シアの謎
「リーファ!!ちょっと待ってってば!リーファ!!」
「ッ……」
全速力でリーファの後を追いかけていたシアが思いきり叫ぶ。これは止まってやるまで言い続けるなと判断したリーファは、面倒臭そうにしながらも空中で立ち止まった。
漸くリーファに追いついたシアは「もう」と頬を膨らませる。
「突然飛ばないでよ〜!いくら小さな惑星って言っても、見失ったら探せないじゃん」
「ムゥ〜」と文句を言うシアだが、リーファは「知るか、一々追いかけて来るな」とつっけんどんな態度で返す。
だがシアにその声は届かなかったのか何なのか、気にした様子もなく「それよりさぁ」と、既に表情を笑顔に戻してリーファとの距離を詰めて来た。
「リハビリって何するの?内容適当で良いならさ、俺と一緒に町に行かない?おつかい手伝ってよ」
「はぁあ!?何で私が……というか、おつかいの何処かリハビリだ!?」
図々しいシアの提案に憤慨するリーファだが、シアに折れる気はないらしく「ねぇねぇ、良いじゃん。行こうよ」とニコニコ笑いかけてくる。
リーファは「チッ」と聞こえるように舌打ちした。
「馬鹿か!?昨日のアレ、見てなかったのか!?私が町に入れば、また町の奴らが騒ぎ出すぞ」
自虐気味にリーファが述べれば、シアは「そうかなぁ」と首を傾ける。
「昨日は皆、急だったから驚いちゃっただけさ。皆、すっごく優しいからさ!リーファの事情を知れば、きっとすぐに理解してくれるよ!」
ニコリと微笑むシア。その表情に疑いは微塵もない。本当に町の人間がリーファを受け入れてくれると信じているようだ。
……何処まで甘い奴だ……。
リーファが内心吐き捨てる。
例えどんな事情があったとしても、仇の仲間を許せる訳がない。そもそも何処までの事情を知っているかは人によるが、月猫族の大まかな情報なら宇宙中の誰もが知っている。何も知らないシアが特殊なだけだ。
月猫族の母星が消滅していることも、月猫族自体がほぼ絶滅状態にあることも、他星を侵略しているのが皇帝ウニベルの命令によるものであるということも。
殆ど全ての人間が知っていると言っても過言ではない。
それでも月猫族の特徴である耳と尻尾を見れば、誰もが怯えて恐怖する。昨日のノールの人々のように。そこに月猫族に対する同情なんてものは微塵もない。
だがシアはそんなこと知りもしないだろう。
……『知らずに生きていけるなら、その方が幸せだと思ったんだ』
リーファはふと先程のヘキムの言葉を思い出す。
確かにその通りだとリーファは思った。
何のしがらみも禍根も知らず、他種族とも本気で仲良くできると信じ込めることがどれだけ平和で幸福か。まあ現実を知った時、馬鹿を見るのは確実だろうが。
……そうだ。思い知れば良い。自分がどれだけ馬鹿みたいな台詞を言ってるか。
リーファはニヤリと悪い笑みを浮かべた。
リーファが何を考えているかなど露知らず、シアは変わらず「ねぇねぇ」と笑いかけてくる。とそこで、リーファが「おい」と口を開いた。
「町、行ってやる。昨日結局、お前の所為で宇宙船があるかどうかも、聞けず終いだったからな」
「ホント!?ヤッター!!行こ行こ!」
大袈裟なまでに喜ぶと、シアは当たり前のようにリーファの手を取る。
「ッ!?き、気安く触るな!!」
慌てて手を引っ込めるリーファ。シアは「えぇ〜」と意地悪く笑うと、今度はリーファの頬を指で突いた。
「こんなに真っ赤になってるのに?」
「ッ〜!!殺す!!」
当然だが、シアの揶揄いはリーファの怒りの琴線に触れたらしい。お馴染みの光の玉を手の平に生成したリーファは、躊躇なくシアに向けて放った。「おっと」という軽い掛け声と共に玉を回避したシアは、直後遠くの森から聞こえた爆発音に「うわぁ」と何とも言えない声を漏らす。
「照れ隠しで森爆破するって、流石に短気過ぎない?」
「だったら、お前が責任とって攻撃を受ければ良いだろう!?」
「嫌だよ!自分で受けたのは昨日が初めてだったけど、マッジで痛かったんだからさ!」
昨日の激痛を思い出したのか、シアが包帯だらけの両腕を摩る。だがリーファはそんなことより、シアの発言の方が気になった。
……『自分で受けたのは』?
