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シアの正体とリーファの決意

「……そう言えばお前、餓鬼ができたんだって?ユージュン」


「あ?何で知ってんだ?」


「お前の奥さんが、昨日延々と自慢してきた」


「あの馬鹿ッ、誰彼構わず言いやがって……」


「それで?そんなに自慢してくるってことは、やっぱり“上位戦士”なのか?髪色は?」


「……ハッ……()()()


「ッ!」


「月猫族として何の価値もねぇ……ゴミ以下の存在だ」


「……でも、お前の子だろ?鍛錬次第じゃ、上位戦士を上回る戦士に成長するかもしれない。お前だって、そうだろ」


「さあな。俺は運が良かっただけだ。母親に似て甘ったれたアイツが、強くなるとは到底思えねぇよ」


「ふぅん…………」



 〜       〜       〜



 ふわりと漆黒のハチマキが舞う。

 リーファが放ったジンシューは、器用なことに、シアの頭に巻かれたハチマキだけを撃ち抜いたらしい。


「「「………………」」」


 その場の全員の視線がシアへと向けられる。

 遠い過去の記憶が頭に甦っていたリーファは、一人「やはりな」と何処か懐かしむような、苦しそうな、複雑な表情を浮かべていた。


「し、シア……?」

「シー、ちゃん……その頭……」

「ま、まさか…………」


 町の人間も帝国軍も皆揃って、時が止まったかのように、表情を凍らせている。シェパーだけは気まずそうに、汗が一筋頬を伝っていた。

 皆が見ているのはシアの頭……今までハチマキによって、髪の毛に押し付けられていた()()()だ。

 金色の毛に、所々黒で刻まれた縞模様。紛れもない虎の耳である。

 この世に獣人種は多数()れど、虎の耳を持つ者達などそうそう居ない。


「……つ、月猫族…………」


 帝国軍の一人が呟いた。

 その単語に、反射的に息を呑む音が複数聞こえる。

 場がシンと凍りついている中、渦中のシアはあっけらかんと自身の耳をフニフニ触っていた。


「あーあ、あんなに兄ちゃんとシェパーさんから、『絶対に人前でハチマキ取るなよ』って散々言われてたのに、あっさり撃っちゃって……というか、全く痛くなかったんだけど、リーファ器用だね。……それで、どう?リーファ。俺、やっぱり月猫族なのかな?」


 シアがニコリとリーファに微笑みかける。それに応じるように、初めてリーファもシアに向けて、穏やかに笑い返した。


「ああ。お前は間違いなく月猫族だ。それもアイツの――……」

「え、何て?」


 最後の声があまりに小さくて、シアがリーファに聞き返す。

 しかし、リーファが何か答える前に、漸く時が動き出した帝国軍の男二人が、顔面蒼白といったようにブルブルと震え出した。


「つ、月猫族……どうりであのガキ、強い訳だ」

「ど、どうするんだよ?ウニベル様に報告すべきなんじゃ……」


 お互い青褪めた顔を突き合わせて、ヒソヒソと話し合っている二人。そこに、「おい」とリーファが割って入った。


「り、リーファ様!いかがなさいますか!?」

「リーファ様の生存もウニベル様に報告しなければいけませんし……」


 即座に敬礼と共に、男二人がビシッと背筋を伸ばす。

 だが、リーファはニヤリと意味深な笑みを浮かべると、「否」と男達の意見を否定した。


「報告はしなくて良い」

「「えっ??」」


 男達の間抜けな声が揃った。

 と、リーファは流れるような仕草で、人差し指と中指、それぞれの先からジンシューを生成し、一気に撃つ。


「ヴッ!……」

「グァ!……」


 男二人から小さな悲鳴が上がった。

 男達はたった今、リーファに()()()()()()撃たれた手首を片手で押さえる。そして、脂汗の浮かんだ顔でリーファを見上げた。


「り、リーファ様?」

「な、何を……?」


 恐る恐る尋ねる二人。

 リーファは笑ったままだ。その表情かおに怒りはない。気分を害したどころか、上機嫌とも思える程だ。にも関わらず、男達は言い様のない恐怖を感じていた。


「確認だ。私は本当に『死んだ』扱いになっているんだな?」

「は、はい」

「私のことはもう誰も探していないんだな?」

「は、はい……否、ですが噂で、ウニベル様直属の者が偶に探しに出かけていると……ほ、本当かどうかは知りませんが……」


 リーファの質問に、怯えながらも二人が答える。リーファは満足したように「そうか」と、とびきり綺麗に笑った。

 思わず男二人の頬が赤く染まる。


「報告は良いから、伝言を一つ頼まれてくれるか?」


 リーファの声は何処までも凪いだ海のように穏やかだった。

 顔面の美しさも相まって、男二人が惚けるのも生理現象である。

 が、それが男達の最期のトキメキとなるのであった。


「り、……」

「先に()()へ行って、()()()()にこう伝えてくれ。



『ざまぁみろ』



 ってな」


 言い終わるや否や、リーファは手の平を男の内一人の顔面に翳すと、瞬く間にジンシューを撃ち付けた。

 断末魔もない。正に一瞬の出来事である。

 頭どころか上半身が刹那の間に消し飛ばされてしまった男の代わりに、もう一人の男が「ギャアアアア」と悲鳴を上げた。

 これには町の人達もどよめく。


「り、リーファ様!?な、何を!!ウニベル様を裏切るおつもりですか!!?」


 腰が抜けたらしい。

 男は尻もち状態のまま、足を懸命に動かして、少しでもリーファから距離を取ろうと藻搔いている。

 すっかり怯え切った男の目を見下ろして、リーファが嗤った。その瞳は残酷に冷え切っている。


「『裏切る』?……違うな。元々私は、あんな奴に忠誠を誓ったことは、唯の一度だって無いんだ。ただ……アイツを殺す為だけに今まで帝国軍に入ってた。それもたった今、事情が変わった」


