リーファ対シェパー
ノール星からリーチ星へと向けて発進した宇宙船は、現在真っ暗な星海の中を航海していた。
「良いか?今日からリーチ星に着くまでのおよそ三週間。お前らにみっちり戦闘訓練を付ける。死ぬ気で頑張れ」
「おーー!!」
既にやる気満々のシアが拳を天井に掲げる。対して、ヘキムとシェパーは互いに顔を見合わせると、「少し良いか」と手を挙げた。
「戦闘訓練は有り難いんだけどよ、具体的には何すんだ?」
「宇宙船の中じゃあ、できることは限られてますよね?」
二人の質問に、リーファはフンと鼻を鳴らす。
「何をするかはお前ら次第だ。まずは一回、私と手合わせしてもらう。宇宙船を壊さない程度なら超能力を使っても構わん。それから、お前らに見合った訓練方法を考える」
「へぇ〜、なるほどな」
「わかりました」
納得したらしい二人は、気合いを入れ直した。だが手合わせをする前に、「まずはお前だ」と、リーファはシアへと目を向ける。
「俺?」
「お前がやるのは一つだけ……ジンシューのコントロール訓練だ。この三週間で、どんな状況であっても私のジンシューを撃ち落とせるまでには仕上げてもらう」
「どうやるの?」
シアが聞けば、リーファは手の平からジンシューを一つ生み出し、それを適当に放った。ふわふわと宙を浮かんでいるジンシューは何処を貫くでもなく、大人しくしている。
「アレをジンシューで撃ち抜いてみろ」
あっさりリーファが言い放てば、シアは「えっ」と表情が固まる。何せノーコンだ。静止してる人間にすら当てることが困難だった程である。
「無理だよ!あんな小っちゃな的、狙えないよ!」
「良いからやれ」
リーファがシアの文句を一蹴すれば、シアは渋々「はーい」と手の平をリーファのジンシューへと翳した。右手に力を集中するシア。
「……ハッ!!」
掛け声と共に手の平からジンシューを放てば、ソレは真っ直ぐと飛んで行き……リーファのジンシューを掠めることなく宇宙船の壁へと突っ込んで行った。
「ま、マズい!!」
「宇宙船が!!」
シェパーとヘキムが揃って顔を青褪めさせる……がしかし。
宇宙船に当たる前に、間一髪リーファのジンシューが間へと滑り込んだ。爆発はするが、宇宙船には埃が付いた程度である。
ホッと一同が胸を撫で下ろした中、リーファは真顔で口を開いた。
「全然ダメだな。まずは止まっている状態のジンシューを撃ち抜け。それが出来たら、今度は動くジンシューを狙う。クリアすればどんどん難易度を上げていくから、リーチ星に着くまでに最高難易度をクリアしろ」
淡々とリーファが説明すれば、シアはポカンとした表情を浮かべていた。
そしてすぐに両手で握り拳を作り、ニカッとはにかむ。
「うん!頑張るよ!」
「……どうでも良いが、宇宙船に当たらないよう気を付けろ。私が面倒を見るのはお前だけじゃないんだからな」
「はい!師匠!!」
元気いっぱいのシアの返事に、かえってリーファは不安の溜め息を溢すのであった。
だが、リーファ自身も言っていた通り、いつまでもシアばかり構ってる余裕はない。
切り替えたリーファはシア用のジンシューを適当に作ると、クルリとヘキム達の方へと向き直った。
「待たせたな。スナチワ族、まずはお前から掛かって来い」
リーファがシェパーを名指しすれば、「スナチワ族って……」とシェパーが項垂れながら一歩前に出た。
「別に間違っちゃいねぇし、『チビ』よか全然マシだけどよぉ、できれば名前で呼んでくんない?」
「無駄話する暇はないから、さっさとしろ」
見事にシェパーの申し出をスルーするリーファ。予想通りの反応だったのか、シェパーは引き下がることなく構えを取った。
「それじゃ……行くぞッ!」
手合わせ開始だ。
飛び出したシェパーが腕を振りかぶる。受け止めようとリーファが身構えるが、あと数センチという距離で、シェパーはリーファの正面から姿を消した。床を蹴って、目にも留まらぬ速さで、リーファの死角へと回り込んだのだ。リーファの後頭部目掛けて、パンチを打ち込むシェパー。
だがしかし。読んでいたのか、スピードが足りなかったのか、リーファは振り返ることなく、軽々とシェパーの拳を受け止めていた。そのまま拳ごとシェパーの身体を持ち上げ宙に放り投げると、リーファは一気にスピードを上げて、無防備になったシェパーの腹に蹴りを入れた。
「ガッ!!……ッ〜!」
短く空気の塊を吐いたシェパーは、吹き飛びながらも何とか空中で体勢を整え、壁に張り付くようにして止まる。
「流石に強ぇな。それじゃあ、遠慮なく超能力使わせてもらうぞ!」
