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命を賭けても良い存在

「「……『宇宙船がある』?/宇宙船あるの!?」」


 リーファとシアの声が重なる。反応を見る限り、シアはどうやら知らなかったらしい。シェパーは「ああ」と頷いた。


「一応、ここに居る奴らは全員移星人だからな。殆どの宇宙船は解体して資源として使っちまったけど、また何があるかもわかんねぇし、一番性能が良くてデカい宇宙船一隻だけ、地下シェルターに残してんだよ」


 シェパーから説明を受ければ、リーファが小さく「地下シェルター……」と呟く。通りで見つからない訳だ。

 リーファが一人納得する中、シアは輝かんばかりの笑みを浮かべる。「なら!」と勢いよくシアはリーファに顔を振り向けた。


「これでリーチ星に行けるね!!諦めないで済むよ!!」

「ば、馬鹿か!リーチ星の場所は!?お前知らないだろ!?」

「??リーファが知ってるでしょ?」


 一切疑うことない真っ直ぐな眼差しが、リーファに向けられる。シアの純粋な瞳に、リーファは一瞬言葉を詰まらせた。


「な、何で私が場所を知ってること……」

「えっ、何となく」

「……」


 アッサリ答えたシアに、リーファは思わず脱力した。

 底知れない野生の勘だ。流石は獣人種最強を謳われる月猫族の生き残りである。

 リーファは一度大きく息を吐くと、「確かに知っているが」と話を元に戻した。


「お前に教える義理はない。それに言っただろ?仮にリーチ星に辿り着いたところで、何処に居るかもわからない、姿も知らない長が持つ宝玉を、どうやって割る?無駄死にするだけだ」

「なら俺一人だけでも行く!!」


 一点張りのシア。

 あまりの頑固さに、リーファが額に青筋を立てた。


「……『一人だけでも行く』?どんな高性能の宇宙船でも、ここからリーチ星まで、片道三週間はかかる。お前が失敗すれば、他に宇宙船の無いこの星で、お前の大切な家族達は為す術なくノール星(ほし)と心中だ。それでも行くのか?」


 心の内を見透かすようなリーファの視線に、初めてシアが言い淀む。

 今ノール星を捨てることを決めれば、全員の命が確実に助かる。だがシアが我が儘を貫けば、最悪全員が死の道を辿ることになるのだ。自分の命だけならともかく、星に生きる全ての人達の分の命まで背負うには、シアの身体は小さ過ぎる。

 シアは目線を地面に落とした。そのまま「だって」と口を開く。


「故郷を捨てないで済む方法があるんだよ?最初からできないなんて決め付けるのは勿体無いじゃん……」


 小さくシアは呟くと、バッと顔を上げた。リーファを見据える瞳に、迷いは微塵もない。


「種族の誇りは持ってないかもしれないけどさ……ノール星で暮らしてること……ノール星で生きてることに、俺は誇りを持ってるよ。だから諦めたくないんだ!皆を説得してでも、リーチ星に行くよ!!」


