真実
「……という訳で、シア本人どころか、町の連中にもシアの正体バレちまったんだ!」
「言い付け破って、すみませんでした!」
「…………」
あれから三十分後。シア達三人はヘキムの待つシアの自宅へと帰っていた。家に到着するなり、シアとシェパーの謝罪が飛び、ヘキムが混乱する間も無く、町での出来事をシェパーが説明し始め、今に至る。
あまりにも突然の事態に、脳内処理が遅れているヘキムだが、何とか状況を把握すると「えっと……」と困惑した言葉を漏らした。
「つまり……シアが月猫族だとバレた訳……ですよね?」
ヘキムが確認を取れば、シアから本日何度目かの「本当にごめんなさい」という謝罪が入る。ただでさえ怒ると怖いヘキムだ。幼少期から散々口酸っぱく言われてきた言い付けを破ってしまったと知れば、どれ程の説教が待っているかわからない。シアは冷や汗をダラダラ掻きながら、顔を上げられずにいた。
シェパーも「ああ」と頷けば、シア同様頭を下げる。
「悪い!シアを怒らないでやってくれ!いつか話さなきゃいけない日が来るだろ!?ここはどうか、俺に免じて!!」
両手を顔の前で合わせてお願いするシェパー。
ヘキムはしばらく無言を続けていたが、漸く口を開けば、「シア」と抑揚のない声で話し掛けた。ビクッとシアの肩が揺れる。
「……シアはどう思った?」
「え……?」
急な質問に、思わずシアが顔を上げる。
見上げた先にあったヘキムの表情は、怒っているというより怯えているように見えた。
「月猫族がどんな種族かはもう知ってるだろ?自分が月猫族だと知って……町の人達の仇と同種だと知って……どう思った?」
ヘキムの瞳が不安気に揺れる。
ヘキムとシェパーが、シアから月猫族や帝国軍の話題を避けていた理由だ。シアに自分の種族を知らせたくなかったのは、シアが自分のルーツを知って傷付くのを防ぐ為だ。
だがソレも、最悪なタイミングでバレてしまった。月猫族が現れ、いかに町民達が月猫族を嫌っているかを知ったタイミングで、よりにもよってバレてしまったのだ。
普通ならショックを受けて、自棄になってもおかしくない。今まで親しくしていた人間から、自分の種族が『月猫族』というだけ拒絶され、否定され、本当の姿を隠しながら生きていかなくてはいけない。自分という存在意義に疑問を持っても不思議はないだろう。
ヘキムは神妙な面持ちで、シアの返答を待った。
対するシアはキョトンと首を傾げる。
「……?えっと……月猫族だってわかった時の感想でしょ?普通に嬉しかったよ?」
「…………へ…………?」
ヘキムがフリーズする。シアの隣では、シェパーも表情が固まっていた。
唯一リーファだけが、「当然だろ」とでも言うように落ち着いている。
構わずシアは続けた。
「え、だって月猫族ってことは、リーファと一緒の種族ってことでしょ?嬉しいに決まってるじゃん!好きな子とお揃いだよ、お揃い!ね!リーファ!!」
ハツラツとした笑顔でシアがリーファに視線を送る。リーファは「アホか」とそっぽを向くが、横髪から覗く頬は少し赤い。満更でもないようだ。
「…………プッ!……アッハハ!!」
我に帰ったヘキムが、声を上げて笑い出す。不思議そうに首を横に倒すシアと違い、シェパーもまた眉を下げて笑っていた。
「アハハ!!……はぁ……そっか」
笑いが収まり、目に溜まった涙を指先で拭いながらヘキムは柔らかく微笑む。
「嬉しい、か。なら良かった。ごめんな?兄ちゃんのエゴでずっと大事な事、隠してきて。謝ってくれてありがとう。兄ちゃんは怒ってないよ。シアは、こんな兄ちゃんのこと許してくれるか?」
「うん!だって俺の為でしょ!?なら、怒る訳ないじゃん!」
満面の笑みで答えたシアに、ヘキムも嬉しそうに「ありがとう」と口角を上げる。そしてシェパーへと視線を向けた。
「シェパーさんもすみません。シアの事は俺が言い出したことなのに、シェパーさん一人に謝らせてしまって。後で俺も謝りに行くんで……」
