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ヒロインのローラともう一人のヒロイン

 ローラはあの一件以来、さっぱりとルイスを諦めたのだった。けれどエスメラルダと一緒にいるのが楽しいので、エスメラルダにくっついているのは変わらない。そうなれば当然ルイスとも一緒になるのが少し怖かったが、それよりもオリヴァーと一緒にいられるのだ。

 毎日熱い視線とアピールをオリヴァーに注ぐが、オリヴァーには涼しい顔でかわされていた。


(でもそのうちにヒロインの魅力でアタシの好感度はあがるだろうし。絶対オリヴァーにまたお姫様抱っこしてもらうんだから!)


 オリヴァールートのエンディングは二人の結婚式で、ウェディングドレス姿のヒロインを抱き抱えるオリヴァーのスチルなのだ。ローラは現在そのスチルを再現するために頑張っている。

 推しと結婚相手は別! を信条にしていたはずのローラだが、オリヴァーに抱き抱えられたことによってそんなものはどこかへ吹っ飛んでしまったのだった。


 ローラはエスメラルダに、ルイスの怖い一面の話をした。


「王子って思ってたよりヤバい人だったから、アタシ王子ルートやめるね! だからもう協力とかしなくていいから。てかあの王子が婚約者でホントに大丈夫? 婚約破棄出来た方がアンタにとっても良かったかもね……」


 明るい調子で話し始めたのに、だんだん声が小さくなるローラに、エスメラルダは不安になる。


「やめるとはどういう……。それに、わたくしの破滅は回避できるんですの?」

「あー、それはわかんないけど、ヒロインの感覚では破滅にならなそーな感じ? でも王子と結婚したら逆に破滅みたいな? あの王子ヤバそうじゃん」

「ヤバいとは?」

「アンタが溺愛されすぎてて、王子は愛が重い男だってこと! エスメラルダになんかあったら絶許! って感じでめっちゃ怖かったんだから。王子ルートのエンディングは学園の卒業式で、これからは手を取り合って国を守っていこう。君さえいれば僕は世界一幸せだよ。みたいな感じだったけど、この世界の王子はアンタになんかあれば監禁とかしそう。王子ってヤンデレだったの? そんな設定無かったけどなー」


 エスメラルダはまたローラの難しすぎる言葉に混乱しながらも、ほっと安心したのだった。一時はどうなるかと思ったが、今までの自分の努力を誰かに取られてしまうのは悔しいと感じていた。

 この先ずっと、ルイスの隣にいるのは自分でありたいとも。

 この婚約は王家の決めたものではあったが、夫婦になる以上二人の間に信頼関係はしっかりと築きたかったし、そうなる様に努めてきた。恋などしなくても、信頼関係があればいずれ愛に変わるだろうと。

 ローラが割り込んできても、ルイスとエスメラルダの間にはしっかりと信頼関係があったから揺るがずにこれたのだと思う。

 そしてエスメラルダは、ローラの出現によってルイスへの恋心にも気付かされたのだった。さらに、ルイスからとても大切にされているということも。

 ルイスはエスメラルダが破滅するというローラの話を真剣に聞いてくれたし、なるべく危険から守れるように護衛騎士も増やしてくれた。エスメラルダの未来は自分の未来の事だと言ってくれたことがとても嬉しかったのだった。ローラの話すルイスの姿についてはエスメラルダもわからないところがある。しかしそれもこれから見せてくれるのかもしれないし、エスメラルダには見られたくない姿なのかもしれない。ずっと一緒に過ごしていくのだから、少しづつ見せてくれたらいい。そう思える自分がエスメラルダは誇らしかった。


「アタシはヒロインなのに、どーして王子もオリヴァーもアタシのこと好きにならないんだろ。まぁオリヴァーとは絶対にくっつくけど! てかアタシが伯爵令嬢になってるとこからオカシイのか。じゃあアタシがバグってこと?」


 エスメラルダは、またローラが難しい言葉を使い始めたなと苦笑いした。


「でも学園襲撃事件もエスメラルダ誘拐事件も起きる時期が過ぎちゃったし、この世界は本当に平和なのかも。ゲームとは違う物語で進んでいるのかもね」


 ローラの話にエスメラルダは目を見開く。聞き間違いでなければ、学園襲撃事件とエスメラルダ誘拐事件という言葉が聞こえたのだが、ローラは素知らぬ顔で自分の爪を眺めている。