 言い切ったシア。

 すると、黙って見守っていたヘキムとシェパーがポンと、それぞれシアの両肩に手を置いた。


「だよな。よく言ったぞ、シア。俺達全員、気持ちは一緒だ。『自分達の故郷を守りたい』……今度こそ、な」

「兄ちゃん達も一緒に行くよ、シア。俺もシアと、シェパーさんと……皆と出会えたこの星が、ノール星が大好きだから」

「シェパーさん……兄ちゃん……」


 シアの口元に笑みが溢れる。

 続けて、町の人達からも声が上がった。


「シア、俺達のことは気にしなくて良い。むしろ、俺達が闘えないばかりに、お前らばっかに頼ることになってごめんな?」

「一度故郷を失ってから、シーちゃんと出会って始まった私達の第二の人生……いつだってシーちゃんの為に命を賭ける覚悟はできてるのよ」

「シースさん……リオギーニさん……」


 町の人々がシアの周りに集まってくる。彼らは皆、温かい眼差しでシアを見つめていた。


「……本当は俺達も一緒に行きてぇんだけど、闘えない奴は足手纏いだからな。……英雄シア、行ってこい。俺達の故郷……ノール星を守ってくれ」


 最後にクウロがシアの背を押す。


 ……。


 その光景をはたから見ていたリーファは、ふと昔の記憶を思い出した。



 〜       〜       〜



 あれはまだ、イタガ星が消滅する前のこと。

 リーファはユージュンの率いるチームと共に、とある惑星ほしの侵略に来ていた。

 星の侵略は、チームの戦闘力に見合った戦闘レベルの惑星が選出される。苦戦することもなく順調に侵攻を進めていたリーファ達だったが、しかしヤケを起こした原住民の最期の抵抗により、一気に形勢を逆転されたのであった。


「だぁあ!クソッ!!何なんだよ、あの怪物は!!?」


 女顔負けの長髪美人が盛大に愚痴を吐く。その視線の先には、先程原住民が起動した生物兵器。街も大地も生き物も……全てを見境なく焼き払う巨大な幼虫が、真っ直ぐリーファ達に向かって突進していた。


「敵も味方も巻き込んでってか……俺らに故郷を奪われるくらいなら、諸共作戦って訳だ」

「……ジンシューが効かない。どんな装甲してるんだか、全く……流石に参ったな」


 髭面の男が乾いた笑みと共にぼやき、続けて好青年風の男も諦めたように標準を定めていた腕を下ろした。


「チッ、情報に無いことしやがって……このままじゃ、全員地獄行きだぜ」


 太った男が忌々しそうに舌打ちを溢した。

 リーファとユージュン含め、六人全員が深傷ふかでを負っており、身体の至る所から血が流れている。対して生物兵器こと幼虫は、先程から六人全員でジンシューを大量にぶつけたにも関わらず、ヒビ割れゼロ。埃すら付いていない始末である。