「気にすんな、気にすんな。子供の代わりに謝るのは大人の役目だろ?あの時のヘキムの判断は間違いじゃなかった。町の連中もわかってくれてるさ」
「シェパーさん……」
ヘキムがはにかむように目を細める。対するシェパーは豪快に歯を見せて笑っていた。
……『大人の役目』……。
二人の掛け合いを黙って聞きながら、リーファがジト目でシェパーを見つめる。
リーファよりも低い身長に、シアよりも幼く見える顔立ち。とてもじゃないが、“大人”には見えない容姿である。ヘキムと向かい合わせで立っていれば尚更だ。
「……こんなチビの何処が“大人”何だ?」
心の中だけで呟いたつもりが、つい口に出てしまっていた。リーファが「あっ」と思った時には、既に瞳孔が開き切ったシェパーとバッチリ目が合う。どうやら聞こえてしまったらしい。
「ダメだってば、リーファ!シェパーさんに身長と童顔の話は禁句だって!今でもシェパーさん、苦手な牛乳毎日頑張って飲んでるんだからさ!」
「ちょっ、シア!それフォローになってない!」
フォローのつもりが余計なことを口走るシアに、慌ててヘキムがツッコむ。
がしかし、時既に遅し。
シェパーはフルフルと肩を震わせたかと思うと、「お前らなぁ!!」と涙目で叫んだ。
「種族間の見た目の差異について触れるのは、マナー違反って知らねぇのか!?これでもなぁ!同種の中では一番高身長で!一番大人びてたんだぞ!!?俺だって、生まれ変われるなら……平均身長が二メートル超えてて、超絶渋い顔立ちがデフォルトの種族になりてぇよ!!」
涙ながらに熱弁するシェパー。
聞く限り、低身長と童顔は種族としての特徴らしい。
シアが「ごめんって、シェパーさん」と苦笑混じりに謝罪する中、リーファは同情することも罪悪感を感じることもなく、涼し気な表情で「そう言えば」と話し始めた。
「まだお前の種族名を聞いてなかったな。犬の獣人だろ?何族だ?」
「……まず心無い一言に対して謝るって精神はお宅には無いんデスカ?」
思わずシェパーから棒読みの敬語が出てくるが、リーファに気に留めた様子はない。謝罪する気配もないので、シェパーは溜め息と共に口を開いた。
「はぁ……スナチワ族。お前の言う通り、犬の……つかチワワの獣人だよ。言っとくけど、何十年も前に成人してっから!!」
シェパーが半ギレ気味に告げれば、その名に心当たりでもあるのか、「……スナチワ族……」とリーファが復唱しながら口元に人差し指を当てる。
「……確か狙撃に特化した種族の名前がそんなだった気がするな。どんな硬い物質も貫ける光線を指から放つ超能力持ちの種族……違うか?」
「!……流石に月猫族は他種族のことも詳しいな。そうだよ、当ってる」
「やはりそうか……」
シェパーの種族がわかったことで、何か疑問点でも出てきたのか、リーファが再び考え込む。その隣ではシアが「へぇ、シェパーさんの種族って、そんな超能力持ってたんだ」と一人感心していた。
とそこで、ヘキムが「それはそうと」と片手を挙げた。
「話は変わるんですけど、帝国軍が乗ってきた宇宙船ってどうしたんですか?やっぱりリーファさんが預かったんです?」
ヘキムが尋ねる。
リーファは昨日から宇宙船を探していた。町で見つからなければ、移星人が乗ってきた宇宙船を貰うしかない。
帝国軍の船なら最新鋭の機材が詰め込まれている上、乗組員はリーファが既に殺している。これ以上ない良物件であった。
だがしかし、顔を背けたまま何も言わないリーファに代わって、シェパーが「あー、それな」と人差し指を天井に向ける。
「帝国軍の宇宙船なら、リーファが自爆モードにした後、何処か宇宙に飛ばしてたよ」
「えっ、そうなんですか?」
シェパーの答えに、ヘキムが意外そうな声を上げる。当然の反応だろう。
不思議に思って、ヘキムがリーファへと視線を遣れば、リーファが「チッ」と舌打ちを溢す。
