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リーファ対ヘキム

「「…………」」


 数秒の睨み合い……先に動いたのはヘキムだった。

 床を蹴って、一気にリーファと間合いを詰めて来る。そして、首目掛けて思いきり蹴りを入れてきた。難なく左腕でガードするリーファだが、思っていたよりも重い蹴りに、ほうと口角が上がる。


 ……パワー、スピード、身体の使い方……非戦闘員の動きじゃないな。闘い慣れているのか……。


 分析しながらも、戦闘は続いていく。

 ヒルバド星人の超能力は『超回復』だ。簡単に言えば、死んでいない限りどんな怪我でも治るという便利な能力である。だが、闘いに使えるかと言われたら話は別だ。精々、闘いながら自身の傷を癒すくらいだろう。相手に攻撃技として使える類の能力ちからではない。

 その為、二人の戦闘は至ってシンプルな肉弾戦だ。殴って蹴って、相手の技を受けて躱して反撃する。蹴りを腕で受け切れば、拳と拳を相殺させ、留まることなく攻防戦が展開されていく。


「悪くないな。なら……これはどう対処する?」


 リーファが攻撃を躱しながら、両手をヘキム目掛けて突き出した。手の平から生成されるジンシュー。

 あっという間に放たれたジンシューだが、ヘキムは怯まない。

 グッと脚に力を入れて踏ん張ると、飛んで来るジンシューを片手で弾き飛ばした。飛ばされたジンシューは弧を描いて、宇宙船の壁へと向かっていく。壁に直撃する前に、リーファによってジンシューは空気中で消散された。

 まさかそのまま素手で弾かれるとは思っておらず、リーファは一瞬目を見開く。しかし、すぐにヘキムの手首の異変に目敏く気付いた。


 ……折れてるな。まあ、当然と言えば当然だが……。


 ジンシューの威力は特別合金の宇宙船すら貫通させる程である。普通の人間が生身で受け切れる技ではない。元々肉体が強くできている種族くらいしか弾くことはできないだろう。ヒルバド星人は闘いに特化した種族ではないので、当然だが肉体の強度はそれ程高くなかった。


 ……自滅だな……。


 ここぞと言わんばかりにリーファが距離を詰めてくれば、容赦なく回し蹴りをヘキムへとお見舞いする。

 だがしかし。


「ッ!!」


 リーファの蹴りを、折れた筈の右手首でヘキムは受け止めていた。

 これにはリーファも驚くが、すぐにわかった。


 ……こいつ、超回復で骨折を一瞬で治したんだ……。


 リーファの見立て通り、ヘキムの右手首は一切赤く腫れていない。加えて言うなら、リーファの蹴りを受けても、ヘキムの表情は微塵も歪まなかった。

 骨折が治っている証拠だろう。

 続けてジンシューを連続で撃ち込んでいくリーファだが、最初の数発だけ手で弾き飛ばしたヘキムは、後は避けながら構わず突進してくる。

 再び始まった、息もけぬ肉弾戦だ。

 段々と激しくなっていく攻防戦に、リーファは無意識の内に口角を上げる。対するヘキムはロボットのように、感情の見えない眼差しをリーファへと向けていた。


「ッ……ハァッ!!」

「ウッ……グアッ!!」


 リーファの踵落とし気味の蹴りが、ヘキムの両腕を弾き落とす。ヘキムの体勢がブレたところで、リーファはクルリと身体を回転させ、勢いよく回し蹴りをヘキムの胴へと叩き込んだ。

