「“一緒”じゃない」
「『生かされた』?ウニベルにか?」
話が見えず、シェパーがツッコむ。リーファは一つ溜め息を吐くと、「元々月猫族とウニベルは折り合いが悪かったんだ」と煩わしそうに前髪を掻き上げた。
「本来月猫族は誰かの下で働くような種族じゃない。それをウニベルは、帝国軍戦力増強の為、力づくで無理矢理従わせ、配下にしたんだ。当然、月猫族はウニベルを恨み、いつか殺してやると敵意を抱く」
「じゃあ、月猫族がウニベルを裏切ろうとしていることが本人にバレたから、お前らの仲間は全員殺されたのか?」
シェパーが尋ねれば、リーファは「否」と首を横に振った。
「最初からそんなことはバレてた筈だ。月猫族には忠誠心の欠片もなかったからな。……さっき戦力増強の為と言ったが、それは月猫族の戦力が帝国軍に足されるということじゃない。月猫族が戦力になっている間に、他の優秀な芽を育て、月猫族以外の戦闘員を増やすという意味だ。他の戦闘員が育てば、月猫族に用はない。厄介な存在になる前にさっさと消したってところだろ」
淡々と話すリーファに、シェパーは返す言葉を失った。
これが本当の話なら、こんな冷静に話せる内容じゃない。もっと激怒して、ウニベルへの敵意や殺意を滲ませていてもおかしくない筈だ。
しかし、リーファの口調から荒々しい感情は一切感じ取れなかった。
本当に月猫族は身内意識が薄いんだなとシェパーが再認識したところで、今度は「それなら」とヘキムが声を上げる。
「本当に、どうしてリーファさんはわざわざ生かされたんですか?」
改めてヘキムが聞けば、リーファは視線を逸らして「それは……」と言いかけたまま、口を閉ざした。
言いたくないらしい。
……『愛している。この宇宙で誰よりも……良いな?お前は俺の物だ』
固く握り締められたリーファの拳が小刻みに震えている。
とそこで、シアが「もしかして」と全く場の雰囲気に合わない明るい声と、ピコーンと効果音が付きそうな勢いで、人差し指を天井に向けた。
「そのウニベルって奴、俺と一緒でリーファのこと好きなんじゃない!?」
「ッ!!」
「……え……」
「……は?……」
あっけらかんと言い放たれた台詞に、ヘキムとシェパーが揃って唖然とする。
あまりにも呑気なシアの思考回路に呆れて、二人は苦笑いでシアを見つめた。
「…………」
しかし、当のリーファは身体の震えが止まらないのか、両腕を抱え込むように両手で掴んでいた。
……『愛しているぞ、リーファ』
何度も何度も、ネットリと耳の中を這い回るように、その言葉がリーファの頭の中でリピートされる。
段々と呼吸が荒くなってきたところで、リーファの異変にシアが気付いた。
「??リーファ?どうし……」
「絶対に違う!!!」
「「「!??」」」
突然のリーファの大声に、シアだけでなくヘキム達も目を見開いた。
構わず、リーファは吊り上がった瞳でシアを睨み付ける。
「アイツは……違う!!絶対にそんな訳がない!!ただ……ただ……!」
「お、落ち着いてよ、リーファ!ご、ごめんね!?何か気に触ること言ったなら、謝るからさ!ほら!手!血が出てるじゃん!」
シアに言われて、少しリーファの気が落ち着く。言われた通り、握っていた拳を緩めれば、爪の跡が赤く滲んでいた。
……クソッ、またアイツのことで動揺したッ……。
小さく舌打ちを溢すリーファだが、シアはそんなこと気にせず、「ちょっと待ってね」と薬棚の方へと駆けていく。すぐにリーファの側に救急箱を持って戻って来ると、当たり前のようにリーファの手を取って包帯を巻いた。
「……アイツが私を生かしたのは、ただの気紛れだ。どうせ、誰でも良いからサンドバッグ代わりに、月猫族を一人残しておきたかっただけだろ」
血で滲んだ手が純白の包帯に巻かれていく様を見つめながら、ボソリとリーファが吐き捨てる。その言葉に感傷はなく、先程のように激情が顕になっている訳でもない。
感情の見えないリーファの声だが、シアは「そっか」と頷いた。
そして軽く手当てが終わると、目線をリーファと合わせてニッと歯を見せる。
「気紛れでも意図的でも、どっちにしたって嬉しいよ!だって……そのお陰でリーファに会えたんだもん!生きててくれて、ありがとね!リーファ!」
「ッ!…………じゃない……」
「え、何て?」
小さく呟かれたリーファの声が聞き取れず、シアが聞き返す。
だがリーファに言い直す気はないのだろう。
勝気な笑みを浮かべたリーファは、少し頬を赤らめて、代わりにこう返した。
「『単純馬鹿だな』って言ったんだ」
「うわっ、酷ッ!絶対さっきそんなこと言ってなかったでしょ!?」
ムゥと頬を膨らませるシアだが、リーファは当然これをスルー。「ちょっと、リーファ」としつこいシアに、「うるさい」と一蹴していた。
少しツッコみどころがあれども微笑ましい光景に、保護者二人も自然と笑みが溢れる。
「ま、難しい話はさておき、まずはノール星に新しい仲間がやってきた歓迎パーティーでもするか!」
シェパーが話題を変えて、明るく提案する。シアが「それって」とパァッと満面の笑みを浮かべた。
「リーファの歓迎パーティーってこと!?」
「良いんじゃないですか?町の人達はまだアレなんで、家でするしかありませんけど」
「ホント!?聞いた!?リーファ!パーティーだよ、パーティー!!やったね!!」
「別に私は仲間になった訳じゃ……」
「……ない」と言いかけたリーファだが、ハイテンションではしゃぐシアの耳には聞こえていない。
リーファの手を取り身体を引き寄せると、そのまま自身の唇をリーファの頬に押し当てた。
「これからよろしくね、リーファ」
「チュッ」と軽いリップ音が室内に響く。
ヘキムとシェパーがピシッと固まる中、リーファは一瞬のキョトン表情から一転。ワナワナと肩を震わせると、真っ赤になった顔でキッとシアを睨み上げた。
「この……エロガキがぁあああ!!!」
そうして、当然の如く、リーファの怒声が家中に響き渡ったのであった。




