仇
「……えっと、つまり……俺とリーファ以外の月猫族は、そのウニベルって奴に全員殺されちゃったって、こと?」
シアが聞き返す。
リーファは「ああ」と頷くと、「あれは」と語り始めた。
* * *
十七年前のあの日……私達月猫族は、全員ウニベルから“緊急帰星命令”が出ていた。“緊急招集命令”や“緊急出動命令”なら日常茶飯事だが、『故郷に帰れ』なんて命令は、あの日が初めてだった。
普段月猫族は、その八割が他の星に侵略しに行ってるから、イタガ星に月猫族が揃うことは滅多にない。
ウニベルの策略とも知らず、故郷に帰って来た月猫族達は、全員が巣に戻るのを待ち構えていたウニベルによって、あっという間に故郷ごと消された。
* * *
リーファの話が終わると、場に沈黙が訪れる。
月猫族がほぼほぼ絶滅状態にあることはヘキムとシェパーも知っていたし、『ウニベルを殺したい』などと言うからには、その原因がウニベルにあったのだろうと思っていた。しかし、その手口までは知り得ない。ウニベルの常識外れな力に、二人はシアと一緒になって驚いていた。
だがシアが黙っているのは、何もウニベルの力に恐れ慄いたからではない。
「……仲間と故郷が滅ぼされちゃったから、リーファはウニベルを殺したいの?」
シアがふと尋ねる。
ウニベルを殺したい理由を聞いて、返ってきたのがこの話なら、つまりはそういうことだろう。
だがしかし、リーファはシアから視線を逸らすと「別に」と呟いた。
「同種を殺されたことはどうでも良い。月猫族は元々身内意識が薄い種族だから。強い奴が偉くて、それ以外はゴミ。家族だろうが恋人だろうが、必要があれば殺すことも躊躇わない種族だ。だからそんなことはどうでも良いんだ。ただ私は……」
リーファは己の手の平を見つめ、グッと固く握り締める。
「利用するだけ利用して、その癖用済みになった瞬間、あっさり殺しやがったアイツが許せないだけだ」
リーファが奥歯を噛み締める。
シアはそんなリーファの表情を見つめると、「そっか」と微笑んだ。
「じゃあ、俺も手伝うよ」
「「「ッ!?」」」
シアの急な発言に驚かされるのはこれで何度目か。
リーファだけでなく、ヘキムとシェパーも「えっ」と目を見開く中、シアはのほほんと笑っていた。
「リーファの仇ってことでしょ?ウニベルが帝国軍の王様ならさ、町の人達の仇でもあるし、俺もリーファの復讐に付き合うよ」
「…………意味わかって言ってるのか?」
しばらく言葉が出てこなかったリーファだが、これだけ喉から搾り出す。
ウニベルに歯向かうという意味。
リーファの復讐に付き合うという意味。
軽い気持ちで口にできる程、それらの意味は軽くない。
しかしシアは変わらない。
「うん。ウニベルを倒したら、リーファも町の人達も、皆が幸せってことだよね!?最高じゃん!俺はリーファを手伝うよ!」
「…………」
快活に告げるシアに、リーファは「これは意味をわかってないな」と呆れ返る。
それでも、自然と口角は上がっていた。
「勝手にすれば良いだろ」
「うん!……だからはい、握手!」
「…………」
そうして差し出されたシアの手を、リーファは毎度の如くスルーするのであった。
とそこで、今まで黙っていたヘキムが「ところで」と口を開ける。
「さっきリーファさん、『ウニベルが一瞬で惑星ごと消滅させた』って言ってましたけど、ウニベルは一人で惑星を破壊できる程の力を持っているんですか?」
ヘキムが尋ねる。
普通惑星一つ破壊しようと思えば、惑星の中心部にある核を壊すしかない。それには地上から核へ向けて、巨大な衝撃を送るしかないが、そんな膨大なエネルギーなど到底人一人が持ち得るモノでも、扱えるモノでもない。
帝国軍の戦闘員が用済みの惑星を破壊する時も、最低十人以上で衝撃を送る。
にも関わらず、ウニベルは一人で惑星の破壊を行うというのか。
本当にそんなことが可能なら、最早人智を超えた化け物である。
リーファは煩わしそうに舌打ちを溢した。
「それがアイツの超能力だ。アイツはあらゆる物体からエネルギーを奪う。人間、動物、植物に大地……当然それらの集合体である星々からも。そうして奪ったエネルギーを、自身の力として自由自在に放出するんだ。惑星一個分のエネルギー弾は、当然惑星の核すら簡単に破壊できる。アイツが宇宙最凶と恐れられてる所以だ。まあ、滅多にウニベル本人が闘うことはないから、その実力を知る奴はごく僅かだけどな」
「…………」
「ねぇ、エネルギーを奪われた人達ってどうなるの?」
二の句が告げないヘキムに代わって、シアが疑問に思ったことを口にする。リーファは脅すように目を細めた。
「奪われる量にも拠るが……生物なら死ぬ」
「「「ッ!!」」」
目を見開く三人。構わずリーファは続けた。
「動物は痩せ細り、植物は干涸びる。生物以外も……大地はヒビ割れ、水は枯れ果て、惑星は“死の星”へと変わる」
「……えぇ〜、そんなの無敵じゃない?」
シアが珍しく表情を顰める。
シアの言う通り、ウニベルは無敵であった。“宇宙帝国”と呼ばれる国のトップに君臨するだけのことはある。
「だから“暗殺”するんだ。真正面から行っても、エネルギーを奪われて終わりだからな」
「リーファ、頭良いんだね〜」
「お前が考えなしなだけだろ」
リーファに思いきり馬鹿にされるシアだが、全く傷付いた様子もなく「へへへ」と笑う。
「なあ、俺からも質問良いか?」
シェパーが声を上げた。
リーファが目線で話を促すと、シェパーは口を開く。
「何で月猫族は殺されたんだ?月猫族と言えば、帝国軍随一の戦力だっただろ?後、惑星ごと消滅させられた筈なのに、何でお前とシアは生き残ってんだ?」
シェパーの尤もな質問に、シアは「確かに」と首を縦に振る。リーファは僅かに目を伏せると、シェパーからシアへと視線を移す。
「シアが生きてる理由は知らない。私は……私だけは……生かされた。……ウニベルに……」
そう言ってリーファは眉根を寄せ、表情を歪めるのであった。