 ガードもまともにできず、吹き飛んでいくヘキムの身体。背中から壁へと激突すれば、「ガハッ」と肺中の空気を外へと吐き出す。

 少しふらつきながらも何とかヘキムが立ち上がれば、いつの間にかリーファが目の前でヘキムを見下ろしていた。

 咄嗟に「られるッ!」と肝を冷やしたヘキムだが、リーファは先程まで見せていた好戦的な笑みを消して「ここまでだな」といつも通りの口調で手合わせ終了を告げた。


「お前の実力はある程度わかった。宇宙船の中じゃあ、これ以上の戦闘は無意味だ」

「ま、まあそうですよね……。宇宙船ここじゃあ、リーファさんが思うようにジンシューを撃てないし……俺も避けて良いのかどうなのか一瞬迷っちゃいますし……」


 左頬を人差し指で掻きながら、リーファの発言に同意するヘキム。すると、シェパーが近くまで駆け寄ってきて「大丈夫か?」とヘキムの腕を自身の肩へと回した。


「シェパーさん、ありがとうございます。でも大丈夫ですよ?すぐ回復させるんで」

「お前の超回復は治る代わりに、痛みと倦怠感が酷くなるだろ?そんな大怪我じゃねぇなら、自然回復させた方が良い。気にせず俺に体重掛けとけ」


 ニカッと歯を見せるシェパーに、ヘキムは眉を下げながらも「ありがとうございます」と厚意に甘えることにした。

 それからシェパーが「それで?」とリーファに話し掛ける。


「手合わせ終わったけど、俺らの訓練法は見つかったのか?」


 シェパーが尋ねれば、リーファは「ああ」と頷いた。


「お前らの実力はわかった。一人で大人数を相手にしたことはあるか?」

「いえ、俺はありません」

「俺も……二、三回ってところだな。そもそもスナチワ族は月猫族と違って、単体で敵陣に突っ込んでいく戦闘スタイルじゃねぇし」


 素直にリーファの質問に答える二人。「なら」とリーファは更に質疑を続ける。


「お前ら二人で組んで闘ったことは?」

「否……ノール星じゃ、戦闘関連は殆どシアの仕事になっちまってるし、シア以外で闘うってなったら俺くらいで、ヘキムは滅多に闘わねぇよ」

「そうですね……でも、シェパーさんとなら咄嗟のコンビも上手くできると思いますよ。シェパーさんはよくシアの破茶滅茶な闘い方にフォロー入れてくれてますし、周りに合わせて闘うのが上手な方なんで」

「おいおい、そんなに褒めるなよ〜」


 顔を赤らめて、腕を後頭部へ回すシェパー。そんなシェパーを無視して、リーファは「良し」と一人頷いた。

 そして、手の平から一気に数十個のジンシューを撃ち上げる。それらは天井近くで止まると、大人しく宙で留まっていた。


「お前らの戦闘訓練は()()だ。襲って来る大量のジンシューを全て爆破しろ。全部で五十個ある。私はコントロールを切るから、間違っても宇宙船に当てるんじゃないぞ?二人で全部破壊できたら、次は百個のジンシューで訓練だ。リーチ星に着くまでに、二人で一度に五百個のジンシューを相手できるようにしておけ」

「ごっ!?……」

「五百…………」


 アッサリと言い放たれた数字に二人は揃って驚愕した。

 だがしかし、すぐに納得する。

 リーチ星人はおよそ千人弱。ここに居るのはたったの四人だけ。確かに二人で五百人は軽く相手できるようにならなければ厳しいだろう。いくら個々の戦闘力は高くても、圧倒的に多勢に無勢なのだ。

 二人は握り拳を作った。


「良ぉしっ!やるか、ヘキム!」

「はい!頑張りましょう、シェパーさん!」


 とそこで、シアから「やったー」と言う歓喜の声が宇宙船中に響き渡った。

 他三人が一斉にシアへと顔を振り向ければ、真っ赤な顔をしたシアが満面の笑みでリーファへと駆け寄って来る。


「リーファ!撃ち落とせたよ、ジンシュー!!」


 嬉々としてリーファに報告して来る姿はまるで子犬だ。リーファは大きく溜め息を吐くと、「この程度で喜ぶな」と冷たく言い放つ。


「まだスタートラインにすら立ってないんだ。そもそも、何回外したと思ってる?」


 リーファがシアを睨んだ。

 シェパーやヘキムと手合わせ中、リーファは訓練を続けているシアの方へも意識を向け、シアのジンシューの軌道が逸れれば、宇宙船に当たらないよう何度もジンシューを繰り出していた。

 リーファの苦労を考えれば、彼女の怒りも最もな訳で、シェパーは感心した様子で「よくもまあ」と口を開く。


「俺らの相手しながら、シアの方の面倒も見れたよな」

「月猫族だから、ジンシューの気配には敏感なんだ。止めなくちゃいけないのがお前の狙撃だったら、数発撃ち溢しがあったかもな」

「シアが月猫族で良かったのか何なのかって感じですね」


 ヘキムも苦笑いを浮かべる。

 シアのノーコンの酷さに呆れていないのは本人だけだ。しかしいつまでも技術不足を嘆いてる暇はない。

 それらの弱点を克服する為の三週間だ。


「さあ、始めるぞ。訓練に合格しなければ、お前らの惑星ほしは滅ぶと思え」

「「「おう/はい!!!」」」



 *       *       *



 そうしてあっという間に三週間が経った。


「リーファ!リーファ!!」


 午前八時。宇宙空間は時間の感覚が曖昧だ。

 朝日も何もなく、部屋の照明がなければ夜と勘違いしそうになる程暗い中で、シアが勢いよくリーファの部屋へと突進する。


「お前は……せめてノックくらいしろ。一体何の用だ?」


 既に起きて朝の支度を済ませていたリーファは、最早怒ることも諦めて、シアを部屋なかへと招き入れる。

 しかし興奮し切った様子のシアは、リーファの寛大なお許しに気付くことなく「良いから早く来て」とリーファの腕を引っ張った。


「リーチ星が見えたよ!!」

「!」

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