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覚悟

 名を呼ばれたリーファは、シアには目もくれず、男二人の前に降り立つ。

 リーファも男達同様、帝国軍の戦闘員である。最凶の助っ人に、町の人達は恐怖で顔を歪めた。シェパーも少しだけ表情を強張らせる。

 だがしかし、仲間である筈の男二人も汗をダラダラと流して「り、リーファ、様?」と目を皿のようにして驚いていた。


「ほ、本当にリーファ様だ……ま、()()()()()()()()とは……」


 男の一人が呟く。その言葉にリーファの耳がピクリと反応した。


「おい、『生きていた』とはどういうことだ?」


 リーファが脅すように凄めば、男二人は反射的に身体を飛び起こし「はいぃ」と情けない返事と共に口を開く。


「あ、あのぉ、しかし……き、気分を害されるやも……」

「良い。さっさと話せ、殺すぞ」

「し、失礼致しましたッ!!」


 瞬時に土下座をかませば、シア達そっちのけで、男二人は恐る恐る「実は」と説明し始めた。


「り、リーファ様の通信機や宇宙船の反応が、侵略しに行かれた星から消えて一週間。ターゲットの星は跡形もなく消え去っていて、ウニベル様のめいで周辺の星々をくまなく探すも、リーファ様を発見することは叶わず……その、あの……」