言いながら、シェパーは握り拳を前に突き出すと、親指、人差し指、中指を広げた。人差し指と中指だけをピタリとくっ付け、片目を瞑りながら照準を合わせる。
……来るか、スナチワ族の狙撃……。
リーファも表情を引き締め直す。
シェパーの右手人差し指と中指にオレンジ色の閃光が上がった……瞬間。
「ッ!」
咄嗟にリーファがジンシューを放つ。
オレンジ色の光線とジンシューが凄まじい勢いでぶつかり、爆発が起こった。
……速い……狙いも正確だ……流石は『遠距離戦最強』を冠していた種族なだけのことはあるな……。
心の中でリーファが感心する。
しかし、すぐに次の狙撃が始まっていた。
爆煙で視界が不鮮明な中、一寸の狂いもなく、今度はリーファの足を狙って光線が迫って来る。リーファが後ろに跳んで避ければ、光線は更にリーファの後を追ってきた。
……追尾できるのか……。
冷静に判断しながら、リーファが走る。だが、追い討ちをかけるようにリーファの前からも同じく光線が飛んで来ていた。
避けるにしろ防ぐにしろ、一秒の余地も許されないスピード。
リーファは挟み撃ちにされる直前で、高く飛び上がった。それを追いかけて、二つの光線も天井へと昇っていく。
しかし、追っているつもりが逆に誘われていたらしい。
リーファは光線へと身体の正面を向けると、右手を突き出しジンシューを放った。
爆音と共に、衝撃波と煙が空間を襲う。
「速さも狙いも悪くないが、それだけだな」
「ッ!?……グァッ!!」
突如、シェパーの懐まで入り込んで来ていたリーファが、シェパーに回し蹴りを喰らわせる。何とか腕をクロスしてガードしたシェパーだが、受け切れず床に激突した。
すぐさまシェパーは起き上がるが、ぶつけた背中が痛いのか「おぉ〜、痛てて……」と左手で摩っている。涙目で宙を見上げれば、自分を見下ろしているリーファと目が合った。
「ったく、容赦ねぇな……ただの狙撃じゃ歯が立たねぇし……」
ブツブツと呟きながら、シェパーが後頭部を掻く。やれやれと一つ大きな溜め息を吐いたところで、シェパーはリーファを見据えた。
「……そろそろ本気……出させてもらうぞ?」
「!」
纏う雰囲気が変わったシェパーに、リーファが身体を強張らせる。
だが、すぐに狙撃なり何なりしてくるかと思えば、シェパーは人差し指を立てた右手を天高く掲げるとゆっくり宙に円を描き始めた。何をしているのかわからず、訝しむような視線を向けるリーファ。
すぐに答えはわかった。
シェパーの指の動きに合わせて、オレンジ色の閃光を放つドーナツ型のナニかが空中に現れると、シェパーは人差し指をリーファへと向けた。
瞬間、ゾッとした悪寒が背筋に走り、反射的にリーファはソレを避ける。
リーファに当たることのなかったドーナツ状の閃光は宇宙船の床を掠めて、空気中に消散した。
だがしかし、掠めた床の状況を確認したリーファが表情を顰める。
ほんの少ししか当たっていないにも関わらず、深さ五センチ長さ数十センチ程の真っ直ぐな切れ込みが床に刻み込まれていたのだ。
宇宙船に使われる素材は、小惑星と衝突しても壊れないよう特別な合金が用いられる。それをアッサリ傷付けるなど、ちょっとやそっとのことじゃない。人体に当たれば、あっという間に胴体同士が亡き別れだ。
ジンシューにも劣らないその威力に、リーファは満足そうに口角を上げた。
「ここまでだ。これ以上は宇宙船が壊れる」
「おう。俺もそう思ってたよ」
ようやくテスト終了かと、シェパーは腕を下ろして身体の力を解いた。
「身体能力はギリギリ及第点と言ったところだが、超能力の扱いは悪くない。流石に闘い慣れてるな」
息一つ乱さずにリーファが誉めれば、シェパーは汗を拭いながら苦笑いを溢した。
「慣れてるっつっても、久々だけどな?汗一つ掻いてない奴に言われても、複雑だわぁ……ま、身体能力がアレな分、技の応用に力入れてんのは当たってるよ。他にも色々あるぜ〜!まあ、宇宙船じゃ見せられねぇけど……」
「わかった。……次はヒルバド星人、お前だ」
シェパーの応対も程々に、リーファがヘキムへと意識を向ける。ヘキムは「はい」と返事をすれば、シェパーと交代するように前へと出た。
「ヒルバド星人は本来、戦闘向きの種族じゃないが……わざわざ付いて来たんだ。それ相応の戦闘力があるんだろうな?」
リーファがヘキムを睨み付ける。
ヘキムは少し尻込みするが、「はい」と構えを取った。
「リーファさん程じゃありませんけど……不甲斐ない闘いはしませんよ」
リーファとヘキムの手合わせ開始である――。