「帝国軍の宇宙船のデータは、全て本国に送られるんだ。どの星に何日滞在したとか、次の目的地は何処かとか……当然壊れたら、壊れた場所と日にちも送られる。予定にない行動や予期せぬ事態が起こった時、すぐに対処できるようにする為だ」
「……それってつまり、帝国軍の宇宙船を放置しても、破壊しても、どちらにしてもノール星に危機が及ぶ可能性があったということですか?」
ヘキムが要約すれば、リーファから「ああ」と肯定が返ってくる。
「帝国軍と決別する前なら、それでも全然良かったが……生きてることを知られちゃマズい今、そんなプライバシーも何もあったもんじゃない船なんか、近くにあるだけで迷惑だ。何処か遠くで勝手に自爆させて、痕跡を消すしかない。まあそれでも、怪しまれて周辺地域の星に、偵察を送っては来るだろうけどな」
「「…………」」
リーファの説明に、ヘキムとシェパーは思わず押し黙った。もしリーファが居なければ、自分達ではあの二人組の帝国軍戦闘員は倒せても、宇宙船の処理の仕方はわからない。その場で壊してしまい、次の刺客を呼ぶ羽目になった筈だ。
そんなもしもの未来を想像して、そうならなかったことに心底ホッとする。
「……あの、本当にリーファさんは、帝国軍と決別した、んですか?」
恐る恐ると言った具合にヘキムがリーファへ訝しむような眼差しを向ける。
それもその筈。今朝、リーファはヘキムの質問に対してハッキリと「帝国軍に戻る」と答えているのだ。
シェパーとシアから事の次第は聞いたが、リーファの事情はリーファに聞かなければわからない。
何故この短時間でリーファの意見が変わったのか。
ヘキムがリーファの真意を探るように、真っ直ぐとリーファの瞳を見つめる。
リーファはこれに、溜め息でもって応えた。
「信じられないなら信じなくて良い。どうせ怪我が完治するまでの宿を提供して貰うだけの関係だ。それに、帝国軍じゃなくなったって、お前らの味方になる訳じゃないんだ。不要な馴れ合いをする気は更々ない」
「……」
リーファの返答に、ヘキムはやはり油断ならないと表情を引き締め直す。そんなヘキムの反応を鼻で笑うリーファだが、「えぇ〜」と不満気ながらも、呑気な声が隣から上がった。
「俺は信じてるよ、リーファのこと!だからそんな悲しいこと言わないでよ!……それよりさ!リーファ、さっき……帝国軍のおじさんに『ウニベルを殺す為に帝国軍に入ってた』って言ってたよね?何でリーファはそのウニベルって奴を殺したいの?」
「「「…………」」」
刹那、時が止まった。
質問を受けたリーファだけでなく、側で聞いていたヘキムとシェパーもあまりの驚きで身体が凍り付く。
無知もここまで来たら、いっそ感心するなと、リーファは止まりかけた思考回路の中漠然と思った。
しばらく沈黙が場を支配した後、リーファはやれやれと深く息を吐く。
「……月猫族なら、お前も知っておくべき話だ。教えてやる。良いか、よく聞け」
そこで言葉を区切ると、リーファはいつになく真剣な表情でシアの目を見据えた。シアの心臓がドクンと音を立てる。
「私達月猫族はその殆どが絶滅したと、今朝そこのヒルバド星人が言ってたが、実際は少し違う。月猫族の生き残りは、私とお前以外、この宇宙に存在しない。他の月猫族は全員、イタガ星と一緒に消滅した」
「ッ!!」
スケールのデカさにシアが息を呑む。
だが、話の本番はここからであった。
リーファは握り拳を作ると、その手から血を滴らせる。
「だが、イタガ星が消滅した原因は謎の大爆発なんかじゃない!月猫族も、私達の故郷イタガ星も、全部アイツが!!ウニベルが滅ぼしやがったんだ!!」
読んで頂きありがとうございます!
百話以内に完結を目指しているので、めちゃくちゃ話の展開がジェットコースターですが、どうぞご容赦ください!あまりにも急展開過ぎたり、話が滅茶滅茶だったら改稿します、、
次回もお楽しみに!