「リーファ様は……ターゲットの星と共にし、死亡したものとして、ウニベル様にほ、報告を……」


 非常に言い難そうに告げる二人。当然だ。生きているにも関わらず、死んだ者扱いされれば、誰だって怒るだろう。その上、リーファの怒りは自分達の死と同義だ。

 リーファが怒っていないか、ソッと見上げて確認する二人。リーファの表情に怒りの色が見えないことを確かめると、ホッと胸を撫で下ろした。

 怒っていないとなれば、話は早い。恐怖から解放された二人は満面の笑みで「リーファ様」とその名を呼んだ。


惑星ほしの爆発の中、生きておられるとは流石です!ウニベル様もさぞやお喜びになられるでしょう!!」

「ささっ、こんな星の難民ゴミ共はさっさと片付けて、帝国に帰りましょう!!」


 うやうやしくリーファに手を差し出す二人。

 しかしリーファが何か返す前に、黙って聞いていたシアが、我慢できないとばかりに「何言ってんの」とコレに反対した。


「リーファは怪我が治るまで、俺達と一緒に暮らすんだよ!!お前ら悪者なんかと一緒に帰られてたまるもんか!!」


 子供の駄々のようである。逆に町の人達から「何言ってんだ、シア」と怒声が届いたが、シアには聞こえない。

 シアの文句を受けて、二人の男はゲラゲラと笑い出した。


「ギャハハ!!命知らずな奴だ!!リーファ様がお前らみたいなゴミと一緒に暮らす!?そんなことする訳ないだろ!!」

「とんだ大馬鹿野郎だぜ、こりゃ!傑作だ!!さあ、リーファ様!あのガキを木っ端微塵に吹き飛ばしてやってください!!」

「…………」


 男二人はリーファがキレて、シアを殺すことを信じ切っているようだ。

 リーファは無言のままシアへと身体の向きを変えた。


 ……『お前らみたいなゴミ』……ねぇ……。


 心の中でリーファが呟く。

 とそこで、リーファはシアの頭にリボンのように巻かれてあるハチマキに目が行った。

 昨日出会ってから、シアがそのハチマキを取った姿をリーファは見ていない。寝巻き姿であった昨夜もだ。

 先程のシアとのやり取りがリーファの頭をぎる。



 ……『自分で受けたのは昨日が初めてだったけど、マッジで痛かったんだからさ』


 ……『もしかしてお前……ジンシューを使えるのか?』



 そこまで考えて、リーファは真っ直ぐ右手をシアに向けて突き出した。


「ちょっ!リーファ!?」


 ジンシューを警戒して、流石のシアも焦った声を上げる。その様子に後ろの男二人はニヤニヤと下卑た笑みを漏らしていた。

 だが、当のリーファは無表情のままで何を思っているのかわからない。

 リーファはソッと口を開いた。


「……お前、昨日からずっと、ハチマキを付けたままだな」

「へ?…………」


 あまりに場違いな指摘に、思わずシアから間抜けな声が溢れる。

 気にせずリーファは手の平にジンシューを生成し、照準をシアの頭に向けると、ニヤリと口角を上げた。


「もしかして……そのハチマキの下に何か隠しているのか?」

「イッ!?……えっと……これは……」


 明らかに動揺したまま否定をしないシアの反応に、リーファは予想通りと更に笑みを深める。追い討ちをかけるようにリーファは続けた。


「お前、自分の出自が知りたいと言っていたな。試してみるか?」

「!!」


 慌てていたシアがピタリと動きを止めて、リーファの瞳を真っ直ぐ見つめる。


「……何するの?」

「お前は何もしなくて良い。ただそこで、ジッと立っていれば良いだけだ。まあこの状況で、ジンシュー(コレ)を避けることなく、立ち尽くすなんてことができればの話だがな」


 リーファが見せつけるように、ジンシューの光を強くした。

 要はシアを試しているのである。

 リーファのことを信じられるか否か。

 どちらに転んだとしてもリーファにとっては都合が良い。信じられないと言われれば、やはり他人ひとの好意など信用できるものではないと、自身の正しさを証明できるし、信じられると言われれば、シアの正体がハッキリするだけだ。

 リーファは楽しげにシアの答えを待った。


「……」


 少しの間沈黙が続く。

 シアは少し悩んだ後、「あのさ」とゆっくり口を開いた。


「もしリーファの言う通り、俺がここを動かなかったら……そいつらと一緒に帝国軍って所に戻るの、やめてくれる?」

「……は?…………」


 今度はリーファが間抜けな声を漏らす番だった。構わずシアは続ける。


「自分の出自が知りたいってのも本当だけどさ。やっぱそれ以上に、俺……リーファと一緒に居たいんだよね。まだ告白の返事どころか、俺の気持ちもちゃんと伝わってるかどうか怪しいし。こんなところでお別れなんて絶対()な訳。だから……」


 そこで言葉を区切ると、シアが強い眼差しでリーファを見据えた。


「約束して!俺がここを動かなかったら、せめてリーファが俺の気持ちを理解できるようになるまで!俺と一緒に暮らしてくれるって!!」


 シアは本気だった。

 あまりにも斜め上で真っ直ぐな答えに、リーファは少したじろぐ。


「!……お、お前……町の人間の説得はもう終わったのか?私だけに約束を取り付けてどうする?」

説得それはまだだけど、大丈夫!絶対説得してみせるよ!!だって、町の人達は俺の家族みたいなものだから!初めて好きになったリーファのこと、何が何でも認めて貰いたいもん!!」


 ニッコリと微笑むシア。思わずリーファは押し黙った。


 ……『シアには『こいつなら』って思わせてくれる不思議な力があるんだ』


 ふとシェパーの言葉がリーファの頭の中に思い浮かぶ。

「なるほどな」とリーファは笑んだ。


 ……腹立つ奴だ……。


 周りからは、帝国軍二人の馬鹿笑いや、町の人々からの制止の声が飛び交っている。

 それでもシアが自身の意見を変えることはなかった。


「……なら頑張って、精々その甘さを貫いてみろよ!」


 リーファが到頭ジンシューを放つ。

 光の軌跡は真っ直ぐにシアの頭を捉えていた。


「ギャハハ!!バーカ!!まんまと騙されやがった!!」

「リーファ様に殺されろ!!!アッハハ!!!」


 男二人が高笑いを決める。


「シア!!逃げろーー!!!」

「避けてェ!!シーちゃん!!!」


 町の人々が叫声を上げる。


「…………」


 しかしシアは約束通り、一ミリたりとも動かない。

 その瞳にリーファへの疑念は、欠片すら見当たらなかった。

 よく月猫族相手にここまで信用できるなと、リーファ本人が感心する程である。


 ……さぁ、これでスッキリする。


 リーファが微笑む。

 そうしてリーファの放ったジンシューはシアの頭を掠めたのであった。

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