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番外編 仲間になった日

 広大な宇宙の西方域。大気に覆われ、白く輝く惑星ほしがあった。

 まだ在りし日のイタガ星である。

 星の半分は戦士達の訓練場となっているイタガ星は、深い森林や断崖絶壁の続く岩場など厳しい自然環境が広がっている。

 そんな訓練場の中でも、最上位戦士しか使うことのできない最も危険なエリアで、楽しく談笑する声が四つ。人影は六つ。


「いやぁ、チビの癖にやるじゃねぇか!!あのユージュンとここまで渡り合える奴なんか他に居ねぇぞ!?」

「そうそう!髪の色はやっぱ伊達じゃねぇんだなぁ!」


 髭面の男と女顔の男が両脇から親しげにリーファの肩を抱く。それに対して怒るでも振り払うでもなく、リーファはムスッと頬を膨らませて、ただユージュンを睨み付けているだけだ。

 ユージュンもユージュンで、「ケッ」と不機嫌そうにソッポを向いている。

 二人の様子に、好青年風の男が「おいおい」と苦笑いで口を開く。


「二人揃って、何そんな不貞腐れてんだ?さっきまで満足そうに闘ってただろ?つか、ユージュンは勝った奴の表情つらじゃねぇし……」

「どうせ闘いは楽しかったけど、案外相手が手強くて、楽勝できると思ってた自尊心が砕けて剥れてんだろ?特に王女は人生初の敗北らしいしな」


 太った男がニヤニヤと揶揄うように答えれば、女顔の男が「マジで!?」と身を乗り出す。


「人生初の敗北がユージュンって、贅沢なような哀れなような……」

「今でこそ、ユージュンは月猫族最強で通ってるけど、昔は黒髪単色の下位戦士に負けるなんて、恥以外の何物でもなかったもんな」

「しかも、ユージュンは負けた奴の心に、平気でズバズバと心無い一言二言三言を……」


 うんうんと四人が頷き合い、ジトッとユージュンを見つめる。視線に気付いたユージュンは、ただでさえ目付きの悪い吊り目を更に吊り上がらせた。


「何か言ったか?」

「「「「イイエナニモ」」」」


 四人の声が揃う。

 漫才のようにも見える五人の掛け合いだが、リーファの機嫌は直らない。ボロボロになった髪や服、傷だらけの身体も放ったらかしで、納得いかないと言わんばかりの視線をユージュンにひたすら投げていた。

 良い試合だろうと、年の差がどれ程離れていようと、悔しいものは悔しいのだ。今まで負け知らずなら尚更だ。

 だが、いつまでも剥れているリーファと違い、ユージュンは立派な大人だ。さっさと感情を切り替えると、「おい」とぶっきらぼうにリーファに話しかけた。

 リーファがジロリとユージュンを睨め上げる。


「ムカつくが、実力は想像以上だ。国王の命令でもあるしな。餓鬼は嫌いだが、お前を俺のチームに入れてやる。精々死なねぇように頑張るんだな、クソ餓鬼」

「…………」


 ユージュンの偉そうな口調に、更にリーファの表情が歪む。しかし、ユージュンに気にした様子はなかった。話は終わりだと、とっとと戦闘訓練に戻っていく。

 その後ろ姿を見送りながら、四人の男達は「よっしゃー」と飛び跳ねて喜んだ。


「おっかねぇ鬼リーダーから許しが出たぞ!!良くやった、お姫様!!」

「いやぁ、ユーリンちゃんがチーム抜けてから、むさ苦しかったの何のって!」

「やっぱ、強くて美人の女ってのは最高だよな!!歓迎するぜ、王女さん!」

「おいおい、まだ王女は子供だぞ?」


 初対面の冷対応は何処へやら。

 早速新たなチームメンバーを囲う四人に、少しばかりリーファは面食らった。

 ポカンと口を開けるリーファに、シシシと女顔の男が歯を見せて笑う。


「おっ、その表情かおは子供らしいじゃん!改めて自己紹介。俺はファン!俺の顔が可愛いからって、惚れんなよ?で、こっちの髭面がズーシェン。太ってんのがユーエン。女に刺されそうな顔してんのがジンな」


 パッパッパッと、人差し指の向きを人名に合わせて変えながら、ファンと名乗った男が適当にメンバーを紹介する。


「『惚れんなよ』って、三歳相手に何言ってんだ?ファン」

「つか、『女に刺されそうな顔』って何だよ」


 ズーシェンが呆れた様子で告げれば、続けてジンが苦情を漏らす。ファンは謝罪するでもなく、ヘラヘラ笑って「だってお前」とジンに人差し指を向けた。


「泣かした女は数知れずって顔してんじゃん」

「否どんな顔だよ、ソレ。別に常日頃から女と遊び歩いてる訳じゃねぇからな?偶にだよ、偶に!」

「おい!生まれてこの方、一度もモテたことない俺への当て付けか、ジンこのヤロー!」


 ジンが訂正すれば、逆にユーエンから半ば本気の眼差しで怒声が飛んで来る。ジンが「違ぇよ、落ち着け」と苦笑いで応える隣で、ファンがケラケラと笑っていた。


「それで言うなら、俺も女遊びはしたことあっても、モテたことはねぇな!」

「こちとら“遊び”すらねぇんだよ!!ズーシェン、テメェも舐めてんのか!?」

「アッハハハハ!!」

「ファン、笑い過ぎだ」


 半分涙目になりながらズーシェンの胸ぐらを掴むユーエンを、ファンが思いきり笑い飛ばす。そんなファンをジンが嗜めていた。


「…………」


 目の前で繰り広げられる馬鹿騒ぎをリーファはただただ呆然と眺める。

 とてもじゃないが、目の前の四人がイタガ星トップの戦闘員チームだとは思えない。


「テメェら!!いつまで遊んでやがんだ!!?いい加減、訓練に戻りやがれ!!」


 とそこで、遠くからユージュンの怒鳴り声が飛んで来た。


「おうおう、鬼のお出ましだ」

「カミナリ落とされる前に、訓練戻るか〜」


 ユージュンのたった一声で、先程まで騒いでいた四人の雰囲気がガラリと変わる。程良く張り詰めた空気は、これからの訓練の厳しさを物語っていた。

 ユージュンの居る岩場までそそくさと向かうメンバー達。ふと思い出したかのように、四人はリーファへと振り返った。


「ほら、行くぞ。これから同じ仲間チームだろ?一緒に地獄の訓練だ」


 ジンがリーファに声を掛ける。他のメンバーもリーファが来るまで、待ってくれているようだ。


「…………」


 仲間意識の薄い月猫族が棲むイタガ星では有り得ない程、四人の眼差しは暖かい。

 リーファは少し胸の辺りがくすぐったくなるような不思議な感覚を味わいながら、フワリと宙に浮く。


「……」


 リーファが四人の所まで飛んで行けば、ファンが「良しッ」とリーファの肩を抱いた。


 ……『同じ仲間チーム』……。


 無表情ながらも、無意識の内にリーファの瞳が小さく細められる。



 これはまだ昔。幼いリーファがユージュン達の仲間チームとなった日の記憶である――。


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