はやらせない!」
ゴブリンの軍勢を前に勇敢にも立ち向かう少年、ロキュ8歳。
身体は、あちこち擦りむいていて武器は持ち合わせていない。
だが背後には傷つき倒れている幼馴染の少女がいる。
「俺が皆を、ユリィを守るんだ!」
一生に一度は憧れるシチュエーション!そして一度は言ってみたい台詞!
言ってみたかったぁ~。
ロキュの覚悟を聞き入れたのか突如、眩く光る剣が目の前に浮かぶ。
「うわ、なんだこれ!?」
あまりの眩しさに周囲のゴブリンたちが怯む中、恐る恐る剣を手に取る。
「こ、これなら戦える、のか?」
「い、いや!やるんだ!ここで、俺が!!」
異世界転生にモンスターの襲撃、そして女の子のピンチと来たら?
そりゃもう大見得を切って覚醒イベントでしょう!!
まあ覚醒イベントの裏で哀れにもゴブリンから後頭部をぶん殴られ、血を流し、ぶっ倒れている方が俺、『阿部悠太郎』改め『ユリィ』なのだが。