告白
「…………は?……な……い、いきなり何しやがる!!?」
丸々一分間固まっていた少女だが、一気に目を吊り上げると目一杯怒声を上げた。少しばかり抜けていた腕の力も元に戻り、再びシアの腕を振り払おうと、顔を真っ赤にして暴れ出す。それに合わせて、慌ててシアも両腕の力を入れ直した。
「わっ!っとと……別に口に直接した訳じゃないんだから、そんな怒んなくても……」
「ふ、ふざけるな!!もし口にしてたら、お前諸共自爆してたわ!!『私が好きだ』なんて、くだらない冗談言いやがって……」
少女の物言いに、今度はシアがムッとする番だった。シアは頬を膨らませると、口を尖らせる。
「冗談なんかじゃないよ!本気だって!本気で君に一目惚れしたんだって!!」
「嘘を吐くな!大体、お前さっきまで『町の人間を馬鹿にした』って怒ってただろ!?そもそも、私は町の奴らの故郷を滅ぼした月猫族の同種なんだぞ!!」
「嘘じゃないよ!君が皆の星を滅ぼした人達の仲間だから、何だって言うのさ!?滅ぼしたのは君じゃないんでしょ!?怒ってたのも謝って欲しいのも本当だけど、それとこれとは話が別だよ!」
「別なものか!!あの一瞬で町の人間全員を覚えてる訳じゃないんだ!私が直接手を下した星の生き残りだって居るだろうし、仮に偶々居なかったとしても、それは偶然だ!!私が今までどれ程の星や人間を手にかけたと思っている!?」
凄まじい言葉の攻防戦である。
絶対に少女に告白を信じて貰いたいシアと、どうしてもシアの気持ちが理解できない少女。
どちらも互いの意見を譲る気は更々ないようで、まだまだ口論は続く。
「だから関係ないって!!町の人達は家族みたいなものだから、流石に酷いことしたなら怒るけど……俺は絵本に出てくる“英雄”じゃないんだ!名前も知らない人達の星や命を君が奪ってたとしても、そんなことで嫌いになんかなるもんか!!」
「そもそも私の何処に好きになる要素がある!?そんなに『好きだ』と主張するなら、何処を好きになったのか言ってみろ!!」
「えっ……」
とそこで、シアの勢いが止まった。
ピタリと散々回っていた舌が動きを止めたことで、フンと少女が得意げに笑みを漏らす。
その顔には「ソレ見たことか」と書かれてあった。
言い合いに勝ったと少女がほくそ笑む中、シアは「うーん……」と試合続行希望なのか、頭を悩ませている。
……好きなとこ……好きなとこ……えぇ〜……そもそも一目惚れなんだから、顔じゃない?間違いなく可愛いし。ていうか、好きな所言える程、まだ俺、この娘のこと何にも知らないじゃんね……。
考えた結果、今のところ「見た目」しか明言できる好きな所が見当たらない。
シアは「あはは……」と苦笑いを溢すと、「でも」と更に少女に顔を近付けた。既に地面に頭を預けており、これ以上頭を引くことができない少女は、無意識に身体を強張らせる。
そんなこと気付く筈もなく、シアは続けた。
「絶対君のことが好きだから!!俺にだって何でかよくわかんないけど……絶対に『愛してる』って意味で君のことが好きだから!!」
「ッ!…………」
最後の方は、殆ど半ギレになりながらの告白だ。言いたいことを思いきり叫ぶだけ叫んだ所為か、シアが「はぁ!はぁ!」と肩で息をする。
しかし、少女の方は告白を信じるでも、真っ赤になって反論するでもなく、ただただ恐怖を映した瞳で目の前のシアではなく、別の何かを見つめていた。
……『愛している。この宇宙で誰よりも……良いな?お前は俺の物だ』
少女の耳の中で、頭の奥で、ねっとりと纏わり付くような音声がリピートされる。身体中に悪寒が走った。
少女の息が段々と荒くなっていく。
流石のシアも少女の様子がおかしいことに気が付いた。
「??どうしたの?大丈夫?」
「ハァ!ハァ!ハァ!……めろ……やめろぉおおおおおお!!!!」
「ウワッ!?」
咆哮と共に、少女の両手から無数の光の玉が打ち出された。驚くシアだが、少女は両腕の動きを封じられてる為、玉のコースを上手くコントロールできていない。光の玉は全てシアに当たることなく空へ飛んでいく。
ホッと胸を撫で下ろすシアだったが、しかし嫌な予感にチラリと目線だけ背後へ向けた。
「イ"ッ!!?」
ゲッと顔を顰めるシア。
先程少女が無造作に放った光の玉が、シアの周りを固めるように宙に浮いていたのだ。
少女が何をする気かわかったシアは、慌てて少女へと視線を戻す。だがしかし、少女は既に開いていた手の平を固く握り込んでいた。
一斉に光の玉が中心に居るシア達に突撃してくる。
……無理だ!避けたらこの娘に当たる!!
シアは全身に力を込めると、少女の身体を抱き締めた。
「ウゥッ!!グァッ……!!」
花火を何発も至近距離で打たれている感覚。
直撃した所が酷く熱く、火傷のようにジンジン痛む。それでも身体が貫通してないだけマシだった。下手に力を抜いてしまえば、即少女諸共、玉に撃ち抜かれて死んでしまうだろう。
シアは弾丸の雨ならぬ光の雨が収まるまで、ただただ歯を食いしばって耐えた。
〜 〜 〜
どれ程時間が経っただろう。
数時間にも思える数十秒が過ぎた。
「ハァ!ハァ!ハァ!……」
荒い息が木々の間を木霊する。
ポタポタと赤い血が地面や少女の頬に流れ落ちていた。
全身ボロボロになりながらもシアは意識を失わず、グッと腕に力を込め、少女の身体から自身の身体を起こす。
「ハァ!ハァ!……良かった……ハァ!……」
少女の様子を確認し、一発も少女に光の玉が当たっていないことに、シアはホッと笑みを浮かべた。
だがしかし、少女の意識は既になかった。
よくよく見れば、身体の至る所に巻かれた包帯が、ジワリとゆっくり真紅に染まっていっていた。傷口が開いたらしい。
……あんだけ暴れれば当然か……。
シアは震える足に鞭を打ち、ヨロヨロと立ち上がる。その際、ボタボタッと多くの血が地面に落ちたが、シアに気にした様子はない。
気を失っている少女の身体の下に両腕を滑り込ませ、そのまま少女を抱き上げた。
「……ハァ!ハァ!……ははっ……に、ちゃんにッ……おこ、られッ……ちゃう、なッ……」
そうしてシアは足を進める。
ズタボロになっているのはシアの身体だけでなく、シアが身に付けている服も然りだ。
シナ服と呼ばれる首元を締め付けるタイプの民族衣装は、あちこち焼け焦げ爛れている。腰に巻かれていた帯も、少女の攻撃で千切れてしまっていた。
「……ハァ!……あ、とで……帯、な、おさな、きゃなッ……」
シアが一人呟く。
帯があった時は気付かなかったが、服の下。丁度今まで帯が巻かれていた腰辺りの服の部分が、何かを隠すように盛り上がっていた。
この正体は今はまだ、シア本人にすらわからない。
だが、シアはそんなこと気に留めるでもなく、今はただ早くヘキムの元へ帰ろうと、足を動かすのみなのであった。




