出発の日
「下着に着替えに、寝巻き……包帯と痛み止め、止血剤、消毒液……寝袋にタオル類……」
「おいおい、リュックがパンパンだぞ?」
傍迷惑なリーチ星人の惑星余命宣告から一日経った翌朝。
早速家の物を片っ端から広げ、ヘキムは必要だと思った物をリュックの中に詰め込んでいっていた。
同じく、町民達にどれくらい食料を分けられるか相談してきたシェパーは、大量の水入り水筒を持って、苦笑を溢しながらヘキムに話しかける。
この分だと荷物の量に耐え切れず、風船の如くはち切れるリュックの姿が遠くない内に見れるだろう。
「あ!荷物の選抜に集中し過ぎてました……。シェパーさんは、食料調達何とかなりましたか?」
恥ずかしそうに詰め過ぎた分を取り出すヘキムから視線を受けて、シェパーは「おう」とニッカリ歯を見せる。
「運良く小麦の収穫時期と重なったからな。今町の奴ら全員で乾パン作ってくれてるよ。後は野菜や果物もそこそこ分けてくれるって話だし、三週間は保つだろ。帰りは色々惑星寄って、食材調達しながら帰れば良いしな」
「良かった。明後日までには出発できそうですね」
リーチ星に行くに当たって、最難関であった食料問題が解決し、ヘキムはホッと胸を撫で下ろす。二つ目のリュックを用意して、シェパーから水筒を受け取り、中に入れていった。
「そう言や、シアとリーファは?」
シェパーが思い出したかのように、辺りをキョロキョロ見回す。少なくともリビングの何処にも二人の姿は無かった。しかし家にも居ないのだろう。あの騒がしい二人(リーファはシアに釣られているだけだが)が、物音一つ立てず無言で過ごしているとは思えない。
シェパーの予想通り、ヘキムは「ああ」とリュックから視線を上げると、家の裏に広がる森を指差した。
「特訓ですよ。ジンシューを上手に使えるようになる為の」
「通りで森の動物達が騒がしい訳だ」
笑いながら、シェパーも床に腰掛けて荷詰めを手伝う。手を動かしながら、シェパーが「リーファに言われたんだけどよ」と話を始めた。
「ノール星を出たら、シアだけじゃなくて俺達もある程度の特訓してくれるってよ」
その言葉が意外だったのか、ヘキムがピタリと手を止めた。目をまん丸に見開いて、シェパーを見つめるヘキム。
「……あのリーファさんが、俺達にも?」
「おう。リーチ星人全員と闘り合う必要はねぇけど、相手は千人。こっちは四人だからな。シアの勢いに乗って、宇宙に出ると決めたのは良いけど、何の対策も無しじゃあ、それこそリーファの言う通り、惑星が消滅する前に俺達が死んじまう。リーファもリーファでノール星が消滅するのは嫌なのかもな。どんな理由があるかはさておいてさ」
「……リーファさんの特訓ですか。普通に不安ですね。リーチ星に辿り着く前に寝込んじゃいそうです」
「見るからにスパルタそうだもんな!ま、頑張ろうぜ、ヘキム!『英雄』だからって、シアにばっかり背負わせる訳にはいかねぇからな!」
「はい!」
* * *
そうして出発の準備が進んでいき、二日後。ノール星消滅まで、本日入れて後二十八日。
いよいよ、リーチ星に向けて出発する日がやって来た。
「おお〜!!ピッカピカだ!!」
シアが瞳を輝かせる。
地下シェルターから地上へと顔を見せた宇宙船は、シェルター内で見た時よりも光沢があった。陽の光を浴びてる所為もあるが、何よりこの日の為に町の人達が隅々まで磨いてくれたお陰でもある。
既に巨大リュック五つ分になった荷物は宇宙船の中に詰め込んでおり、宇宙船の設定も予めリーファが整えてくれているので準備は万端だ。
後はシア達が乗り込むだけである。
宇宙船の周りに、町の人達全員が集まった。
「気をつけてな。直接助けることはできねぇけど、ノール星でお前らのことを応援してる」
クウロがシア、ヘキム、シェパー。それぞれの顔をしっかり見つめながら激励を贈る。シアは誇らしそうに「うん」と元気に首を縦に振った。
「シーちゃん、ヘキム君とシェパーを困らせちゃダメよ?しっかりね。頑張って!」
「シェパー、ヘキム。シアの事よろしくな。シア……ノール星の事、俺達の事、宜しくな」
次々に町の人達から応援と励ましの言葉を貰い、最後には握手と抱擁を交わす。
もしシア達が宝玉を壊せなかったら、これでノール星とも町の人達ともお別れだ。全員が死を迎えることになる。
シアは確かな責任感と、ほんの少しのプレッシャーを背負って、皆にいつも通りのキラキラとした笑顔を向けた。
「皆、行ってきます!!」
リーファが最初に乗り込み、次いでシェパー、ヘキム。最後にシアがブンブンと両手を振りながら宇宙船の中に入る。
リーファは操縦室に入ると、電源スイッチを押した。
ゴゴゴ……と地響きのような音が鳴り響くと、宇宙船のエンジンが次第に熱くなってくる。念の為目的地がリーチ星になっていることを確認すると、リーファは発射用レバーを引いた。
途端に噴射口から、凄まじい勢いの蒸気が発射され、ぐんぐんと宇宙船が空へ舞い上がって行く。
「「「行ってらっしゃーーい!!!」」」
町の人達の声を纏うようにして、宇宙船は上昇していき、遥か遠くの宙へと飛び去ったのであった。




