生贄儀式
謎の言葉を残し、空に映し出されていた顔が消える。
「クソッ!あの快楽主義共がッ!最悪なタイミングでッ……」
リーファが空に向かって舌打ちを溢した。訳がわからず頭上に疑問符を乱舞させているシアと違い、ヘキムとシェパーは「まさか」と緊迫した空気を漂わせる。
「ねぇ、リーファ。今の何だったの?何か『一ヶ月以内にノール星と心中するかしないか選べ』的な事言ってたけど、あれどういう意味?」
シアがリーファの服の裾をクイクイと引っ張る。リーファは不機嫌であるのを隠そうともせず「今のは」と口を開いた。
「リーチ星人による惑星の“余命宣告”だ」
「……わ、くせいの……よめい……?」
「つまり、このままいけば、あと一ヶ月でこの星は消滅しちまうってことだ」
キッパリ言い放つリーファ。
言葉を飲み込めなかったシアは、一瞬キョトンと間抜けな表情を浮かべて、数秒後。
「…………しょ、消滅〜〜〜〜!!!??」
と思いきり叫んだのであった。
* * *
「……えっと、それで……何がどうなって、ノール星が消滅しちゃう訳?」
お茶を一杯飲む事で気持ちを落ち着かせたシアが、ホッと息を吐いてからリーファに尋ねる。リーファは「遥か遠くに」と説明を始めた。
「……リーチ星という惑星に住む、リーチ星人という種族が居る。そいつらは私達と同じく超能力持ちの種族なんだが、その超能力ってのが、『未来の予見』だ」
「『未来の予見』……つまり未来予知ってこと!?すごいね!!本当に超能力じゃん!!」
物語に出てきそうな能力名に、わかりやすくシアがテンションを上げる。
だが、話はそんな単純なものではなかった。
お気楽なシアの反応に溜め息を吐きながら、リーファが「厄介なのはここからだ」と話を続ける。
「その未来予知には、ある儀式が必要らしい。そのある儀式ってのが、一つの惑星を生贄に捧げることだ」
「『惑星を生贄に』?」
いまいちピンと来ていないのか、シアが首を横に倒す。リーファは「ああ」と頷いた。
「原理は知らないが、リーチ星人が未来を予見する時、必ず人間が暮らす星がランダムに選ばれ、その惑星は一ヶ月後に消滅する。その消滅した時の莫大なエネルギーを使って、リーチ星人の長が未来を見るんだ。リーチ星人が未来予知を行う度、一つの惑星が消滅することから、周りの奴らが『生贄儀式』などと呼び始めた」
リーファの説明に、シアが「へぇ」と相槌を打つ。本当に理解しているのか謎な反応だが、とりあえずヤバい状況にある事と、大まかな事はわかってくれたらしい。
「じゃあ、その……リーチ星人って人達が未来を見る為に、俺らのノール星が消えちゃうってこと?」
「ああ、そういうことだ」
「……一ヶ月後に?」
「ああ、確実にな」
「…………」
無慈悲なリーファの宣告に、思わずシアが黙り込む。
とそこで、「でも」とヘキムが声を上げた。
「何故ノール星のことをリーチ星人は知ってるんでしょう?この惑星は無人星として周りの星々から認識されている筈なのに……」
ヘキムが「おかしいな」と言うように、怪訝な表情を浮かべる。リーファは答えを知っているらしく、「それは」と返した。
「生贄に選ばれる星は、リーチ星人が選んでいる訳じゃなく、完全なランダム制だからだ。そもそも、ここは本当なら名前すらない辺境の惑星だぞ?リーチ星人だって、ノール星が何処にあって、どんな種族が住んでいる星なのか、知らずに宣言している筈だ。というか、存在すら知らないだろうな」
「そっ……!」
あまりの理不尽さに、ヘキムが言葉を詰まらせる。
そんなふざけた原因で、自分達の惑星を消されるなんて、溜まったものじゃない。
「兄ちゃんもシェパーさんも、そのリーチ星人って人達のこと知らなかったの?」
シアがヘキム達の様子を見て尋ねる。