 リーファは今朝、ヘキムの『帝国軍に戻るのか』という質問に対してこう答えている。『戻るに決まってる』と。

 だがしかし、今朝と今では状況も事情も何かもが違っていた。


「『死んだ』と思われているんだろ?なら好都合だ。わざわざ帝国軍に戻る必要もない。死んだと思っていた奴に根首をかかれて、悔しそうに歪められたアイツの無様な死に顔……想像するだけで良い気分だ」

「ぁ……ぁあ……」


 リーファの本気を感じ取ったのだろう。

 このままだと殺されると確信した男は、震える手を握り締め「り、リーファ様」と叫んだ。


「じ、じ、実はッ、俺!昔からリーファ様に憧れてたんですよ!!圧倒的な強さを誇る月猫族に!!前々からウニベルさ……ウニベルにも嫌気がさしてたし!なので、俺にも手伝わせてください!!い、一緒にウニベルの野郎に、一泡吹かせましょう!!」


 見事な手の平返しである。

 ダラダラと冷や汗を掻きながら、瞳孔が開き切っている男の顔は、必死そのものだった。

 リーファはその様を冷徹に見下ろし、フッと鼻で笑う。


「『憧れて』ねぇ……『圧倒的な強さを誇る月猫族』に?」

「は、はいぃ!月猫族は素晴らしい種族です!!正に宇宙最強の種族です!!」


 ペラペラと男が舌を回す。どう考えても“おべっか”以外の何ものでもない……都合の良い台詞だ。

 当然そんな台詞もの、リーファには通じない。


「へぇ……なら、『宇宙最強の種族』であるシア(アイツ)を『ゴミ』扱いしたこと……どう償うつもりだ?」


 リーファが親指でシアを指す。

「あ……」と男は一瞬にして血の気が引いた。


「否……えっと、それは……」


 必死に言い訳を考える男だが、勿論そんな時間を与える程リーファは優しくない。

 躊躇なく手の平を男に翳すと、ニヤリと嗤った。


「残念だったな」

「やめっ…………ッ!!」


 場に静寂が訪れる。

 ガタガタと震える男はいつまで経っても来ない刺激に、もう既に死んでしまったのかと目を開けた。


「「…………」」


 そして見えたのは、二人の月猫族である。

 今まさにジンシューを放とうとしていたリーファの腕を、シアが真剣な表情かおで掴んでいた。

 リーファは相手を射殺すような鋭い視線で、シアを睨み付ける。


「おい、手を離せ」

「相手に敵意はない。殺しちゃダメだよ!」


 しかしシアは怯まない。同じようにリーファに対して凄み返した。

 リーファが「チッ」と舌打ちを溢す。


「甘ちゃんも大概にしろよ?親切で教えてやる。そこのチビも言ってただろ。帝国軍の兵士を一人でも逃せば、次はもっと強力な大軍が押し寄せて来る。今殺さなきゃ、後で後悔するのはお前自身だぞ?」

「……『チビ』ってシェパーさんのこと?ダメだよ、リーファ。シェパーさん、身長と童顔、気にしてるんだからさぁ。それは禁句」


 先程のシリアスな表情は何処へやら。いきなり場違いな指摘をするシアに、ピキリとリーファが額に青筋を立てる。


「……相変わらずふざけた奴だな…………第一コイツは、私が生きていることを知ってるんだ。このまま逃せば、ウニベルにそのことがバレる。そうなる前に確実に殺すんだ!わかったら、手を離せ!!」


 リーファがシアの手を振り払おうと腕に力を入れるが、やはり腕力はシアの方が上らしく、ビクともしない。


 ……腕力が勝てない時点で、コイツが月猫族だと疑うべきだったなッ!


 心の中で毒突きながら、リーファは目一杯シアを睨み付けた。だがシアの手は弛まない。


「リーファの事情はよくわかんないけどさ、殺すだけが解決策な訳ないじゃん!相手が自分を殺すつもりならまだしも、別にこの人はリーファの敵じゃないんでしょ?」


 言いながらシアが首を傾げる。

『敵じゃない』……その言葉にリーファが僅かに反応した。

 一つ大きく息を吐くと、リーファはシアから視線を外し、男を見据える。


「同種のよしみだ。これだけは知っておくんだな。……この宇宙の何処を探したって、月猫族(わたしたち)の『味方』なんざ一人たりとも居ないんだよ」

「ッ!!」


 そうしてリーファは、シアに腕を掴まれたままジンシューを撃ったのであった。


読んで頂きありがとうございます。


実際の虎の耳は縞模様はなくて、生え際だけ金色で後は殆ど黒、中央だけ白っぽいって感じの耳なのですが、虎っぽさを出せるのが耳と尻尾だけなので、わかりやすく虎縞模様があることにしました……

全国の虎ファンの方々、お許しを

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