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町の『英雄』

 一方その頃、帝国軍の初撃により、町の一部を破壊された人々はパニックに陥っていた。


「キャアアア!!!」

「て、帝国軍だッ……到頭見つかった……ッ!」

「あの月猫族だ!あの月猫族が仲間を呼んだんだ!」

「シーちゃん、お願い!!この町を、私達を守って!!」


 恐怖、焦り、憤怒、嘆願。

 それぞれ狂ったように騒ぐ中、シアは一人冷静に宇宙船の着陸を見届ける。

 町から少し離れた所に着地した船はすぐにハッチが開き、中から戦闘服を身に纏った男が二人出てきた。種族名はわからないが、爬虫人種と魚人種のようだ。それぞれ皮膚の色が緑と青で、毛色の違う鱗で肌が覆われている。


「おいおい、ここは無人星の筈だろ?町があるじゃねぇか」

「よく見てみろよ。種族がバラバラ……ありゃ難民達の作った町だ。俺達帝国軍に襲われて、運良く逃げ切れた奴らの溜まり場なんだろ。そんなことよりもこの星、辺境にある割には結構資源が豊富そうだぜ?」

「ああ。始末し損ねた難民ゴミ共を一掃して、この星を手に入れりゃ、ウニベル様から特別報酬が頂けるかもな」


 下卑た笑顔を浮かべながら、低俗な会話を交わしている二人。

 どうやら資源目的でノール星にやって来たらしい。


 ……あれが帝国軍……リーファの仲間か……。


 そんな男二人の会話は距離的に聞こえていないのか、シアは男二人を見つめながら、戦闘服に付いたマークに注目していた。ドラゴンを模したマークは、リーファの元々着ていた服の上着にも付けられていたものである。あれが帝国軍のシンボルなのだろう。

 だが、リーファの仲間だからと言って、男二人を見据えるシアの表情は険しいものだった。


 ……あの二人からは悪意しか感じられない。皆の言う通り、帝国軍全員があの二人みたいに悪意の塊なら……シェパーさんがああ言ってたのも、皆がリーファを拒絶するのもちょっとわかる気がするな……。


 それだけ考えると、シアは額から流れた汗に気付いて、誤魔化すようにペロリと上唇を舐めた。そして「皆!」と町の人間全員に聞こえるように声を張り上げる。


「大丈〜夫!!この俺にまっかせっなさい!!ノールの町をこれ以上、あんな奴らなんかに壊させないからさ!皆は安全な場所に隠れてて!」


 ウィンクと共にグッと右手の親指を空に向けると、シアは帝国軍の二人に向かって歩き出した。

 二人もシアの存在に気付くと、小馬鹿にするような笑みを浮かべてシアと向き合う。


「おいおい、見かけねぇ種族だな。ガキが一人で俺達に何の用だ?」

「お母さんに命乞いして来るよう頼まれたのか?」


「ギャハハ」と二人の笑い声が重なる。

 当然だがシアのことを舐め切ってるらしい。

 シアは気にせず、「おじさん達こそ」と一切物怖じせず話し始めた。


「この星に何の用?いきなり町を破壊するなんて、ちょっと酷過ぎるんじゃない?復興するのも楽じゃないんだけど」


 ムッと苛立ちを露わにするシアだが、男二人は余計に嗤うだけだ。


「ギャハハ!!小僧、安心しろよ!復興作業なんてしなくて良いぜ!!どうせ今から、この星は俺達の物になる!!」

「そこに居る滅んだ種族の生き残り達も皆殺しだ!!」


 高笑いの後、男二人は同時に腕に付けてある光線銃をシアに向けた。


「「死ねッ!!」」


 直後、銃口からレーザーが発射される……がしかし。


「「!!?」」


 男二人が目を見開く。

 前に向かって放たれた筈のレーザーは何故か真上に向かって飛んでいき、まだ五メートル以上は距離があった筈のシアはいつの間にか男二人の懐まで入って来ていた。しかも銃を取り付けている腕がズキズキと痛んでいる。

 シアが男二人の腕を蹴り上げて、銃の軌道を逸らしたのだ。

 あまりの早技にそのことに気付けない二人は、不思議そうにしながらも「このガキッ!」ともう一度銃口をシアに向ける。だが向けた先に、既にシアの姿はなかった。


「ど、何処だ!?」

「あのガキ、何処に行きやがった!?」

「ここだよ」

「「ッ!!?」」


 声がして、二人同時に振り返る。瞬きの間にシアは二人の背後へと回っていたようだ。


「な、何だこのガキ……」

「い、いつの間に……」


 最初の余裕は何処へやら、二人は後退りしながら、警戒心を強めてシアを見つめる。シアの実力に気付くのが遅過ぎた。

 対してシアはと言えば、拍子抜けしたかのようにキョトンと首を傾げている。


「??リーファの仲間なんでしょ?おじさん達、弱過ぎじゃない?」


 シアが無意識に煽れば、様子を見守っていた町民達から「良いぞ、シア」「そのまま倒せ」と歓声が飛んで来る。

 一気に形勢逆転されてしまった男二人は、グヌヌと歯軋りを溢した。泣く子も黙る帝国軍の戦闘員が、こんな子供に馬鹿にされたとあっては宇宙中の恥だ。皇帝ウニベルにバレた日には、跡形もなく消し炭にされることだろう。

 男達は「舐めるなよ」と握り拳を作ってシアに向かって飛び掛かった。

 だが、シアは全く焦らない。


「グアッ!!」

「ギャァッ!!」


 突如オレンジ色の光線がくうを切ったかと思えば、シアが何もせずとも、男二人は悲鳴を上げて倒れ込んでいた。二人共腕に付けていた光線銃が壊されている。

 何が起こったか理解できない男達と違い、シアは表情を明るくさせると「シェパーさん」と光線を放った張本人の名を呼んだ。


「よっ、待たせたな……つか、待ってねぇか。余裕そうだもんな、シア」


 呼ばれた通り、シェパーがシアの隣にサッと降り立つ。その右手人差し指と中指からは微かに煙が昇っていた。


「「ウッ……グゥ………ッ!!」


 シェパーの登場に、男二人が地面に蹲ったまま呻き声を上げる。

 シア一人でも厄介なのに、更に仲間がやって来たのだ。その上攻撃手段の一つが壊され、打つ手がない。万事休すだ。

 そんな二人をシアは同情の眼差しで見下ろした。


「……シェパーさん、この二人どうするの?このまま縛って、宇宙に飛ばすの?」

「否否、いつもの賊じゃねぇんだ。逃せば、今度はもっと強い大軍で襲って来る!殺すか監禁するかだな」

「えぇ〜、殺すのは嫌だな。でも監禁って、この町にそんな檻みたいな場所あったっけ?」

「当然ねぇから、作るしかねぇよ」


 二人の処遇について、敵の前であーだこーだと言い合うシアとシェパー。

 完全に舐められた状況と屈辱的なシア達の言葉に、二人は奥歯を噛み締める。

 こうなったら、帝国軍に救援メッセージを送ろうと、銃とは反対の腕に取り付けてある腕時計型通信機に手を伸ばした……その時だった。


「何だ、帝国軍にしては随分と間抜けな奴らだな」

「「「!!!」」」


 帝国軍の二人も、シアとシェパーも、町の人間達も、一斉に声の主へと顔を空へ向ける。

 殆ど全員の表情が固まる中、ただ一人シアだけは嬉しそうに口角を上げた。


「リーファ!!」


 名を呼ばれたリーファは、フッと不敵な笑みを浮かべ、シア達の前に降りて来るのであった。

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