髪色
「ねぇねぇ、聞いてよ!リーファって、月猫族のお姫様なんだってさ!!」
あの後、特訓は終わりにして家へと帰った二人は、シェパーも一緒にヘキムの作った朝食を食べた。
そして冒頭のシアのセリフである。
朝食後のお茶で、すっかり一服していたヘキムとシェパーは「へぇ」と口を揃えた。
「通りで美人さんな訳だ。やっぱりお姫様ってのは、何処の星でも美人揃いなんだなぁ」
シェパーが染み染みと頷けば、リーファから「お前か、そのふざけた常識を教えた奴は」とツッコみが入る。
「言っておくが、私は養子であって、王の実子じゃない」
リーファがシアにしたようにシェパーへ告げれば、ヘキムの方が「養子?」と首を傾げる。
「身内意識が薄い月猫族にそんな制度あったんですね。否、身内意識が薄いからこそあるのかな?」
ヘキムが天井に向けていた人差し指を自身の頬に持ってくる。
どちらにしても、子供に関心の低い種族であることに変わりはない。
不思議がるヘキムに、リーファは一つ溜め息を吐いた後、自分の金色に輝く髪を一房指に絡めた。
「私は歴史上初めて、金髪だけで生まれた戦士だからな」
「『金髪だけ』?」
シアがキョトンと首を横に倒す。
言われて「そう言えば」と、同じ種族であるにも関わらず、リーファと髪色が違うことに、シアは今更ながら疑問に思った。
シアの心情に気付いたのか、リーファは「そうか、お前は知らないのか」と口を開く。
「虎の毛色を知っているか?」
「え、虎?うん。金色に黒の縞々でしょ?」
いまいち話の流れがわからず、ピンと来てない表情ながらも、シアが素直に答える。リーファは「ああ」と頷いた。
「配色だけなら月猫族も同じだ。金髪ベースに黒のメッシュか、若しくは黒髪ベースに金のメッシュのどちらかの髪色になる。そして、金髪部分が多ければ多い程、戦士としての才能が……潜在能力が高いということになるんだ。当然、強い奴程偉い、弱肉強食のイタガ星では金髪部分が多い奴程敬われるし、優遇される」
「えっ、でもリーファ、黒髪の部分なんてある?あっ、耳の縞々か」
「耳と髪は別に決まってるだろ。黒髪の部分がないから、王族の養子にされたんだ。人の話をちゃんと聞け」
呆れながらリーファが言えば、シアが「あはは」と苦笑いを漏らす。
とそこで、「ん?」とシェパーが一つ疑問に思った。
「じゃあ、シアは?こいつも金髪の部分なんてねぇけど……」
シェパーが思った事を尋ねれば、リーファは一瞬目線を彷徨わせる。
割合に違いはあれど、月猫族は金と黒が入り混じった髪色を持っている。金髪だけのリーファが前代未聞なら、黒髪だけのシアも同じくイレギュラーなのであろうか。それを裏付けるかのように、リーファも「本来ならあり得ない髪色だな」と断言した。
「黒髪だけの奴もシアを除けば、歴史上一人しか居ない。それがお前の父親だ」
「俺のお父さん……じゃあ、俺も俺のお父さんも、月猫族の中じゃすっごく弱いってこと?」
金髪部分が多ければ多い程、戦闘に関する潜在能力が高くなるということはそういうことだろう。シアにもユージュンにも、強さの証である金色は、髪の毛一本分すらない。
だが「そういうことだ」とすぐ頷かれると思っていたシアの予想と違い、リーファは「否」と不機嫌そうに歯軋りした。
「どういう訳か、下位戦士にも関わらず、ユージュンは強かった。それこそ、当時の月猫族で、奴に勝てる奴は一人も居なかったくらいにな。大怪我を負っていたとは言え、私と互角以上に闘えたんだ。お前だって、既に上位戦士以上の実力は持っている」
「その『下位戦士』とか『上位戦士』って何?」
「言葉の通りだ。黒髪が多い、落ちこぼれの戦士を“下位戦士”。金髪が多い、優秀な戦士を“上位戦士”。それがイタガ星での絶対的な身分だ」
リーファの簡潔な説明に、シアは本当に理解できているのかわからない呑気な表情で「へぇ」と相槌を打った。
そして一言。
「何かややこしいね」
この一言で全てを片付けてしまった。
そんなシアに、リーファはジト目で「お前」と視線を送る。
「理解する気ないだろ」
「あはは……話がちょっと難しくて……」
「何処かだ?ったく、自分の種族の性質や故郷の制度くらい、頭にしっかり入れておけ」
尤もなリーファの言い分に、シアは誤魔化すように苦笑を溢すしかない。「そんなことよりさ」と話題を変えた。
「特訓の続き、何時からやる?町におつかいしに行かなくちゃいけないからさ。できれば早めに始めたいんだけど」
人差し指を天井に向けながらシアが告げれば、リーファは「知るか」とそっぽを向く。
「私は今からリハビリに、もう一度森へ入る。特訓したければ、勝手に付いて来れば良いだろ」
「えぇ〜、釣れないなぁ。リーファを一人きりで行かせる訳ないでしょ。じゃあ、今から朝の続きしよっか」
「しょうがないな」と言わんばかりに肩を竦めるシアに、リーファはイラッと額に青筋を立てる。
「ッ!!」
だが、何か悪寒を感じたのか、ピクリと耳が小刻みに動くと、リーファは神妙な表情でハッと床へと視線を下ろした。「リーファ?」とシアが首を傾げるのも束の間。
「「「「!!??」」」」
酷い揺れが大地を襲う。
地震だ。
「ウオッ!?」
「じ、地震!?」
色々な家具が倒れる中、シェパーとヘキムが咄嗟に家の柱にしがみつく。シアは反射的にリーファを支えようと腕を伸ばすが、当のリーファはさっさと宙に浮いていた。シアもそれに倣って、地面から足を離す。
しばらくして揺れが収まると、「何だ何だ」とシェパーがぐちゃぐちゃになった室内を見回した。
「こんなデカい地震、ノール星に来て初めてだぞ?」
「はい。一体どうしたんでしょう?」
ヘキムも困惑しているようだ。
だが、地震が収まったにも関わらず、リーファはまだ眉間に皺を寄せたまま床を睨んでいる。
……何だ?星の核が変わった……?
リーファもよくわからないようだ。
だがしかし、ただ一つ言えることは、今の地震が確実に何か良くない事の前兆であったということである。
『ノール星の皆さん、初めまして』
「「「「!!?」」」」
突然聞こえた声に、四人が一斉に窓へと視線を向ける。
窓の外、空に漂う雲に混じって、巨大な顔が一つ浮かんでいた。薄らと空の青が透けている所を見ると、実体ではなくホログラムのようなものなのだろうか。
「な、何アレ?」
唖然とするシアとは対照的に、リーファは心当たりでもあるのか「アレはッ!」と目を見開いた。
地上の反応は本体に届いていないのか、それとも興味がないのか、空に映し出された生首は構わず話を続ける。
『皆さんに朗報です。貴方方の惑星は、未来への貢ぎ物として選ばれました。よって、今から一ヶ月以内に惑星と心中するか、惑星を捨てるか選んで下さい』