 そもそも幼虫と相対する前から、何時間と休まず原住民と戦っていたのだ。体力もそろそろ限界に近付いている。

「ハァハァ」と誰のものかも判別できない荒い息が、辺りに響いていた。

 全員が侵略を諦めかけている……その時だった。

 一弾。ジンシューがくうを切って、幼虫の顔面に直撃する。

 五人が振り返った先には、ユージュンが闘志の失っていない燃えた目で、幼虫をただ真っ直ぐ見つめていた。


「テメェら、闘う気がなくなったなら帰れ。邪魔だ」


 言いながら、ユージュンはもう一発ジンシューを放った。直撃はするものの、相変わらず幼虫にダメージを負った様子はない。

 だが、ユージュンの攻撃は止まらなかった。

 思わず、髭面の男が「おいおい」とユージュンを止めに入る。


「ありゃ、ジンシューじゃ無理だ!歯が立たねぇよ!」

「だったら何だ?」


 仲間達には一目をくれることなく、ユージュンは足を進める。


「ソレが闘いをめる理由になんのか?誇り高き月猫族の戦士が……敵前逃亡なんて死んでもできるかァア!!」

「「「「「!!」」」」」


 そう叫んだユージュンは一人、敵に向かって飛び出した。

 遠くからジンシューを撃てば、多少とは言え威力が落ちる。今度は近距離から撃つつもりなのだろう。だが、その分相手の攻撃を喰らう危険性がある。

 ユージュンの姿を視認した幼虫は、すぐさま目からビームを打ち出した。空中でソレを躱しながら、ユージュンは両手でマシンガンの如くジンシューを連射していく。

 ジンシューが幼虫の身体に当たる度、土煙がそこら中に舞い上がった。

 しばらくして、土煙が収まる。


「……チッ……」


 予想していたとは言え、傷一つなくキラリと輝く装甲にユージュンは眉根を寄せた。


「!」


 ユージュンが僅かに目を見開く。

 ユージュンの真横を光の玉が通り越していったのだ。ジンシューである。

 リーファがジンシューを放ったのだ。

 リーファはユージュンの隣に並んだ。


「「ハァ!!」」

「「オリャア!!」」


 他の位置では幼虫を囲うようにして、四人の男達がそれぞれ特大のジンシューをお見舞いしていた。

 ユージュンはフッと口角を上げる。


「……何だ、帰るんじゃなかったのか?」


 ユージュンが皮肉を告げれば、「はぁあ!?」と四方から反論が飛ぶ。


「俺らも月猫族の誇り高き戦士なんだよ!!やられっ放しで帰れるか!!」

「そもそも、チームリーダー置いて帰る訳にも行かねぇしな」

「俺達の底力見せつけてやろうぜ!!ユージュン!!」

「俺らは全員、お前だから命預けて闘ってんだ!!」



 〜       〜       〜



 懐かしい記憶を思い出していたリーファは、現実に帰った。

 目の前の光景は、あの日の記憶と何処か似ている。


 ……命を賭けても……預けても良いと思える存在……。


 リーファがシアを見つめる。

 ヘキムとシェパー、町の人達に囲まれたシアは、正しく『そういう存在』だった。

 シアは町の人々から激励を貰うと、リーファと向き直り、ニコッと微笑みかける。


「ね、リーファ。俺達にチャンスを頂戴。自分達の故郷を守るチャンスをさ」


 そう言って、シアはリーファに手を差し出した。初めて会った日から、幾度となく差し出されているシアの右手。

 受け取った試しは無いにも関わらず、よくもまぁ懲りないものだと、呆れを通り越して、いっそリーファは感心していた。


「…………」


 シアに応えることなく、リーファは一度瞼を閉じ、深く息を吸い込む。瞼の裏に浮かぶのはユージュンの顔だ。



 ……『俺は運が良かっただけだ。母親に似て甘ったれたアイツが、強くなるとは到底思えねぇよ』

 ……『ふぅん…………』



 ふとユージュンと交わした会話が、リーファの頭をぎる。

 ユージュンからシアの話を聞いたのは後にも先にもその時だけだ。しかも名前すら聞かなかったので、会話をしたことさえ、リーファは少し前まで忘れていた。

 月猫族らしく、自分の子供と言えど一切シアに興味を持っていなかったユージュン。リーファもリーファで、初めて出会った自分よりも強い月猫族であるユージュンのことは気になっても、その子供の方には興味がなかった。リーファより年下で、しかも黒髪単色の下位戦士。父親ユージュンすら『見込み無し』と思っているなら尚更、この話題を続ける必要はない。

 しかし、ユージュンの言葉には続きがあった。



 〜       〜       〜



「でも……運が良けりゃ、お前すら越える戦士に成長するかもな」


「はぁあ!?この私が黒髪だけの下位戦士に負けるって!?」


「実際、俺にすら勝てたことねぇだろ?」


「現状、月猫族最強が何言ってんだ!?大体、私とお前で何年、歳が離れてると思ってんだよ!!?私が大人になる頃には、お前なんて小指一本で勝てるようになってるわ!!」


「ほぅ?デカい口叩くようになったじゃねぇか、クソ餓鬼。ならまずは、俺の息子から余裕で倒してもらわねぇとだな」


「お前の息子、まだ赤ん坊だろ!?成長するまで待ってろって言うのか!?本当に強くなるかもわからないのに!?」


「餓鬼の成長は早ぇって言うだろ。……俺の息子が成長する頃には、お前も……――になってるだろうしな」



 〜       〜       〜


 かなり昔の記憶により、最後の言葉が思い出せない。

 だが、その時のユージュンの表情はいつになく穏やかだった。

 リーファはソッと目を開いた。

 目の前には、変わらずシアの姿。

 十年以上の月日で、お互い身体も強さも成長した。元々潜在能力が高かったリーファはともかく、下位戦士である筈のシアも、既に戦闘能力だけで言えば上位戦士に匹敵している。


 ……本当にお前が……ユージュンの言う通り、私を越える戦士になるのなら……。


 リーファは差し出されたシアの右手を見つめる。


「……」


 そして、勢いよくシアの手を取った。

 まさか本当に受け取ってくれるとは思っていなかったのだろう。シアが目一杯瞳を大きく開かせている。

 その反応に気分を良くしながら、リーファはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。


「ならくれてやる。精々足掻いてみろ、ユージュンの息子」

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