出会い
宇宙の最果てにある辺境の星……ノール星。緑豊かで豊富な水を湛えたこの星は、僅か数十人の異星人が身を寄せ合い、小さな町を築いて暮らしていた。争いはなく、権力者も居ない。平和でのどかな星である。
「ん〜、確かこの辺に……」
森の中、一人の青年がキョロキョロと辺りを見回しながら歩いていた。
墨のように真っ黒な短髪はふわふわの猫毛で、彩度の低い金色の瞳はまるで琥珀石のようだ。垂れ目垂れ眉の所為か随分と幼く見える顔立ちだが、身体付きは細身ながらもしっかりと筋肉が付いている。首元の締まった襟とは裏腹に、ダボッとしたゆとりのあるトップスは太ももまで丈があり、腰辺りで帯で締め上げていた。七分丈のズボンと動き易いスリッポン。頭にはカチューシャやリボンを思わせる位置にハチマキを巻いている。
青年の名はシアと言った。
「ん〜、もっと奥に落ちたのかなぁ。でも、さっきの流れ星……」
シアが瞼を閉じ、数分前に見たモノを思い出す。
西の空、赤い線を描きながら、確かに何かが森の奥へと落ちていくのが見えた。
シアは締まりなく口角を上げる。
「……絶対に隕石だ!見つけて持って帰って、皆に自慢しよ!」
そういう訳で、シシシッと笑いながら、シアは森の奥へと足を進めていった。
と、ある程度進んだところで、森の木々が一直線上に倒れている光景が見えてきた。
「おっ!」
シアが瞳をキランと輝かせる。
シアの言う隕石の落ちた形跡がコレなら、倒れた木々の先にお目当てのモノがある筈だ。シアは勢いよく地面を蹴った。
「うわっ!何だコレ……」
しばらく形跡を辿った先に見えた景色を前に、シアはポカンと間抜けな表情を浮かべる。
直径深さ、共に数十メートルはくだらない巨大な窪みがそこにはできていた。周りの草木は落下の衝撃で全て吹き飛んでしまったのだろう。窪んでいる辺りだけ、土が剥き出しになっている。確かに隕石が落ちたと言われても納得の光景だ。
その中央にソレはあった。
白い楕円体状の形をした、人一人分くらいの長さがある謎の飛来物。少なくとも隕石の類ではなさそうだ。
シアは迷わず窪みに向かって飛び降りた。
「何だろ、コレ……もしかして、でっかい虫の卵とか……」
一人呟きながら、シアが物体に触れた……その時だった。
「ッ!?」
シアが思わず目を見開く。
卵のような繭のような物体が淡い光と共にフワリと消えると、中から少女の姿が現れたのだ。
陽の光を反射してキラキラと輝く金髪に陶器のような白い肌。残念ながら瞳は固く閉じられており、その虹彩はわからない。一番の特徴は、髪の間から覗く虎縞模様の獣耳と、腰辺りからピョコンと出ている長い尻尾である。
どうやら獣人種の種族らしい。耳と尻尾の形からして、虎の獣人だろうか。
だがそんなことよりも、問題なのは少女の容態だ。
その真っ白な肌も煌めく金髪も血で赤く濡れており、身体の至る所に大小様々な傷ができている。少女の身に纏っている真っ青な服も、左腕に巻かれたリボンも赤黒く変色し、ボロボロになっていた。
とんでもない重傷である。最早失血死してないのが不思議な程だ。
「……酷い怪我だ……」
このままでは死んでしまうと、シアが少女の身体を抱き上げる。その僅かな刺激で少女が「うっ」と眉根を寄せた。
庇護欲が唆られる少女の姿に、シアは少し頬を染める。
……それどころじゃないけど、ちょっと可愛いかも……。
そうしてシアは少女を姫抱きにしながら、森を出たのであった。
〜 〜 〜
「……後の事はお前に託す。生きろよ、リーファ」
〜 〜 〜
「……ユージュン…………ん……んん……?」
「あ、起きた?」
微睡みから意識が浮上し、少女がゆっくりと瞼を開ける。瞬間視界一杯に広がっていたのは、少女の顔を瞬き一つせず見つめているシアの真顔だ。