自分だけが初めて知る情報に驚いている場合はよくあるが、ヘキム達も驚愕している姿は珍しい。
シェパーは「まあ……」と言葉を濁しながら、後頭部をガシガシ掻いた。
「リーチ星人って言う存在自体は知ってたよ。噂で、だけだけど……一応有名だからな。でも知ってる事と言えば、種族名とリーチ星人の生贄に選ばれたら、一ヶ月後に星が滅ぶってことだけ。詳しい方法とかは何も知らなかったし、未来予知なんて話も初耳だ」
シェパーが答えれば、続けてヘキムから「俺も似たようなものかな」と返答される。そして、シェパーは「むしろ」とリーファへと視線を移した。
「何でお前は、そんな色んなこと知ってんだ?月猫族は宇宙中の種族のことを知っとく義務でもあんの?」
シェパーが冗談混じりに問えば、リーファから「馬鹿か?」と白い目で見られる。
「リーチ星はヴァルテン帝国の配下に入ってるんだよ。ウニベルが未来予知の超能力を欲しがってな。だから、帝国軍幹部以上の階級の奴らは、全員リーチ星に関する事を知っている。それだけだ」
「はぁー、なるほどねぇ〜」
間の抜けた返事で「うんうん」と首を縦に振るシェパー。
とその時、家のインターホンが鳴った。
家主であるヘキムが出る前に、扉が勢いよく開けられる。
「シェパー!!やっぱりここに居たのか!」
クウロだ。
クウロは勝手知ったるように、部屋の中まで入ってくると、シェパーの腕を掴む。
「さっきのアレ、お前らも見ただろ!?『まさかリーチ星人の生贄儀式じゃねぇか?』って、町民達がパニックになってんだよ!シェパー、早く来てくれ!!」
焦っているクウロはグイグイとシェパーの腕を引っ張る。対して、シェパーは落ち着いたもので、「ああ、そのことな」と椅子からゆっくり立ち上がった。
「わかった。行くには行くけど……余計に混乱させちまうだけだぜ?きっと……それとリーファ、お前も来てくれ」
と、シェパーがリーファに手を差し出す。
リーファは「はぁあ?」と眉根を寄せた。
「何で私が?」
「否だって、リーチ星人について一番詳しいのはお前だろ?俺は今お前に聞いたことしか情報持ってねぇから、もしまだ知ってる事があるなら、丁度良いから町の奴らの前で話してくれよ」
「ふざけるな。そもそも大まかな情報は全部話した。それ以上必要な情報なんてないだろ。とりあえず、今一番しなくちゃいけないのは、この星を脱出する為の宇宙船を作ること、一択だ」
フンとそっぽを向いて、全く椅子から立ち上がる気配のないリーファ。
シェパーは「やれやれ」と言うように、肩を竦めると、シアとヘキムに向かって「おい」と呼び掛ける。
「念の為、ヘキムとシアも一緒に来てくれ。全員で決めなくちゃいけないことがあるのは事実だしな」
「はい、勿論です」
「オッケー!」
快く頷いた二人はそれぞれ席から立つ。
残るは一人。
シアはクルリとリーファに身体を向けると、「はい」とリーファに手を差し出した。
「リーファも一緒に行こ?」
「…………」
ニコリと微笑みかけてくるシアに対して、リーファは苦虫を噛み潰したような何とも言えない表情を浮かべる。
「さっきの言葉聞いてたか?何で私が行かなくちゃいけないんだ?」
低い声でリーファが尋ねれば、シアは屈託なく「だって」と告げる。
「リーファを一人にさせたくないもん」
邪心の一切ない純粋な笑みがリーファに向けられる。
「………………」
一呼吸間を空けて、「はぁー」と大きな溜め息を吐くと、リーファは白旗を揚げた。そのままシアの手を取ることなく、腕を組んで立ち上がる。
出会ってからずっと、自分の手を受け取る気のないリーファに、シアは「意地っ張りだなぁ」と文句を溢した。だがすぐに「まぁ良いや」と切り替える。
「ヨシッ。それじゃあ行くぞ」
「「はいっ」」
「……はぁ………」
そうしてシア達はクウロと共に、町へと急いで飛んで行ったのである。




