表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/4

ルイスとオリヴァー

 オリヴァーは心配していた。

 最近ルイスとエスメラルダの間に、ローラという編入してきた女子生徒が居座るようになったのだ。

 新参者にルイス様の隣は渡したくない、という気持ちと、仲の良い婚約者同士の間に変な女がくっついているのは気に入らな……いかがなものかという気持ちでローラへの印象はあまり良くなかった。しかも、ルイスの婚約者であるエスメラルダのことをアンタ呼ばわりする不届き者だ。

 けれどエスメラルダがローラによく微笑みかけるので、面倒を見……ただの仲の良いご友人になったのだろうと思うことにする。

 オリヴァーは、この国の王子であるルイスの護衛としてルイスと学園で共に学び、毎日を過ごす。ルイスには何も心配せずに過ごしてもらいたいので、オリヴァーは必ずルイスより良い成績を取るように努力していた。

 ローラがルイスとエスメラルダに関わるようになってから、たびたびルイスとローラの二人の時間が設けられるようになった。それを陰から見守る神妙な面持ちのエスメラルダ、それを見守るオリヴァーという変な構図が出来上がってしまったこともオリヴァーの心配の種だった。

 しかしオリヴァーは余計なことは言わない。学園にいる間だけは王子であるルイスが普通の男子のように過ごしたいように自由に過ごせる時間をしっかり守りたかったのだった。それは両親からもしっかりと言い含められていた。


 ローラがルイスとエスメラルダと交流し始めてしばらく経ったある日。

 ルイスとエスメラルダが中庭で仲良く昼食をとっている姿を少し離れた木陰で見守りながらオリヴァーも昼食をとっていた。

 この時間だけは、ルイスから離れて過ごす。それはルイスとの約束だった。しかし何かあってはいけないので、そう遠く離れていないところで見守るようにしているのである。

 ルイスがオリヴァーを邪険にしているのではなく、オリヴァーにしっかり休憩してもらいたいというルイスなりの気遣いだったが、自分の責務を全うしたいオリヴァーに説得負けしてしまったルイスなのだった。

 そんなやりとりを思い出しながら、木の上の存在を気にかける。オリヴァーが過ごしている木の上にローラが隠れているのは最初からわかっていた。

 なぜそこにいるのかオリヴァーには理解できなかったが、ルイスたちを見守っているようだったのであまり気にしない事にした。たまにオリヴァー自身にも視線を感じることはあったが、ローラはバレていないだろうと思っているんだろうなとオリヴァーは思っていた。

 もちろんオリヴァーはこの件についてルイスに報告済みである。

 さて今日の昼食も終わった事だし二人のもとへ行こうかと立ち上がると。


「ぎょえっ」


 ご令嬢の出す声ではない声が頭上から降ってくる。

 慌てて上を見るとローラが木から落ちてきた。

 なんとかローラを受け止めるが、バランスが取れずに倒れ込む。

 いてて……とむくりと起き上がったローラは慌ててオリヴァーに謝った。


「ごっごめんなさい」


 自分の上に乗っているローラを見ると、彼女に怪我は無さそうだった。

 ほっとした反面、この体勢に心拍数が上がる。ダンスの練習でもこんなに女性と密着することなど無いのだ。王子の護衛としての訓練をしていても、恥ずかしくなってしまうのは仕方のないことだろう。


 なかなか退かないローラに痛いところがなければ離れるように言おうとすると、ローラの顔は真っ赤になっていた。

 こんなにみたこともないくらい赤い顔をしているのは何か問題が起きたに違いない、とオリヴァーは慌ててローラを抱え上げる。


「どこか痛みますか? すぐに救護室へ行きましょう」


 オリヴァーもこんな事態に遭遇したのは初めてだったのでわずかに動揺してしまう。けれどルイスの一応ご友人となったローラを放っておくわけにはいかなかった。


 お姫様抱っこされたローラは赤面したままぎゅっと目をつむってちぢこまっていた。

 すれ違いざまにルイスとエスメラルダに救護室へ向かうことを伝え、救護室へと急ぐ。

 救護室へ辿り着くと中には誰もおらず、オリヴァーは困ってローラを見下ろした。

 ローラは息も絶え絶えに「もうむり、好きすぎる……しんじゃう……」と悶絶していた。

 オリヴァーはローラの言葉に混乱する。

 好きと死ぬは一緒に出てくる言葉なのだろうか?

 死にそうなのは間違いなく異常事態ではないのか?