刹那、少女の翡翠の瞳とシアの琥珀が交差する。
少女は眠気眼から一転、一気に大きく目を見開いた。
「ユージュン!!?」
「うわっ!?」
ガバッと勢いよく上半身を起こした少女に驚いて、シアが慌てて身体を引く。頭同士がぶつからなかったことにホッと胸を撫で下ろすシアだが、一息吐く間もなく、少女に両肩を強く掴まれた。
「ユージュン!何でお前が生きて……」
「ちょちょ、落ち着いて!俺、その『ユージュン』とかって人じゃないから!」
「は?…………」
言われて落ち着いたのか、少女はシアから両手を離した。そしてマジマジとシアの顔を見つめる。
シアもシアで少女の顔に改めて見入った。
眠っている時はわからなかった翡翠の瞳はパチクリと大きく、愛らしい顔立ちだが何処か気高さも兼ね備えている。背中まで伸びた金髪は、シアとは違ってサラサラのストレートだ。紛れもない美少女である。
……やっぱ可愛いな、この娘。何か、やたら力強かったけど……。
少女に掴まれ少し痛む肩を摩りながら、シアは呑気に少女に見惚れていた。
しかし少女はと言えば、その綺麗な顔を歪めさせると、バッと右手の平をシアの顔面に向けて突き出した。
「??」
不思議そうに間抜けな表情を浮かべるシア。
その次の瞬間、少女の右手の平に光の粒が集まり出したかと思うと、野球ボールくらいの光の玉があっという間にできた。その玉に物凄く見覚えがあるシアは「いっ!?」と思いきり顔を顰める。
シアが殆ど反射的に顔を横に逸らすのと、少女の作った玉がシアの頬を掠めて部屋の壁を貫通するのは同時だった。
パラパラと崩れる壁を「………」と無言で見遣ったシアは、再び少女へ視線を向ける。
「い、今のって……ッ!?」
シアが言葉を続けるより先に、少女の手刀がシアの眉間を捉えていた。寸でのところで、少女の手を捕まえたシアは「ちょっと」と焦った声を上げる。
「いきなり何すんのさ!?って、うわっ!!」
シアの質問には応えず、掴まれていない左手を真横に振るう少女。これも身体を後ろに反らせることで避けたシアだが、代わりに掴んでいた少女の右手を離してしまった。途端に少女はベッドから飛び降り、敵意剥き出しでシアから距離を取る。
……まるで猫の威嚇みたいだな……。
のほほんとそんなことを考えながら、シアは白旗を揚げるように両手を頭の上に挙げた。
「そんな焦んなくても、俺は別に君の敵じゃないし、危害も加えるつもりはないよ。だからさ、大人しくベッドに戻ってくんない?怪我人に無理させたら、兄ちゃんにどやされるんだよね」
「…………」
敵意がないことを示すように両手をヒラヒラ振り続けるシアだが、少女に気が緩む気配はない。それどころか再び光の玉を、今度は両手の平に作り始めていた。完全に殺るつもりらしい。
だがしかし、シアが何とかするよりも先に、少女の方がグラリと身体を傾けて、溜めていた光の粒を消散させた。
どうやら身体が限界に達したようだ。それもその筈、元々何故生きてるかもわからない重傷者だ。
「ちょっ……おっと……」
少女が床に倒れる寸前で、シアが少女の身体を抱き止めた。
「ほらぁ、だからベッドに戻ってって言ったのに〜。もう、見かけによらずお転婆だね、君」
言いながら、シアは少女の身体を軽く持ち上げ、ベッドまで運ぶと優しく降ろす。
苦しげに眉根を寄せながらも、変わらず少女はシアを睨んでいた。
「……何が目的だ……怪我の手当てまでして、何を企んでる!?」
少女が漸く口を開く。何も誰も信じていない目だった。
シアは「んーー……」と困ったように後頭部を掻くと、「企みねぇ」と一言呟く。そして少女に向かってヘラッと微笑んだ。
「俺、シアって言うんだけど……君の名前、教えてよ」
それだけ告げると、シアは呆ける少女に構わず、右手を差し出したのであった。