リーファが片眉だけを吊り上げる。
まるで「受けたことはないが、自分で攻撃したことならある」とでも言うような言い方だ。
……そう言えばコイツ……。
リーファはあることに気が付いた。
呑気に爆煙がモクモクと立ち上がっている森を「うひゃ〜」と見物しているシアを見つめながら、リーファは「おい」とぶっきらぼうに呼びつける。
「何……イッ!?」
素直にシアが振り返れば、視界に入ったのはリーファの姿ではなく、突き付けられた右手の平から生まれている光の玉。反射的にシアは身体を仰け反らせた。
だかしかし。
「…………あれ?」
シアが首を傾げる。
すぐに放たれると思った光の玉は、一向にリーファの手から離れることなく、終いには何処にも撃たれることなく消散されてしまった。
リーファの意味不明な行動に、シアは頭の中をハテナで埋め尽くす。
だが、そんなシアの内心など興味もなく、リーファは「やっぱり」と心の中で確信した。
……コイツ、コレを知ってるんだ。
初めてリーファがシアに向けて光の玉を撃った時も先程も、シアは身体の反射で玉を避けている。初めて避けた時はリーファの殺気に反応しただけかもしれないが、先程リーファは殺気を出していない。つまり『反射』できる程、身体が光の玉に慣れている証拠であった。
しかしそれには疑問がある。
リーファは訝しむようにシアを見つめた。
「お前、コレが何だか知ってるのか?」
聞きながら、リーファが見せつけるように光の玉を作る。シアには質問の意図がわからないが、「ああ!それね!」と思い出したかのように両手をポンと合わせた。
「ずっとリーファに聞こうと思ってたんだよ!この光の玉って一体何なの?」
「…………」
質問に質問で返すシア。あまりにも間抜けな切り返しに、「知ってたんじゃないのかよ!?」とリーファは心の中でズッコケた。しかし、シアのペースに呑まれれば話が進んでいかないので、溜め息と共に気持ちを落ち着かせると「コレは」と説明を始める。
「『ジンシュー』……簡単に言えば金属の粒子だ。種族によっては、その種族にしか扱えない異能の力を持つ者達が居る。超能力と呼ばれる力だが……いくら何でもお前、知ってるだろ?」
「えっと……兄ちゃんの癒しの力とか?」
「ああ。ヒルバド星人の超回復も超能力の一つだ。そして、月猫族が持つ超能力が『ジンシュー』だ。自身の周りに在る金属の粒子を自由自在に操り攻撃する。月猫族だけの技だ」
「月猫族、だけの……」
シアが復唱する。
そう。リーファが謎なのはその部分だ。
シアは月猫族のことを全く知らなかった。情報もなければ、会ったこともない。にも関わらず、何故光の玉……もといジンシューを躱したのか。見た目だけでは攻撃か否かはわからない。少なくとも何も知らずに反射で避けることはできない筈だ。
シアはジンシューが攻撃技であることを知っている。詳しい事を何も知らなくても、月猫族に会う前から見たことがある筈なのだ。
「お前、何故ジンシューを反射で避けられた?月猫族のことを知ってる奴なら、ジンシューの事もよく知っている。実際に襲われたことがあるなら、反射で避けることも可能だろう。だがお前は月猫族のこともジンシューのことも、何も知らずにコイツを避けた。さっき『自分で受けたのは』とか言っていたな。もしかしてお前……ジンシューを使えるのか?」
リーファが鋭い目でシアを睨み付ける。
だがシアはと言えば、軽い口調で「それなんだけどさぁ」と顎に手を当てながらあっけらかんとしていた。
「多分俺……」
「シア!!」
「「!?」」
シアの声を遮って、突如響いた男の声に、二人は揃って声の方へと顔を振り向ける。
オレンジ掛かった明るい茶髪に、葡萄のような丸い瞳。身長はリーファより低く、まろ眉も相まって非常に顔立ちが幼い。凛々しい声とは対照的な見た目であった。
「シェパーさん!!」
シアがパッと笑顔を見せる。
シェパーと呼ばれた少年のような男は、やれやれと困ったように「よっ」と片腕を挙げるのであった。
呼んで頂きありがとうございます。
今更ながらの補足説明です。
リーファもシアも当たり前のように空を飛んでいる描写がありますが、空を飛ぶ種族は限られています。
一つはヘキムのように、身体の一部に羽が生えている種族(鳥人種や虫人間など)
そしてもう一つが、超能力持ちの種族です。
羽を持っていない種族が飛べる原理は飛行機と似たようなもので、重力に逆らえる巨大なエネルギーを発射することで、その反動で空気を押し、空を飛んでいます。その使われるエネルギーが超能力の元と同じで、体内に流れるその種族だけのオリジナルの力の源です。(魔法を使う為の魔力や、呪術を使う為の呪力的な奴です)そのオリジナルのエネルギーを外へ放出することで、重力に反して空を飛んでます。
ちなみに、超能力を持っていない種族も飛ぶことはできますが、オリジナルのエネルギーがないので、命を削ることでエネルギーを生み出し、空を飛びます。その為、余程追い詰められた状況でない限り、超能力も羽もない種族が空を飛ぶことはあり得ません。
飛ぶこと自体はどの種族もできる!
裏設定でした!!
次回もお楽しみに!