 オリヴァーは「失礼」と一言声をかけローラを簡易ベッドへ下ろし、足の具合を見ることにした。

 足首に触ってみると「ギャッ」と何か動物の鳴き声の様な声があがる。


「痛みますか」


 抑揚のない声で問いかけると「痛くないです、怪我とかしてません。大丈夫だからほんとに」とローラは真っ赤な顔を両手で隠しながら答える。


「けれど先ほど″しんじゃう″と聞こえましたが」

「それは心の声が出ちゃっただけで本当に問題ないです」


 ローラは今にも消え入りそうな震える声だ。

 本当に問題無いのだろうか?


「ほんと、やばい、好き」


 ローラがそう呟いた時、心配したルイスとエスメラルダの二人が救護室へと入って来た。


「オリヴァー、彼女の容態は?」

「ルイス様、それが……」


 赤面して狼狽えているローラを見てルイスはなるほど、と頷いた。エスメラルダは大丈夫ですかとローラに駆け寄る。

 ルイスは、オリヴァーにエスメラルダと教室へ行くように言うと、ローラと二人で救護室に残った。もちろん念のため部屋の扉は開けたままで、ルイスは扉に寄りかかった。


「さて。どこから話してもらおうかな」


 ルイスは例の王子スマイルを発動した。

 ローラは知っている。この王子スマイルははっきり言って機嫌が悪い時の顔だと!

 ある程度好感度も上がっていたはずなのに、とローラは戸惑う。王子スマイルが出る時は会話の選択肢をミスした時だ。バッドエンドを迎える選択肢を選んだ時も、確かにルイスの表情は王子スマイルの立ち絵だったはずだ。

 王子スマイルが不機嫌の時の顔の設定だなんて、王子なのにおかしいでしょ! と前世プレイした時に思わず突っ込んでしまった設定だ。そんなところは忠実に再現しなくてもいいのに。

 ルイスはローラの戸惑う姿を見て王子スマイルを引っ込めた。この笑顔ではダメだと悟るとすぐに感情の抜けた冷めた顔になる。

 この転入生は厄介そうだなと最初の接触の時から思っていたのだ。エスメラルダに変なことを吹き込んだ張本人なのだから。

 ルイスの冷めた表情を見て、ローラはヒッと小さな悲鳴をあげた。スチルでも立ち絵の表情差分でも見たことのない表情だったから。

 

(ヤバ……! ルイスってこんな表情もするの!? まさか見たことがない表情が見れるなんて、やっぱり好感度はちゃんと上がってて、親密になってきてるってことかな)


 ルイスの問いに答えないまま、ローラは心の中で忙しく前世の記憶を思い出していた。

 そんなローラにルイスはため息をつく。


「僕の質問に答える気は?」


 声のトーンをコントロールするのを忘れ、発した言葉によって部屋の温度が下がったのが自分でもわかった。けれどもう遅い。ローラは明らかに怯えた顔をしていた。


「は、話します……」


 そうして、ルイスはローラが前世の記憶を持った転生者であること、この世界はローラの前世プレイしたゲームの中であること、ローラはそのヒロインであり、ルイスたちは攻略対象キャラであることを吐かせたのだった。


「ルイスってこんな怖いキャラだったっけ……?」


 オリヴァーがルイスを迎えに来たタイミングでローラはボソリと呟いた。エスメラルダにローラがルイスと親密になるよう手伝わせている事まで吐かされたのだ。と言っても、ルイスはエスメラルダ本人からすでに聞いていたことではあったが、聡明なエスメラルダからの説明であってもルイスには納得がいかなかったのだった。

 エスメラルダの破滅という事がどういう事なのか、これがローラの妄言でないのか、詳しく調べる必要がある。


「また貴女には聞きたいことがあるが、これだけは言っておく。僕の婚約者はエスメラルダで、僕の愛する人はエスメラルダただ一人だ。今後、エスメラルダに協力を持ちかけたとしても僕から貴女へと心が向かうことは一切無い」


 ルイスはそう言い放つと、オリヴァーを連れて颯爽と救護室から去っていった。

 取り残されたローラは「やっぱ王子ルートやぁーめよ」とベッドに大の字になったのだった。


「アタシがヒロインなのにおかしくない? てか、あんなのエスメラルダ溺愛ルートじゃん。悪役令嬢の破滅ルートは回避されちゃったって事? やっぱアタシはオリヴァールートがいいな。はぁ、生身のオリヴァーやばかった……またあの筋肉に包まれたい……かっこいい好き……」


 転んでもただでは起きない、強いローラなのであった。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