「は? えっ、ちょ、ちょ、ちょっと待って、今の事件って!?」


 こんな事で動揺してはいけないと頭では理解していても、心が追いつかない。ほっとしたのも束の間、まさか自分が事件に巻き込まれることが起こるとでもいうのか。


「なんか、王子の敵対勢力が学園を襲撃してヒロインが怪我をするんだよね。それで攻略対象たちに守ってもらったりして次のステップに行くわけ。でもこれもアタシが編入して割とすぐのイベントだし、王子の敵対勢力ってのも実はエスメラルダが裏で手を引いてヒロインを追放しようとしてやった事だったから、まぁ無いよね〜。エスメラルダ誘拐事件こそ、自作自演の誘拐事件だったんだからアンタはやらないでしょ。事件がなくて平和だけど、オリヴァーとのイベントは誘拐事件の最中だったからなぁ」


 ローラは簡単に説明すると、腕を伸ばして背伸びをする。エスメラルダは難しい言葉の説明をなんとか自分の中に落とし込め、事件は起こらないことを理解し安堵した。それにしても、ローラの話すゲーム内のエスメラルダは極悪人のようだ。それがエスメラルダには信じられなかった。


「その話を聞いて安心しましたわ。けれど、この先何か事件などあれば教えてくださるというお約束ではありませんでしたっけ?」

「えー、そうだっけ?」

「えぇ。わたくしが破滅しないよう協力してくださるお約束でしたわ」

「そうだった。でももうアンタはアタシを排除しようとしない人間だってわかってるし、変な事件も起こさない。だから破滅もないってアタシは思うな」


 そしてローラはエスメラルダを覗き込む。ふんわりした巻き毛に深緑の瞳。その周りをびっしりと長いまつ毛が縁取っている。ローラは自分も美人だと思うが、エスメラルダのことも美人だと認めている。

 

「まぁさ、アタシとアンタがこうして一緒にいるってことが正解ってことなんだよねきっと。アタシはこの世界のバグかもしれないけど、この世界はもはやすべてがゲームのシナリオ通りじゃないし、みんなそれぞれの生活があるんだもんね。ゲームの強制力も無いみたいだし。アタシの恋はアタシが頑張らなきゃいけないってことなんだよなー! なんかそれが幸せだなって」


 ニコッとローラが破顔した。

 ローラの口から幸せという言葉が笑顔と共に出てきたことが、エスメラルダはとても驚いた。それまでローラのことは自分が良い方へ導いてあげなければならないとすら思っていたが、ローラは以前とは違う自信に満ち溢れているように見えた。


「前世のアタシはさ、妹や友だちと外で遊ぶことも好きな人を作ることもできなかった。でも今は友だちとこうして外で話をしたり、アタシのことをめちゃくちゃ心配して毎日手紙をくれる義姉がいたり、好きで好きで追いかけ回したい人がいて。ほんと幸せだよ」


 二人の周りがあたたかい空気に包まれる。エスメラルダも、友人とこんなに素敵な時間を過ごしたことはあっただろうか、と過去を振り返っていた。


「ヒィッ!」

 

 そんな二人の目の前で、小動物のような大きな瞳に珍しいピンクブロンドの肩までの髪をハーフアップにまとめた可愛らしい女子生徒が、持っていたカバンを足元に落として両手で口元を隠して小さく悲鳴を上げた。


「ヒロインと悪役令嬢が仲良しってそんなルートあったっけ!? なんかのバグ? これから私の物語ちゃんと始まるの??」


 エスメラルダは何かあったのかと、その女子生徒に声をかけようとするが、隣でローラは体をこわばらせていた。


「アンタまさか……」

「あの方を知っているの?」

「続編のヒロイン、ミラ……?」

「ハァ?」


 エスメラルダはまたもやローラが続編などと言い始めた事に頭が痛くなってしまった。

 どうやらこれからも、そのゲームとやらに振り回されるのだろう。

 平穏な日々はまだまだ先になるようだ。

 

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